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17話(マティアス視点)

 クロードの視察に付き合っている際、抗議文が正式に受理されたと知らされ、ホッと胸をなで下ろした。


(これで騎士団内に湧いているくだらない噂も消えるだろう)


 ここ最近、騎士たちが、ノイス国の人と付き合っているのかと聞いてくることが増えてきた。


(あり得ない……)


 リイナと付き合っている今、そんなデタラメな噂で悲しませたくない。

 会えていない寂しさが胸中で溢れている中で更に苛立つようなことを言わないでほしい。

 抗議文が受理されたと知れば、言わなくなるだろう。

 もし、それでも言ってきたら実力で叩きのめす。


 そう決意しながら視察についていくと、時折クロードが気遣いげな瞳で見てくることに気がついた。

 最初は、忙しさを申し訳なく思っているのかと思ったが、そうではなさそうだ。

 臣下に対し、何か言い淀むなど珍しい。


「あれ?ミリアさん……?」


 クロードの言葉に後ろを振り向くと、周囲をキョロキョロとしながら涙を浮かべている、ミリアの姿があった。

 泣きそうな姿も、子どもの頃のサラサと瓜二つだ。

 小姓として傍にいて、一時的に偽装とはいえ婚約者になったサラサは、クロードやラクアと同じく、王族として守るべき対象だ。


 だからか、初対面の時、幼少を共に過ごしたクロードやラクアやサラサの姿を思い出し、思わず笑ってしまった。

 何故か騎士達から推薦された世話人という立場上、王宮にいる間はミリアを守らなければならない。

 できれば他の人間に引き受けて欲しかったが、引き受けたからには職務を全うするべきだと、ミリアの元へ向かった。


「マクナルさん」

「あっ、マティアス様にクロード様……こんにちは」


 話してみると、サラサとは違い病弱で、構ってくれる人間に甘える性格のようだった。

 出会った当初は自分としか話さなかったが、ようやく周囲の人間とも話せるようになったことだし、そろそろお役御免して、仕事量を減らしたい。


(ベッティさん不足だ……)


 自業自得とはいえ、書類業務が多く、更にミリアの世話も加わり、忙しすぎて会えない。

 仕事が終わった夜中にリイナを訪ねるようなことはしたくない。

 そんなことをしたら、あの男が言ったように狼になってしまう。

 あの男──ルイスについて考えると、嫉妬の炎が胸に宿る。


(手に口づけなんて……ベッティさんもなんで無防備でいるんだ……)


 ルイスも言っていた通り、あの無防備さは恐ろしくもある。


「ミリアさんは、ルイスを追って迷子になったみたいだ」

「ルイスさんを……ですか?」

「はい。兄はラクア様やリックさんやリイナさんとお出かけしたそうです。あっ、護衛にマークさんもいるらしいですよ……」


 マークやリックがいるなら一安心だと思うのと同時に、ルイスとリイナが共にいる状況に、心が波立ってくる。

 ミリアは、5人が市場に行ったという情報から、ここに来れば会えると思ったのに、会えずに途方に暮れていたそうだ。

 ルイスと明確な約束をしていないのなら、随分と向こう見ずな性格だと息を吐く。


「あの……以前、マティアス様が教えてくれた爆弾マンを食べてみたいんですけど、どこにあるか教えていただけますか?」


 小首を傾げ、申し訳なさそうに言っているミリアの願いに、どうするべきかとクロードを窺った。仕事中でも、クロードが良いというなら従うしかない。


「私達はこれから売っている近くまでは行くから、買ってくればいいよ」

「ありがとうございます!あの、マティアス様は……」

「私はクロード様の護衛ですので」


 暗に、付き合う気はないと伝えると、眉を下げて残念そうに頷いている。


「でも、何かあったら守ってくれるんですよね……?」 


 世話人として接しているからか、変に懐かれてしまった。

 正直、甘えられるならリイナが良い。

 むしろもっと甘えて欲しいのに、全然甘えて来てくれない。

 お守りを渡してくれた時は、俺を想って。縁談話の時は、不安になって泣いていた。

 今も、何らかの理由で泣いていないだろうかと心配になる。


(泣いていたのを見たのは、ラクア様を守ってくれた時が初めてだったな……)


 王太子妃候補の友人が平民だというのを、最初は快く思わなかった。

 なのに、ラクアを守り、ボロボロと泣いていた姿を見た途端、そんな気持ちは塵となった。


(あの時から……いや、思えば再会してからは、ずっと目が離せなくなっている)


 ラクアを守るためのアドバイスを真摯に受け止めてくれた瞬間から、リイナに一目置いていた。

 リンゴを受け取ってくれた時に見た笑顔が、なぜか忘れられなかった。

 トドメの涙で、完全に落ちたのだ。リイナのする恋愛バイブルなんて、元から恋に落とされた相手にしても無意味だろう。

 リイナは失敗ばかりだったと言っていたが、何度も理性を揺るがされ、手や髪の毛に軽率に触れてしまっていたのだから、あのまま更に続いていたら、告白をする前から危なかった。


(ベッティさんに会いたい……)


 クロードの後ろにつきながら、爆弾マンのお店の前に到着すると、看板が立っているのが見えた。

 今度の新作は、チーズカレーとピザ味らしい。


「マティアス様。一緒に食べませんか?」


 無邪気に袖を引っ張ってくる腕をソっと外し、首を振る。


「今日はクロード様の視察に来ているので。それに……」


『……ありがとうございます。でも、次に新作が出たら私が払いますからね!』

 リイナに払わせるつもりは毛頭ないが、新作が出たら一緒に食べようと決めている。


「約束している人がいるので」


 やんわりと断ると、ミリアの表情が沈んでいく。サラサと瓜二つの顔でそんなことをされると、若干罪悪感が湧いてくる。

 部下達がいると、それくらい付き合ってあげたらと囃し立てるが、今はそれがいない。

 だからミリアも強く出ないのだろう。


 クロードが拒否しないのを良いことに、一緒に歩きだしているが、どこまで一緒に来るのだろうか。

 次にクロードが向かったのは、露店の中でも賑わっていたお店だった。

 ミリアが興味深そうに店を見て、クロードはクロードで店内の様子をマジマジと見つめている。


「マティアス。これ、どこかで見たんだけど、思い出せる?」

「これは……確か、サウラン国の民族衣装にこの紋様が使われていたと思います。数年前に使者で来た方も着ていたと思いますよ」


 クロードが示したのは、棚に飾られている布地だ。

 布地には各国の紋様があり、クロードが示した以外にも、ノイス国やスルダム国で使用されている紋様が入った布地が置かれていた。

 現地に赴かないと買えない品々は貴重だ。


 最近露店を出したようで、視察して良かったと思う店に出会えた。

 店で売っている物だけじゃない。

 そこまで各地の物を揃えられる店主と出会えたことが、一番の収穫だ。


「俺の店と、市場の外れに出している装飾品店が各地で色々と仕入れていますよ。物好きな女でよぉ。曰く付きのアクセサリー仕入れてたりしてたな」


 王族やリイナ達が出かけるような場所で、あまり危ない店を出して欲しくないが、露店の許可を得ている以上何も言えない。

 ただ、アクセサリーというのは気になった。

 リイナに会えない中で、お互いの存在を感じられるのは、お揃いのアクセサリーだろう。

 あまりに派手な装飾品は無理だが、例えば、指輪なら。

 ネックレスにしても、指に付けてもいい。


「その装飾品店には、指輪もあるんですかね」

「あると思うぜ。お、なんだいい仲の人でもいるんですかい?」

「そう、ですね……」


 リイナのはにかんだような笑みを思い浮かべるだけで、頬が緩んでいく。

 指輪を渡したら、どんな表情で受け取ってくれるだろうか。


「マティアス様。一緒に装飾品店に行ってみましょう?」


 強引に考えをキャンセルされ、眉間に皺が寄ってしまうが、客人を邪険にするわけにも行かず、ため息を小さく吐くだけに留まった。


「ルイスさんと行ってみては?」

「アクセサリーを兄と見ても楽しくないですよぉ」

「良いじゃねぇか。行ってやんなよ」


 ニカッと人懐っこい笑みを浮かべた店主は、クロードからのちょっとした質問にも、スラスラと答えていく。


「今度、話しを聞きたいのだが、都合はどうだろうか?」

「光栄ですが、俺でいいですかい?」

「ああ。よろしく頼む。詳しい話は、後ほど王宮から遣いを出す」


 今日の一番の目標である、もう少ししたら具体的に話しが進む、王宮のとあるパーティーで必要になりそうな布地を回収できそうで良かった。


「マティアス様〜。指輪見に行きましょう?」

「マクナルさん。私は、クロード様の護衛がありますので」


 クロードの話しを片耳に聞きながらミリアの相手をするのは些か疲れてきた。

 クロードも装飾品店に興味がありそうだし、指輪を見たいから一緒に行くのは構わないかと考えていると、クロードに肩を掴まれた。


「マティアスが何も知らないのは、長年傍にいてもらっているから、よく分かる」

「はい?」

「ただ、マティアスは王宮内で広がっている噂話の内容を知るべきだ。知ったらすぐ、態度や言葉を使って真摯に対応してほしい。間違えたら大切な者を失うよ」


 普段とは違う、王太子としての瞳が目の前にある。

 自分は一体、何を知らないんだろうか。

 疑問に思いながらもクロードとミリアと共に装飾品店に行くと、少し疲れた顔をした店主がいた。


「どうされました?」

「私のせいで事件に巻き込んでしまった方がいまして……ああ、貴方達に危害はないと思いますので」


 店を見る分には問題ないそうだが、事件というのが妙に胸に引っかかる。

 そう言えば、リイナ達はどうしたのだろうか。

 どうせなら一目会いたかった。


(これは……)


 ふと、気になった指輪を1つ取る。宝石部分は、空に翳すとキラキラと虹色に輝く。

 まるでリイナの表情のように、美しく、様々な色を持っている。

 一度この指輪を見てしまうと、他の物は目に入らなかった。


「これを買いたい」

「お目が高い!珍しい宝石で作られた指輪なんですよ」


 確かに、指輪についているのはあまり見たことのない宝石だ。

 この指輪は、幸せの指輪と呼ばれているらしい。


「指輪についている宝石は、渡した相手に対して思いが強ければ強いほど……なんだっけな……幸せにできる……いや、奇跡を起こす……元気になる……だっけ。あれ、そもそもこれいつ仕入れたっけなぁ……」


 どれもしっくりこないようで、首を捻りながら悩んでいる。


「これは、サウラン国の古い屋敷で見つかった指輪を綺麗にし直したんです。ついている宝石が持ち主の幸せを叶えてくれる代物だったような……。宝石が盛んに取れていた年代の文献は読みにくくて途中で投げ出したんですよねぇ……」


 国は陸続きではあるものの、多少の言語の揺れがある。

 特に昔の文献なんかは、顕著に表れていて、それぞれの国で意味や表現が違うせいで、誤訳も多い。だから断念する人も多いのは納得する。


「同じ宝石は過去に数回しか見た記憶がないんですけど、その子は過去一の輝きを放っているので、良い贈り物になると思いますよ」

「そうですか……」


 サウラン国ならリック辺りに聞けば何か分かるかもしれない。

 どうせなら意味も知ってから渡したい。


「その指輪可愛いですね。あ、こっちのチェーンネックレスと合わせて買いましょうよ」


 ミリアの言葉にチェーンも見てみるが、リイナには似合わなそうで、首を横に振った。


「マティアス様。他にも私に似合いそうなアクセサリー見つけてください」

「申し訳ありませんが、そういったものには疎いので、お力になれないと思います」

「え?でも、その指輪は買うんですよね?」

「ええ。そうですね。彼女に似合うと思うので」

「ふーん……」


 これは、自分がリイナに渡したい物だから、ミリアに似合う物は分からない。

 兄であるルイスの方が分かるのではないか。

 ふとクロードの方を見ると、なんとも形容し難い顔でミリアを見ている。


「クロード様?」

「……なんでもないよ」

「折角ですから、ラクア様に何か購入されては?」

「そういえばお守りのお返しをしていないな……」


 クロードも、ここ最近色々と厄介ごとが多すぎて、ちゃんとした贈り物をしていないらしい。

 本当は、手作り品を返したかったそうだが、別日にしようと決めたようで、自分もその時は同伴に与ろうと決め、2人で品々を見ていく。


「ラクアにブローチはどうだろう?」

「喜ぶと思いますよ」

「リイナとお揃いの方がもっと喜ぶかな」


 これとかどうだろうと、花のブローチを示され、2人が揃って付けている光景を思い浮かべる。

 花のように笑う2人の姿が、クロードも思い浮かんだのか、ほんのりと笑みを浮かべながら買っている。

 自分もそれに合わせ、ブローチと指輪を買ったが、店主の面を食らったような顔をしているのが気になった。


「どうしました?」

「いえ……プライバシーが……いや、でも、同一人物だったら……」


 眉間に皺を寄せて何やらブツブツと言っている。


「マティアスは買えたか?そろそろ王宮に一度戻らないと」

「はい」


 指輪とブローチを懐に入れ、店主を見る。


「何か伝えたいことがあったら、私宛にお願いします」


 何故かは分からないが、店主の言葉を聞かなければならない気がする。

 店主の頷きに小さくお辞儀をして、クロードの後を追っていった。




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