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12話

 クロードのお言葉に甘えて、王宮にいる間は図書館員の補助として業務に携わっている。

 業務は多岐に渡り、カウンター業務に資料の分類や整理、簡単な問い合わせの受け答えや掃除など、補助といえど結構忙しい。

 力仕事が多くて、思ったよりもハードで嫌だと辞めてしまう人もいるそうだ。


「リイナちゃんは普段は本屋で働いているんだよね?」

「あー、あの街の本屋?」


 以前来た時にも優しく教えてくれた図書館員のお姉さんとお兄さん──マリーとアルベルトが、一時帰宅に向かう途中に話しかけてきた。


「そうです。2年くらい働いています」

「あら、やっぱり即戦力。いっそ期間限定じゃなくて、長期的にここで働かない?」

「へ?」

「ああ、俺もそう言おうと思ってた。福利厚生しっかりしてるし、貴族間では色々とあるだろうけど治安も悪くないし、飯旨いし」

「ちょっと考えておいてくれる?」

「……はい」

「今日は一時帰宅だっけ?気をつけてね」

「そうなんだ。気をつけろよ〜」

「ありがとうございます」


 2人に手を振りながら、帰る途中に見えた騎士団の演習場を見つめた。

 今日もマティアスが皆にアドバイスを送りながら演習を進めている。

 図書館の仕事は大変だけど楽しいし、働いている人達も優しい。

 図書館で働けば、マティアスの姿が見えて、自分も頑張ろうと思える。


 福利厚生もしっかりしていて、悩む必要はないけど、長年お世話になっている、自分が好きな本屋から離れる選択肢があるとは思わなかった。

 悩みながら門に行くと、帰宅に付き添ってくれるマークが既に立っていて、慌てて駆け寄る。


「お待たせしました!」

「いーえ。準備良いっすか?」


 私服姿だと若々しく感じるし、腰に携えている剣がなければ騎士として働いているように見えない。

 街の人間にもそう見えるのか、見知った人に揶揄われてしまった。恥ずかしい。

 そう思いながらマークを見ると、顔面蒼白になりながら誰かに向かって謝っている。

 一体どうしたんだろうと思いながら家までの道を歩いていると、市場を通り抜けた後くらいで、段々と人気がなくなってきた。

 マークの口数も減り、どことなく緊張感に包まれる。


「……ベッティさん。俺から離れないでください」


 いつになく真剣な声色。剣の柄に手をかける動作。

 マークに言われた通り傍に寄ると、手を引っ張られ、木とマークの間に庇われた。

 前方には、ローブを着た男性が1人。持っていた短剣を地面に置き、ゆったりとした足取りで近づいてくる。


「その場から動くな。何が目的だ」

「分かりました。……私たちに戦う意思はありません。リイナ•ベッティさんとお話がしたいだけです」

「ここで話せ」


 マークは、いつものように飄々とした態度はなく、厳しい声色を男性に向けている。


「私もそうしたいのは山々なのですが、上の者が許さないので。しかるべき場所へご招待します」

「あんたら、ノイス国の人間?」

「……」


 マークが、チラリと視線を何処かに向けながらの問いかけが続く。

 両手を上げて戦う意思がないことを示し、問いかけに素直に応じていたのに、ノイス国か聞くと思案しながら首を傾げた。

 もし、国同士の話となると、許可がなければ下手なことは言えない。ローブの男性もよく分かっているようだ。

 ジリジリと続く緊張感の中、木の後ろ辺りから別の男性が現れ、手を伸ばしてきた。


「面倒くせぇなぁ。とっととこのリイナって女をお嬢さんに届けようぜ」

「キャッ!」


 腕を乱暴に掴まれ、痛さで顔が歪む。


「やめろ!その手を離せ!」

「はあ!?お前どっちの味方だよ!」


 今まで紳士的に話していたローブの男性が声を荒げた。

 仲違いだろうか。ローブの男性が何やら唱え始めた瞬間、リイナの腕を掴んでいた男性が怯んだ。


「待てよ、なんで俺を攻撃しようとしてるんだ」

「彼女を不必要に傷つける必要はないはずだ。その手を離せ」

「……分かった」

「ベッティさん。こっちっす!」


 マークが、尻込みをした男性からリイナを引き離してくれた瞬間、どこからか剣を構える音が聞こえてきた。


「暴行罪の現行犯だ。捕らえろ」


 底冷えするかのような殺気立った声。聞き慣れた声のはずなのに、マークの顔が青ざめている。


「マティアス様……」


 マークの言う通り、現れたのは、マティアスと数名の騎士。

 舌打ちをしながらも、抵抗の意思がない男性を捕縛している。


「……そこの男」


 ローブを目深に被った男性は、マティアスのピリピリとした殺気には反応せず、深くため息を吐きながら項垂れた。


「ベッティさん。すみません。腕、痛むようでしたら──」

「彼女に話しかけるな」

「はい。分かりました」


 ローブを被っていて表情は見えないが、返事が軽く、飄々とした態度だ。マティアスの眉間の皺が深くなる。


「あの人にもまずは手紙でお伺いしろって何度も言ったのになぁ。そりゃ、ベッティさんの方が何倍もかわ……ああ、はい、歩きますよ」


 緊迫感のある状況でもペラペラと話す勇気があるのか、それとも怖さを隠しているのかは分からないが、ローブの男性も大人しく捕らわれている。

 何が起こっているのか、全く分からない。

 怒涛の展開についていけずヘタリ込むと、近くにいたマークと、騎士に指示を飛ばしていたマティアスがすぐにやってきてくれた。

 怖さと、安堵と、助けられた感謝と、思考がグチャグチャで頭がパニック状態だ。


「ベッティさん……。マーク。荷物は詰所の騎士に取りに行かせる」

「はいっす。あの、ベッティさん。守りきれなくて、すみません」


 そんなことはない。マークはしっかり守ってくれた。フルフルっと首を横に動かすと、申し訳なさそうに微笑まれた。


「いえ。護衛対象が一瞬でも敵の手に落ちたのは俺の落ち度なんで」

「マーク。詳しい話しは後で聞くが、視線で他の騎士に連絡を取るようにお願いしてくれたお陰ですぐに対処できた。それにベッティさんもすぐに取り返せている。それはお前の功績だ。誇って良い」

「あのローブの男に助けられてますけどね……」


 悔しそうな声を滲ませているマークの肩を、マティアスがポンっと叩いている。


「反省は後だ。ベッティさんを王宮に連れて行ってくれ」

「マティアス様は?」

「……少し時間をもらう」

「了解っす。王宮で話しを聞く準備だけしてもらえるよう伝えてきますね」

「ああ……」


 マティアスの気落ちしたような声色に、まだ呆然としていた瞳を上げると、苦悶の表情が見え、目を瞬かせる。こんなマティアスは見たことがない。


「エルター様……?」


 自分が出したとは思えないか細い声に、自分自身も驚いているが、それ以上にマティアスが傷ついた顔を見せた。

 そんな顔をしないでほしい。何かに傷ついたなら、癒してあげたい。

 そんな思いでマティアスの頬に手を伸ばす。


「エルター様。大丈夫ですか?どこか具合でも……」

「っ、どうして貴女は……!」


 動揺したように声を詰まらせたマティアスに手を取られ、ビクッと肩を震わせた。

 捕らわれた手は、マティアスの頬に伸ばされ、唇を寄せられた。

 一連の動作にドキリと胸が高鳴る。


 動こうにも動けず、固まったように行動を見守っていると、切れ長の目と視線が合った。

 恥ずかしくて、俯きたいのに、視線が外せない。先に視線を外したのはマティアスだった。

 リイナの肩に顔を乗せ、重苦しい息を1つ吐いた。


「貴女が無事で良かった」

「助けていただきありがとうございます」


 安堵の感情が全身に広がり、息がしやすくなってきた。

 マティアスに笑いかけると、今にも泣き出しそうな顔で微笑まれ、心臓が鷲掴みされたような衝撃を覚える。


「俺に礼を言われる資格なんてない」

「え?」

「俺のせいで君が狙われたんだ。すまない……」

「どうしてエルター様のせいなんですか?」

「それは……」


 言葉を詰まらせたマティアスに対し、もしかして聞いてはいけないことを聞いたのかもと、慌てて首を振った。


「話したくないのなら、話さなくて大丈夫です!」

「いえ、説明させてください。ただ、帰ってから話しましょう」

「分かりました。なら、エルター様も一緒に帰りましょうね?」

「いや、俺は……」


 いまだに顔面蒼白なマティアスをそのままにしたくない。

 何か話題を振って少しでも表情を明るくさせたいなと適当な話題を振った。


「エルター様ってたまに一人称が俺になる時がありますよね。どう使い分けているんですか?」

「えっ?」


 問いかけに不思議そうな顔をしたものの、今さっきの会話を反芻したのか、口元に手を当てて困惑顔を浮かべている。


「もしかして、今までも何度かありました?」

「そうですね」

「そう、ですか……」


 使い分けているのかと思っていたけど、どうやら無自覚だったらしい。

 恥ずかしそうな顔に、思わず胸がキュンキュンしてしまう。


「クソ……貴女の前だと、素が出てしまうらしいな……」

「ダメなんですか?」


 むしろ嬉しいのに。首を傾げながら聞くと、何度か視線を彷徨わせた後、また視線を合わせてきた。


「ダメです」


 拗ねたような、恥ずかしいのを隠すような言い方が可愛い。

 マティアスと話しているうちに全身に血が巡り、立ち上がれるようになった。

 手を貸してもらいしてながら立ち上がると、マークの呼び声が聞こえてきた。


「お二人ともー。王宮で話す準備が整いましたよ」


 手を振るマークに手を振り替えしつつ、監視がいなくなった安堵と、マティアスの話の内容に不安を抱きながら王宮へと帰っていく。




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