10.5話(リック視点)
ベンチに座りながら普通に語らっているように見えるだろうが、実際は周囲を常に警戒している。
マティアスに至ってはいつでも飛び出せるよう、剣の柄に手をかけていて、隣にいて少しだけ怖い。
「あいつら知ってる奴か?」
「ノイス国の人間だな。服装は変えているが、会合で見たことがある」
「なら目的は……」
「恐らく、クロード様と近しい人間の調査だろう。俺も調べられた」
「だからリイナまで調べられて……いや……」
今警戒しているのは、クロードが帰国した辺りからリイナを監視している──マティアス曰くノイス国の人間だ。
何故、ただの平民のリイナを調べるのか。そもそも、調べたらすぐラクアの大切な友人だとすぐに分かりそうだが。
「教師としての見解は」
「はあ?教師は万能じゃないんだぞ」
最近は、クロードからもサウラン国について教科書を超える内容を聞かれて大変なんだがと心の中で呟く。
(まあ、王太子として成長しようとしているんだろうけど……)
クロードやラクアだけではなく、マティアスの身辺も探られていた。それがリイナにも飛び火したようだ。
ラクア直々に、リイナを守ってほしいと頼まれたせいで、ここ数日、教師以外の仕事が増えている。
(守るのは良いとしても、ここまでリイナが監視される理由はなんだ)
会合でリイナの話題は出てなかったと聞いている。
クロードとエララとの茶会でも、それらしい話しはしていないと言っている。
(ラクア様とクロード様の調査ついでにするなら分かるが、あの場にいた人間で他にリイナに関係するとしたら……マティアスか?)
一瞬嫌な予感がしたが、首を振って思考を中断する。
マティアスは普段は冷静なのに、図書館前の会話を思い出しても、リイナに関しては直情型だと思われる。
余計な憶測を入れないようにした方がいいと細心の注意を払った。
「マティアス。根拠のない推測をするなよ。勝手に予想して行動するのは危険だ。誤った判断をしてリイナを危険に晒したくない」
「……そうだな」
リイナから少し離れた位置に、数人の人間が立っている。
ただ、リイナに危害を加えるような敵意も何も感じない。
あったら、飲み物を選んでいる背後に近づくだろう。
自分の安寧のためにいっそ捕らえたいところだが、何もしていないのに拘束したら、自国の人間だとしても問題になる。
他国の人間なら尚更だ。
今は注視しながら、情報を集めるしかない。
リイナへの監視を気にしながら、黙っているより何か喋った方が良いだろうと、適当な話題を切り出した。
「リイナがバイブル100選読んでるらしいな」
「ああ。リックは内容を知ってるのか?」
「元々はラクア様が持っていた本だからな。小さい頃はクロード様に試していたとか、雑談ついでに聞いたことがある」
「……」
「リイナはどんなことを試してるのかねぇ。……なあ、相手は誰だろうな?」
「知らん。ただ、お前じゃないことは確かだ」
「おーおー、その憮然とした顔」
「元からだが?」
爆弾マンを齧り、楽しげな表情でマティアスを見る。
「そうか?前より感情豊かになったぞ」
「それは……すまん。ちょっと行ってくる」
話を切り上げ、飲み物を抱えるリイナの元にマティアスが向かっていくのを見つめる。
スキンシップを止めようとしてきたり、2人で出かけようとしたり、距離感が近かったり。
今日なんかは遠目で見ていても分かるほど、リイナの服装と行動に戸惑っていた。
誰が見ても明らかに特別扱いしているし、瞳の奥に潜んでいる熱は、リイナだけに向けられている。
(監視はマティアス絡みだろうな)
さっきは憶測はするなとか言って煙に巻いたが、ある程度予想は立てていた。
何せ、クロードやラクアやマティアスの監視は、1日にも満たなかったらしい。
なのにリイナには3人の監視が外れてからずっとついている。
マティアスに大事な人ができそうなのは嬉しいが、監視も含め、憂慮すべき事項があるせいで、素直に応援ができない。
ラクアは先日、リイナにも監視がついていると気がついたようだった。
ある程度の予想を話すと、ラクアも同じ結論に至ったようで、流石未来の王太子妃だと感心した。
『今回の監視がマティアスの恋愛関係についてだとしたら、平民であるリイナは立場が弱いせいで、余計な心労を抱えると思うの』
『そうですね』
『マティアスがリイナを望んでくれていれば1番いいんだけど……』
『……』
『マティアスはリイナのこと何か言ってなかったかしら?』
『さあ?マティアスと女性関係の話しはしません』
『そうよね……。2人ともいい関係は築けていると思うし、できれば会って話して欲しいのよね。だからといって今はリイナを近づけさせたくないの。どうしたらいいのかしら……』
とはいえ、2週間離れていた心境を思うと今日は会ってほしかったようで、わざわざ途中から横槍をいれるように仕向けられた。
(監視は予想通りマティアスへの恋慕関係だろう。マティアスの弱点がリイナ。だからリイナにも監視がついている。もし自分が、自国にマティアスが欲しいとしたら、弱点であるリイナを狙う。もし、リイナが狙われたとして、それを知っていたのに助けられなければ、王宮のスキャンダルになりかねない……)
最悪を考えながら、徐々に思考を整理していく。
(ノイス国が今回の恩人である国にそんなことするか?もしマティアスが欲しいとしても、今は下手に動かないはずだ。だとしたら個人の思惑が絡んでいると見るか……。ノイス国の使者を使える人間は、王家と王家に近い存在……。しかも会合に出ていた奴だ。その中でマティアスに個人的に近づこうとしている相手を調べるか……)
相手の情報が足りない中でウダウダと考えながら、マティアスはノイス国で何をしたんだとため息を吐く。
リイナにはマティアスの弱点になってほしい気持ちと、ならないで平穏に生きてほしい気持ちで複雑な心境だ。
リイナの気持ちはラクアも知っているけど、マティアスの気持ちに気がついているのは、恐らく自分だけ。
(あんな風にコーヒー1つで幸せそうにしちゃって……)
リイナの嬉しそうな顔は、昔からいつ見ても可愛い。
惚れてるマティアスにとってはあの笑顔は極上なんだろうなと1人想像する。
(俺も特別な女の子と出会いたいなぁ……)
マティアスが何故リイナからコーヒーを取ったのかはなんとなく分かったが、マティアスの思わぬ独占欲の強さに当てられて思わず苦笑いをしてしまった。
(あいつ、今までちゃんとした恋愛したことあるのか?なかったとしたら、リイナ大変だぞ……)
噂に聞いていたサラサとは何もなかった。
一応、見合いはしたそうだけど、それも一度会って終了している。
リイナを好きになってからは、見合いや縁談話ごと全て断っているのだと思い当たり、思わず天を仰ぐ。
(これ、リイナ逃したらヤバくないか?)
暫く2人のお守りをしなきゃならないなら、いっそ給料上げてもらおうかなと考えた。




