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利己的な恋と献身的な恋  作者: まゐ


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4/4

4

「ナオごめん。私・・・」


 そう言い出した私の言葉をナオは遮った。


「リン、謝らなくて良いよ」


 と。


 昇降口前から校庭へと続く道はいつも人気(ひとけ)がない。昇降口自体の出入口が正門側と校庭側に別れているからだ。わざわざ外履きに履き替えてから回り込む人は居ない。居たとしても、みんな西側を通るだろう。事務員室、用務員室を囲い込む形になっている東側は、大きく回り込む分、より遠回りになる。


 ナオは私の手を引いて、迷う事なく東側へと導いた。


 木々が生茂り、太陽すらもこちらを覗けない。建物の壁と木々の間の、誰も居ない場所だった。


 そこで立ち止まると、ナオはようやく私を振り返った。


「サッカー部、今日告られるよ。マネに。だから行っといで」


 私を見ながら、ナオは作ったような穏やかな笑顔でそう言った。


「ナオ、どうしてそんな事・・・」


 私は息を呑んだ。


 情報量が多過ぎる。頭の中で上手く整理出来ない・・・。


 全部知ってたの?


 私が好きなのはナオじゃなくて荒山先輩だって。


 いつから知ってたの?


 もしかしたら最初から?


 だから私が告白した時に「俺で良いの?」って聞いたの?


 知ってて、私と付き合ってくれたの?


 私がナオに「好き」って言ってないって気付いてた?


 私どうしてもそれだけは言えなかったの。


 最低最悪だよ私。


 それなのに、私に優しくしてくれたの?


 ごめんなさい。


 ごめんなさい・・・。


 涙が出そうだった。言葉が続かない。


 風が動いた。


 ナオは繋いだ手を一旦離して、我慢で震えてる私の両肩に手を置いて顔を覗き込む。ナオのサラサラのアシンメトリーな髪が流れる。


「リン、綺麗だよ。だから自信持ってサッカー部に告ってきな。俺とは、終わりにしよ」


 自信が無かった。告白しても、受け入れてもらえるとは思えなかった。


 そんな私を綺麗にしてくれたのはナオだ。ナオが美容院に連れて行ってくれて、茉莉さんとも引き合わせてくれて、ネイルサロンにも、ショッピングにも連れて行ってくれた。


 どこも、私1人では絶対に行く事のないお店だ。


 ナオはイケメンだ。性格もイケメンだ。凄く優しい。


 そして時々可愛い。彼氏として、これ以上無い程に素敵な人・・・。


 でも・・・。


 どうして私、ナオじゃないんだろう・・・。


「短かったけど、すげー楽しかった。リンありがとね」


 ナオの優しい笑顔がボヤけ始める。目に涙が滲み始めているのだ。こぼれ落ちないように目を見開いて、私は頷く事しか出来なかった。


 ナオは、手に少し力を込めて私の肩をクルっと回して反対を向かせる。


「マネに先越されないようにサッカー部捕まえといた。3階の物置前。行っといで。・・・リンちゃん・・・」


 背中を押された。ナオは私の背中を見ている。後ろ手じゃないバイバイをしながら。


「ありがとう」


 私は、振り向かないで呟いた。振り向かないで走り出す。


 とんでもなく優しくて大きくて、切なくて悲しい応援だ。受け取って、成功させない訳にはいかない。


 行こう。前に進もう。


 例え心の中が罪悪感でいっぱいだとしても、この最低最悪な計画を、最後まで遂行する為に。




「サッカー部か」


 物陰から翔の声がした。


「ナオいつもここで振られるのな。テンプレなん?」


 続けてコジの声。うるせー。


「ペース早えーと思ったら終わるのも早かったな。4日?最短じゃね?」


 友也の声と共に物陰からゾロゾロと出て来る3人。何しに来たんだコイツら。


「サッカー部に振られて戻って来て欲しいとか思ってんだろ」


 コジが笑いながら肩で小突いてくる。


 俺は溜め息と共に小声で吐き出した。


「戻って来たら泣ける」


 そう、それはリンが失恋したって事だから。


「戻って来なくても泣ける」


 そう、それは俺が失恋したって事だから。


 カラカラと笑い出すコジと友也を翔が軽く殴った。


「お前ら相変わらずデリカシーって物が無いな」


 その時、風を切り裂く様にして何かが背後から飛んできて友也の頭にヒットする。


「いって!何だこれ」


 上履きだった。形からして右足の。


「ああ、最近流行ってんだよコレ。シンデレラ戦法」


 翔が言う。


「当たった奴は上履きの持ち主探さなきゃなんないんだろ?」


「めんどくせ」


「でもコレ書いてあるよ」


 友也の手の中の上履きを4人で注視する。


 1の5 鈴原。


「新しい形の呼出しって事だ。サッカー部やナオレベルには使ってはいけないルールらしい」


 人が苦労してる間に変な事が流行り出したものだ。


「なら翔も使ってはいけないレベル?」


「俺は別枠なんじゃね?怪我したら事務所から請求行くし」


「流石現役モデル」


「まぁな」


 フラれた傷心の横でいつも通りの雑談。正直有難い。


「じゃ、俺行くわ」


 友也が上履き片手に離れて行く。


「行くのかよ」


 足取り軽く鼻歌なんか聴こえて来る。痛い思いをしたのに、なんだかんだで上機嫌だ。


 みんな、いつも通りだ。


 そりゃそうか、俺が短期間で振られるのもいつも通りだ。


 馬鹿みたいに口を開けて空を仰いだ。


 木の間から見える空は青くて、見てると目と口の中が乾いた。


 今日も穏やかで良い天気だ。




「あの、大鳥先輩、少し良いですか?友達が話したいって・・・」


 いつもの溜り場に引き返す途中で女の子に声を掛けられた。


「おい、次が来たぞ」


 立ち止まって、翔が俺の肩を叩きながら言った。


「ナオすげー」


 半分呆れた様子で、コジがそう言った。そして続ける。


「でもさ、普通こうだよな。呼出して、誰も見てない静かな所でコッソリ告白。それ考えるとやっぱリンちゃんすげーわ」


 言って、腕を組んで深く頷いた。


 そうだよ、リンは凄いんだよ。


 思って、俺はリンの顔を思い出してしまった。4日前の、中学生みたいな垢抜けない顔。その目に浮かんだ覚悟。


「コジ、少しは空気読め。ナオどうする?今は断るか」


 翔が俺を気遣った言い回しで聞いて来た。コイツだけは、毎回心配そうにしてくれる。天然だけどいい奴だ。


「いや、行く」


 俺は、翔に向かって少し笑ってそう答えた。


 リンは進む。俺も止まらない。それで良いよな。



 end

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