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シュンカンノシトウ

「こっちだ──ついて来い、セレン」


 酒場を出たセレンは、ガウェインに連れられて、暗く狭い裏通りを南へと進む。街の外壁が見えてきた所で壁に沿って東へと歩いて行く。


「……ガウェイン……どこへ行くつもりだ……?」


 だんだんと建物が寂れていき、人気も少なくなっていく。


「街中だと迷惑がかかるからな……。ちょうど良い所がある……。黙ってついて来い……」


 しばらく進むと街を囲う壁の一部が崩れた部分に出る。そこを通って街の南東へと出た。


「──!? なんだ……ここ……まるで墓場じゃないか……」


 そこは何も無い、暗く霧深い開けた土地だった。


 周囲を見まわすとすぐ側に平たい岩場があったので、セレンはマントを取り、仮面を外して、荷物と一緒にその上に重ねて置く。さらに少し先に進んだ障害物のない場所で、ガウェインが手招きしている。


「あれから──もうすぐ三年になるか……? 多少は鍛えていたようだな……セレン……」


 セレンが近づき互いに見合ったところで、ガウェインは鬣を弄りながら語りかけた。


「戦いの前に、ひとつ面白い話をしてやろう──」


 それから──ガウェインはふたりがはじめて出会ったあの夜──セレンの身に起こったこと、それに関する己の知り得る限りの情報、そして自分の過去と現在の目的を語って聞かせた。


「ぼくがその……クロノ──!? あの夜──僕は……」


 セレンは両手で自分の腹部に触れ、覗き込み、立ち尽くす。


「この場所こそ──その時の戦場だ……。この下には今も……俺のかつての仲間たちが眠っている……。あの日──この土地は蜥蜴人国(リュウノヒトノクニ)の物となった……」


 ガウェインはその足で地面を叩き、セレンのまわりを一周しながら説明する。


「ここでもう一度、クロノへと覚醒したお前と戦いたかった。だからずっと──この街でお前を待っていた……。最初に出会った夜から、今日をどれだけ待ちわびたことか……」


 ガウェインはセレンから少し距離を取り、正面で立ち止まった。


「ここは……かつて戦士だった俺が死んだ場所だ……。そして今日──俺はこの場所でかつての誇りを取り戻す──」

 

 ガウェインの表情が完全なる野生のそれに変わり、獅子は片足をうしろに引き半身になり構えた。


「セレン──! 今から俺は本気でお前を殺しに行く──! だからお前も本気で俺を殺す気で来い──! アクロを助け出したければ、俺を倒して居場所を吐かせるしかないぞっ──!」 


 セレンが顔を上げ、目があった瞬間──! 

 ガウェインは大地を蹴り、勢いよく前方へと飛び出す──!

 飛びかかったガウェインの右拳がセレンの顔面を襲う──! 

 直前の会話に困惑していたセレンは、一瞬──反応が遅れた──! 

 回転気味の拳のため左右に避けるのは危険と判断し、ギリギリのタイミングでうしろへと飛んだ──!


 予想外の動きに舌を巻くガウェインだったが、さすがは歴戦の強者──! 

 初手の拳は相手を後方へと逃がすための囮──! 

 先に勢いに乗ったスピードを活かして、本命の鉄球のような肩からの撃滅タックルを狙う──! 


 まんまと策に嵌まったセレンは正面からの激烈な一撃を喰らい背後へと吹っ飛ばされた──かに思えたが、二年半──鍛えつづけて来たその剛脚の跳躍力はガウェインの予想を超え、衝撃を逃がして軽減させることに成功する──! 


 十数メートル後方に吹き飛ばされ地面を転がりはしたが、セレンは即座に立ち上がった──!

 セレンは切った口の端から流れる血を手の甲で拭い、すぐに頭を切り替え戦闘に集中する──!

 

 やはり、相手は生粋の戦人だと思うセレン。今日まで鍛えてきたことは無駄ではなかった。そう実感は得られたが、あくまでもそれは守りでの話──肝心の攻め手が浮かばない──


「どうした──!? セレン──! 逃げていては相手は倒せないぞっ──!」


 ガウェインは己の目的を達成する為、セレンをクロノへと覚醒させる必要がある。その為にはセレンにダメージを与えながらも、戦う気力は奪ってしまわぬように、セレンを上手くコントロールし導かなければならない。


 ガウェインは動けずにいるセレンに対して、助言することにした。


「お前の武器はそのスピードとバネ、そしてその爪だろう、俺のこの隻眼を奪った──あの夜のお前はこんなものじゃなかった──!」


 さり気なくアドバイスして、攻撃を誘う──

 ガウェインの話を聞きながら、セレンは頭の中で作戦を組み立てていた。


「最初の約束通り──俺を倒せればアクロの居場所を教えてやろう。だが倒せなければ──! 俺に殺されてそこでお前は終わりだ……!」


 ガウェインは攻撃のヒントを与えつつ、セレンの闘争本能に火を点けるため、言葉で精神に揺さぶりをかける──!

 戦闘の極限状態の中──セレンの脳裏に忘れていた、あの夜の戦いの記憶がおぼろげながらに蘇りはじめる。


 ──もう一度──あの時の再現をすれば……


 セレンはガウェインを睨みながら、ゆっくりと数歩、後方へ下がり距離をとった──


 そして、次の瞬間──! 


 ガウェインに向かって勢いを付けて突っ込む──!


 雷が如く駆け出し、ガウェインの目前でセレンはあの夜のように頭上へと飛び上がった──! 


 それと同時に、前回と同様の攻撃が来ると予見していたガウェインは顔を上げカウンターの構えをとる── 


 ──!?


 そこにあったのはセレンの残像だった──


 セレンが真正面から超スピードで突っ込み、一瞬──上へ飛び上がるフェイントを入れた為、心理的に釣られたガウェインはセレンの策に引っ掛かってしまう──


 セレンは隙のできたガウェインの懐に入り込み、その右眼に向けて左手の五爪を放つ──!


 ──!!!!



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