ピリオド・アポカリプス
まず覚えた感情は、歓喜でした。
「ああ、なんてこと!」
なんて素晴らしいことでしょう。
その身に余るほどの、拍手喝采で満ち溢れていました。
スポットライトは当たらないのに、喝采が得られるなんて、不思議な心地です。
――けれど、そんなものはオレにとってどうでもよいのです。
世界救済という絶対的な運命であり、オレが仕組んだ黙示録を破り捨てることを成し遂げた者がいた。
まあ、破る手段を渡したのは自分なのだけれども。
オレの世界の終焉は、この実験によって、この世界に蔓延るすべての運命すら把握したからです。
こうして神秘は暴かれ、好奇心は殺されました。
と、いうのにもかかわらず。相変わらず、オレはずっと楽しいのです。
だから、ここで退場することに決めました。
一番楽しいときに死ぬことが出来たら、それが一番幸せだと思うのです。
「さあ! 歓喜に満ち溢れる歌を、歌おうじゃないですか」
ドクター・鮭と呼ばれた青年は誰よりも楽しそうな微笑みを浮かべて、舞台に立つ演者のように恭しくお辞儀をして自ら焔の中へ歩いていった。
なんて甘美な痛みだろう。
乙女が恋焦がれるような熱と苦しさを伴って身体が朽ちていく。
そして、己の魂すら破壊しつくす細工をしながら、燃え盛る炎の中で彼はひっそりと命を終えた。
あえて、後日談を語るのならば。
一人の研究者を頼りにしていた歪な世界救済計画は、研究者の死により終焉を迎えることとなった。
政府は魂を複製することによって彼を呼び戻そうとした。
しかし、彼の開発した技術は本人が一番知っているということで。
魂の複製に対する対策は講じられていたため、彼の魂を蘇らせることは終ぞできなかったとのことだ。
■□■
遍くすべてを救済する救世主なんて、そんなものはこの世界にはいないのだ。
機械仕掛けの神様だって成し遂げられなかった黙示録を、誰が実行できるというのだろう。
けれど。
夢を見ることは自由だから、もしもを想像することは誰にだって止められやしない。
だから、夢見る人々はこのような問いに回答するかのように空想するのだ。
――救世主は機械仕掛け黙示録の夢を見るか、という問いに。