2,逃走
水菜が生まれて十四年と半月の月日が経った。
「水菜、夕食だぞー。」
「お兄ちゃん!」
俺をみて嬉しそうに俺の元へ走ってくる水菜。
夕食を机に置いて、二人一緒に椅子に座る。
狭く、冷たい部屋で一人。水菜は生活している。
「水菜、今日は水菜の好きなオムライスだよ。」
「オムライス〜!やった〜!」
その場で飛び跳ねながら喜ぶ水菜。小さな兎みたいで、俺はクスリと笑いながら水菜の頭を撫でた。
すると、俺が笑ったのが嬉しかったのか、水菜もはにかみながら笑った。
二人で食事の挨拶をして、夕食を食べ始めた。
「おいしいか?」
「うん!とってもおいしいよ!!」
モキュモキュと夕食を食べる水菜。あぁ、癒し。
夕食を食べ終わる頃には、時計は午後十時を回っていた。もう、寝る時間だ。
「じゃあ、水菜。お兄ちゃんもう行くな。」
「あ、うん!おやすみなさい!」
部屋を出て、自分の部屋に戻るためにリビングへと戻る。
リビングには両親がいて、両親と目を合わせないように下を向いて歩く。…と、母親が話しかけてきた。
「また、化け物の所へ行っていたの?」
化け物、とは水菜のことなのだろう。自分が産んた娘を化け物呼ばわり。
俺を産んだ親が、こんな人間だなんて気色が悪い。
「化け物?そんなやつのところには行っていない。かわいい妹のところに行っていたんだよ。」
俺がそう言うと、母親…いや、女はため息をついて口を開いた。
「そう…。じゃあ、その妹、ヴァンパイアよ。」
「は?だからなんだよ。」
イライラする。この女はなにが言いたいんだ。
頼むから俺に、俺たちに関わらないでほしい。
怒りを抑えるために握った拳が、赤く濡れた。
「話はもう終わり?俺もう行くけど。」
そう言うと、女は俯いて無言になった。
返事をしない女に俺はため息をひとつついて、俺は足を進めた。
「ヴァンパイアハンターを呼んだわ。」
「…は?」
「明日には来るって。」
口を開いたかと思えば、女はそんな事を口にした。
ヴァンパイアハンター。その名の通り、ヴァンパイアを殺すことが出来る隊。
厳しいテストがあり、そのテストを通らなければチームに属することはできない。
俺も、話なら聞いたことがあった。まさか、本当にいるとは思っていなかったけれど。
ヴァンパイアハンターが、明日、来る。
「別れの挨拶、考えときなさいよ。しなくていいならそれでいいけど。」
そう言って寝室へと向かう女を横目に、俺はその場に立ち尽くしていた。
殺される。水菜が。妹が。あんなにかわいい子が。あんなに優しい子が。
殺される。
俺はいてもたってもいられずに水菜のいる冷たい部屋へと走って戻った。
いつもならするノックも忘れて、部屋の扉を開けた。
「お、お兄ちゃん?!どしたの?!」
扉の先には、目を丸くして俺を見る水菜がいた。
そんな水菜に、俺は笑いかけて近寄る。そうだ、早くこうしていればよかった。
「水菜。一緒に逃げよう。」