1,キズナ
「おねえさんは、だあれ?」
「そんなのどうでもよかろう。」
紫の瞳をした少年をあしらうように背を向ける女。
それでも見つめ続ける少年をみて、女は舌打ちをした。
「いつまで見ておる…ん?」
女は少年をみて、不敵にニヤリと笑った。そして、少年の頭を撫でた。
「お前、おもしろいな。」
「おれなにもしてないよ?」
少年がそう言うと、強い風が吹いた。反射的に目を瞑ると、次の瞬間、女はいなくなっていた。
××××
産声が部屋の静けさをかき消していく。
「生まれた…女の子だわ…!」
母親であろう女は産まれたばかりの赤子を抱き抱えた。その横で嬉しそうに赤子を見つめる少年。
「水月。水月、お兄ちゃんになったのよ。」
水月と呼ばれた少年はまた、嬉しそうにはにかんで、赤子を見つめた。母親が抱えている赤子の目が少し開き、目が合う。
月の光に反射したその目は、透き通った、綺麗な赤色だった。
「赤ちゃんの目、綺麗な赤色だね!」
水月は宝石を見るように目を輝かせて赤子を見たが、母親は顔を歪ませながら、突然悲鳴をあげて赤子を床に落とした。
「お母さん、なにしてるの?!」
水月が慌てて赤子を抱き上げると、赤子は水月の服を掴んだ。
「ヴァ、ヴァンパイア……!!」
「え…?」
部屋の外からドタドタと音が響く。仕事から帰ってきたのか、父親が部屋に駆け込んできた。
部屋に入った瞬間、父親は状況を理解したのか冷や汗を流しながら口を開いた。
「ま、まさか、うちの子が…?」
そう言って、冷たい目で赤子を見る父親。水月はサッと赤子を自分の身に隠す。
すると父親は偽った優しい顔で水月の顔を覗き込む。
「水月。お前の妹は、まだ生まれていないんだ。その子は他の人の赤ちゃんだから、その人に返そうね。」
そう言って、水月が抱えている赤子に手を伸ばす父親。幼いながらに、水月は理解出来た。
“この子が殺される”と。
「生まれた!妹…この子は、俺の妹だ!!!」
水月が声を荒らげてそう言った。この時、水月は初めて両親に反抗した。それに驚いたのか、両親は呆然として水月を見つめた。
そんな両親に背を向けて、水月は抱えている赤子に笑いかける。
「水菜。君の名前は、水菜だよ。初めまして。俺は水菜のお兄ちゃんだよ。」
水菜。そう名付けられた赤子は水月をみて笑った。
「水菜…水菜のことは、俺が守るよ。」