Bonus Track. SIRIUS
鳴りやまない拍手と歓声、指笛。
滝のような汗が流れ落ちるほど熱い照明に照らされたステージの中心に、類人はいた。
ダブルアンコールまでのセットリストを全てやりきり、達成感で息が上がる。周りのメンバーたちも晴れやかな表情だった。
無数のサイリウムライトが揺らめく圧巻の光景は何年経っても新鮮味を失わず、良い意味で見慣れない。いつだって夢のように感じる星雲がそこには広がっている。
イヤモニを外して客席をゆっくりと一望し、類人は夢心地のまま最後の挨拶を告げるためにシルバーのマイクへ口元を寄せた。
白昼夢を見ているようだった一年のある日、彼の光源が言ったのだ。「アニバーサリーイヤーにはシルバーのメモリアルマイクを持って海外公演をしたいね」と。
それこそ夢のような未来を語る横顔に、当時の類人は苦笑するしかなかったのだけれど。
でも、夢は醒めないまま現実となった。
このステージにはいないもう一人の星が起こした奇跡を、どうか見届けてほしい。
「ずっと、一等星になりたかったんです」
かつての自分が救われたように、地上から見える最も明るい恒星に――一等星と呼ばれるシリウスになりたかった。
明るい星でないと誰かを照らすことはできない。かつての自分のような孤独な誰かを包み込めるほど大きな光にならなければ。その想いだけでただ真摯に歌い踊り続けて、歌い続けて。いつしか大切なことを見失っていた類人の前に、彼は現れた。
「だけど今は、あなたの一番星になりたい」
奇しくも、幼い頃に憧れたあの人と同じ台詞が自然と溢れる。
類人はスタンドに設営されたガラス張りのビップルームへ縋るように手を伸ばした。
十年前に結び直すことができなかったリードは、今もこの手にぐるぐると縛り付けている。
失くしたくない、忘れたくない。何者でもなかった自分を遠くの空から見つけてくれた彼のことを。自分の光源を。彼が、一番星と呼んでくれたことを。
一等星には全然届かない。自分には何もかもが足りない。
無我夢中に藻掻き息継ぎすら忘れて窒息寸前だった不完全で未熟な存在を、彼は『一番星』と言った。無限に広がる夜空で幾千幾億にも瞬く星の中から自分を見つけ出し、共に輝いてくれた。
だから――一人でもいい。たった一人でもいいから、あなたを照らす一番星で在りたい。
そんな願いを込めて、遠目からでも目立つすらりとした高身長の影に向かって、類人は真っ直ぐ手を伸ばした。
――週末のエンタメニュースの時間です。
――今年デビュー十周年! 国民的アイドルとなった『SIRIUS』が、ラスベガスで初めての単独ライブを行いました。これはORIONに所属するタレントの中で初の快挙となります。
――会場となった〇〇〇スタジアムは改修工事を終えたばかりで、今回のステージ設営に携わった現地のハミルコーポレーションのルーナ代表によれば、世界初の機構を兼ね備えた……、……――。