8話 「VSイノシシ」
「来やがれくそイノシシ!」
挑発するゴルドの元に、イノシシが猛スピードで突進する。
(初撃は不意を突かれて反応出来なかったが、結局は一直線にしか走れない。 ならば…避けるのは簡単!)
ゴルドは右に飛んで回避し、そのまま走り出す。
「ほら、俺の事も突き刺してみろよ」
手を前に出し、イノシシを挑発する。
イノシシは、ゴルドを睨みつけている。
そして、またイノシシは走り出した。
ゴルドはそれを見て、ニヤリと笑った。
「単細胞が!!」
また右に飛んで回避する。
ゴルドの後ろには、巨大な岩があった。
そして、イノシシは急には止まれない。
ゴンっ…!!
という鈍い音と共に、イノシシは岩に激突した。
(よし…! これは流石に結構なダメージだろ)
ゴルドはそう思っていた。
だが…
イノシシは、何事も無かったかのように方向転換し、ゴルドに突進してきた。
「くっ…!」
なんとか避けたが、バランスを崩し地面に倒れる。
そんなゴルドの元にまた突進しようと、イノシシは姿勢を低くする。
「はあああっ!!」
そんなイノシシに突進させまいと、シエルが解体用の尖った石をイノシシの腹に突き刺す。
すると、痛みからかイノシシはバランスを崩した。
「…! よくやったシエル! そのまま押さえてろ!」
ゴルドは素早く立ち上がり、イノシシの元へ走る。
(まずはこの厄介な牙をへし折る…!)
ゴルドは、牙に向かって回し蹴りをしようとする。
だが…
「くっ…!」
「きゃあっ…!」
イノシシがその場で激しく動き、シエルとゴルドを引き剥がした。
その際、ゴルドはイノシシの頭突きを受け、シエルはイノシシの体当たりを受けてしまい、お互い地面に倒れた。
倒れている2人を、イノシシは見下す。
「くそが…!」
「何で倒れないのよ…!」
イノシシは、シエルにのしかかり攻撃をしようと、二本足で立つ。
そして、そのまま全体重を乗せて前足を振り下ろす。
シエルは転がって回避したが、イノシシにのしかかられた地面には、ヒビが入っていた。
まともに食らえば骨折では済まないだろう。
そしてイノシシは、また方向転換し、突進の為に姿勢を低くする。
だが、イノシシの視線の先にはゴルドもシエルもいない。
その視線の先を見て、ゴルドとシエルは目を見開く。
「おいてめぇまさか…!」
「いや…! ダメやめて…!」
イノシシの視線の先には、未だ地面に倒れている虎太郎が居た。
イノシシは、虎太郎にトドメを刺す気なのだ。
イノシシは、走り出した。
「くそっ…! 止まれ…!」
だが、ゴルドは一足先にイノシシの進行方向上に立ち、イノシシの牙を押さえてイノシシの突進を止めた。
だが、ジリジリと押されている。
「いい加減にしなさいよ…!!」
シエルは、先程の尖った石をまたイノシシの腹に突き刺す。
イノシシはそれに腹を立てたのか、先程よりも強い力で暴れ出す。
ゴルドとシエルは引き剥がされ、地面に倒れたシエルにのしかかりをしようと、イノシシは二本足で立つ準備をする。
シエルは引き剥がされた際に打ち所が悪かったのか、動けずにいる。
「っ! おいシエル! 回避しろ!」
「分かってる…! けど…!」
そんなシエルに、イノシシが二本足で立つ…
前に、イノシシの顔に石ころがぶつかった。
だが、石ころを投げたのはゴルドではなくい。
ゴルドとシエルは、石ころが飛んできた方向を見て、目を見開く。
「おい!何やってんだお前…!」
「立っちゃダメよ! 虎太郎…!」
虎太郎が、腹から血を流し、ボロボロな状態で、木を支えにしながら立っていた。
「…来いよイノシシ…俺はまだ、やられてねぇぞ…!!」
虎太郎は、イノシシを睨みつける。
イノシシは、シエルから標的を虎太郎に変え、走り出した。
もう、ゴルドもシエルも先程のようにイノシシの突進を止める手段はない。
「おい馬鹿っ…!!」
「いやっ…! 虎太郎っ…!!」
向かってくるイノシシを、虎太郎は木に寄りかかりながら睨みつける。
「来やがれ…! 」
イノシシの牙は、虎太郎の身体を貫いた。
木はミシミシ…という音がなり、今にも倒れそうだ。
新たに貫かれた箇所からは、新たに血が流れ、虎太郎は、口からも血を吐いた。
そんな虎太郎を見て、ゴルドは怒りで顔を歪め、シエルは口を手で押さえ、涙を流した。
「…へへっ…計算…通り…!」
虎太郎は、口から血を吐きながらイノシシに言い放つ。
「…これでも…食ってろ…!!!」
虎太郎は、身体を貫かれた状態で、イノシシの口の中に右手を突っ込んだ。
その瞬間、イノシシは今日最大の暴れっぷりを見せる。
その際に突き刺されていた虎太郎は振り解かれ、地面に倒れる。
イノシシは何度も暴れ、やがて力なくその場に倒れた。
虎太郎とイノシシが同時に倒れたのを見て、最初は状況を理解できなかったゴルドとシエルだったが、先にシエルが立ち上がり、虎太郎の元へ向かった。
「虎太郎!虎太郎…! 大丈夫…!?」
シエルは、前のめりに倒れていた虎太郎を仰向けにし、虎太郎の頭を自分の膝に乗せる。
その際、腹に空いた3つの穴を見て、シエルはまた涙を流した。
「虎太郎…! 死んじゃダメよ…!」
虎太郎は、シエルに向かって力なく笑う。
「家族に会いに行くんでしょ…!?」
「…あぁ…死な…ねぇよ」
虎太郎は、何度も深呼吸をする。
ゴルドは、倒れたイノシシを見て、目を見開いた。
「…死んでるぞ。 だが、死因は俺の蹴りでも、シエルの尖った石ころでもない。
…虎太郎お前…何をしたんだ…?」
ゴルドは、シエルの膝の上で深呼吸している虎太郎に問う。
虎太郎は、ゴルドに向かって笑いながら言う。
「…昼に…採った…ベノ茸…そこに生えてたから…口の中に…ぶちこんだ」
ベノ茸。 一口食べるだけで即死の猛毒キノコだ。
昼間に虎太郎が知らずに採ってきて、その場に捨ててきたのだが、どうやらこの場にも自生していたらしい。
虎太郎はベノ茸の元まで這いつくばって移動し、素手でベノ茸を掴み、ベノ茸を確実にイノシシの口の中に入れる為にわざと自らイノシシの突進を受けたのだ。
「だから…そのイノシシは…食わない方…が…」
言い終わる前に、虎太郎は意識を失った。
それを見て、シエルは大粒の涙を流す。
ゴルドはすぐに虎太郎の元へ駆け寄り、虎太郎の脈を図る。
「っ! まだ生きてる…! 応急処置をするぞ!」
「え…」
「泣くのは後にしろ! とりあえず、止血が先だ!」
「う、うん…!」
ゴルドは、自分の服を破り、包帯代わりに虎太郎の腹に巻きつけた。
「おいシエル、お前サバイバル演習の評価良かっただろ。 役に立つ薬草とかないのか」
「えっと…この場合だと…体内で血を作るのと、痛みを和らげるのと、あとは傷口に塗ってバイ菌が入らなくする薬がいるから…」
「くそっ…暗くなってきやがったか」
イノシシに時間をかけすぎたせいで、もう夕方になっていた。
夜になれば視界が悪くなる上に、温度も下がるし夜行性の魔獣も出てくる。
かなり危険な状況だ。
「安全な場所に移動しましょう! 薬草は移動しながら私が絶対に探し出すわ!」
シエルの提案にゴルドが頷き、ゴルドが虎太郎を抱える。
そして、シエルが先導して走り出す。
虎太郎は息は荒いが、まだ生きてはいる。
シエルとゴルドは、焦りながらも、ゴルドは隠れ家になる場所を探し、シエルは薬草を見逃さないように気を配りながら走っていた。