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3.お父様、何も考えとらん

 ごきげんよう御聴衆。ハスティーユ家長女、レアスですわ。


 前回までのあらすじをお伝え申し上げますの。



 この国は神意によって聖女に選ばれた人間が次期国王の妃となるのですが、よもやよもや次の聖女は私のお兄様でした。


 で、肝心のロロアお兄様ですが聖女やお姫様とは正反対に位置するような無骨な軍人でして、どう考えても聖女と言えるようなお人ではございません。


 そして聖女の力を得たお兄様ですが、自前の身体能力と併せて最強の戦術兵器と化しております。


 以上、前回までのあらすじ終わり。



 はぁ……。



 さてさて今は昼を過ぎて日が傾くかなと言った頃合いですが、私は王宮の中庭でぼさっとしております。


 父の公務に付き添って王宮まで来たはいいのですが、肝心の父は方々(ほうぼう)で捕まってしまい中々帰ることができません。


 何かしようにも父の話し合いが終わる時間が全く読めないため宙ぶらりんとなってしまい、故に私は独り、中庭で時間を潰している次第でごぜぇます。



「おお、レアス殿。こんなところで会おうとは。何をしておられるのかな?」


 中庭で花でも眺めていると、そこに現れたのは王太子殿下です。



「王太子殿下、本日はご機嫌麗しゅうございます」


 私は王太子殿下に礼をすると、中庭にいた経緯を説明いたしました。



「……そうか、ハスティーユ卿の用事が早々に終わられるとよいな。それで、ロロアの様子はどうだ? あれから何か変わったことは?」


「いえ、基本的には以前と変わらず軍務に勤しんでおります。……ただ」


「ただ?」


「魔物の気配を察知することができるようになりましたので、聖女テレポートで単身魔物の集団に乗り込んではこれを壊滅しておるようです」



 なんつーか、あの時よりも更に殺戮兵器度に磨きがかかっているように感じます。


 魔物絶対ぶっ殺すマンです。



「なんと……。いや、ロロアはもう我が伴侶となり、この国の象徴となるべき人間なのだ。そのような無茶をしないで欲しい……」


「ええ、私も兄にそのように申し上げましたが『俺が魔物を倒すことでこの国の平和が維持されるのであればそれでよい』と言ったような態度です。どうすりゃいいんだかって感じですわよ」



 控え目に申し上げて「お兄様は脳みそまで筋肉なのかな?」と思う次第でございます。


 もう少し理知的な人間だと信じておりましたがねぇ。



「あと、最近は新技『聖女エクスプロージョン』を覚え、好んで使っておりますわね。どのような技かお聞きになります?」


「どのような……。ええと、名前から察するに、聖なる力で爆発を起こすのか?」



 はいバツー。



「まず自身の身体能力と聖女の力を使い上空に大きく跳躍いたします」


「うむ」


「そして自由落下と共に自身の周りに広域の聖女バリアを展開して、周辺全ての敵を叩き潰す大技です。強いですわね」


「そ、そうか……」


「まあそんな感じで本日も元気に国を護っておりますので、喜ばしいことでございます」



 ええ、妹としては呆れ顔の一つもしたくなりますわ。


 ちなみにお父様もお母様もお兄様に対して窘める程度で、これと言ったアクションには出られません。


 まあ、やっていることは軍事貴族として果たすべき義務の延長ですし、将来の王妃に対してあまり強くは出られませんよね。


 ある意味我が儘三昧の困ったお兄様でございますよ。



「レアス、待たせたな、帰ろう。おお、これは王太子殿下、ご機嫌麗しゅうございます」


 王太子殿下と兄の話をしていると、公務から解放されたお父様が戻って参りました。



「ハスティーユ卿、ご苦労である。私もレアス殿とごく私的な話をさせて貰っていたところだ。貴殿の本日の公務は終わりか?」


「我が娘の不調法をお許しくださいませ。はい、本日はこれにて下城させて頂く予定にございます」



 王太子殿下に向かいお父様が恭しく礼をいたします。


 王太子殿下が所作美しく華奢なのもありますが、このお父様もお兄様に負けず劣らずの高身長パワー系マッチョスタイルであり王太子殿下との体格差が随分とございます。



「そうか。日も傾いてきた故、気を付けて帰られよ。将来の我が伴侶にも、宜しくお頼み申す」


「勿体なきお言葉、有難く頂戴致しました。我が嫡子にも喜びお伝え申し上げます」


「レアス殿も、またお会いしよう」


「ありがとうございます。それでは、ご機嫌よう」





*****************************





 さて王宮からの帰りのことですが、馬車に揺られながら我が家へと向かっている折にお父様とちょっとした口論となった次第でございます。



「時にお父様、嫡子であるお兄様が王太子殿下の妃として家を出てしまわれる場合、この家は誰が継ぐのです?」


「ん……? あー……。家の……えっ!?」


 何も考えてやがりませんでしたわねこのお父様。



「それは……レアス、お前が継ぐのではなかったかな?」


「いやいやいやいや、どう考えても私は政略結婚の駒でしょうが」


「自分の事を政略結婚の駒と言うのもどうかと思うが……。うちにはロロアとお前しかいないわけだし……継いでくれない?」



 継ぎません。


 そもそもそう言った教育は受けておりませんので。



「お父様もご存じのとおり、我が家は代々軍務を統括している家なのですよ。女の私に務まるわけがねぇじゃないですか。ほら、もうこうなったら叔父上のところから養子を貰ってくるとかしないとアカンですわよ。私は別に外に出るのも養子に入った従兄弟と縁を結ぶのもどちらでも構いませんし」


「ううむ……養子とは言うが、弟は弟で子煩悩であるからなぁ……二人子がおるらしいがどちらも自分の手許に置いておきたいだろうし、養子の話は首を縦に振りそうにない……。と言うわけで、お前が家を継いで……」


「はーーーー。そんなこと言われても、フォークより重い物を持ったこともない上に蝶よ花よと育てられた箱入り娘に、軍の指揮なんて出来るわきゃねーでしょうが!」


「それはほら、今から色々教えるからさ」



 私のことは諦めて、はよ良縁を見繕ってください。


 もう本当に叔父上から男児の養子を連れてくるしかないのですよ。


 当代でハスティーユ本家を潰すおつもりですか。



「まあよくよく考えておこう。その、養子の件は弟が首を縦に振らなかったら、その時は宜しく」


 ダメだこりゃ。



 まったくお父様がどうしよーもねーのは確かなのですが、そもそも人には適材適所と言うものがございまして、お兄様は家を継ぎ主となること、私は奥として陰ながら主を支えることが向いているのです。


 神よ、何故お兄様を聖女に指名なさったのですか。

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