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ドアが閉まると静寂に包まれる。

 灯りを付けると見事に朝出て行ったままの状態である部屋が存在している。

朝食で使った皿がキッチンのシンクにそのままになっていて、ベランダには干しておいた洗 濯物が干しっぱなしになっているのが見えた。

 一人暮らしなのだから当たり前だし、むしろ、洗濯物が取り込まれていたら不自然ではあるが、その光景を見るたびに自分は一人なんだなと改めて実感させられる。

 母が死んで以来、このアパートに引っ越して独り暮らしを始めて二年近くが経過している。生活には慣れたし、不自由もないが、相変わらず明日に夢も希望もない。

 ただ生きているだけ。

 それがいいかも悪いかもわからない。

 きっと、他の人は家族だの友達だの恋人だのがいてもっと充実しているのだろうけれども、私にはそんな存在はいない。趣味もないから、本当に起きている時はバイトをして炊事洗濯をして寝るだけの生活だ。

 現在フリーターではあるが、そんな必要最低限な生活をしていれば何とか生活はできている。

 今よりも辛い人生にならなければいい。

 それが今の残された欲望、望みだろうか。ただ、それもいつ崩壊するかわからない。もしかしたら明日、解雇を宣告されるかもしれない。それでもバイトである身であるから文句は言えず従うしかない。

 そんな不安はいつも持ちつつ生活している。

 お腹がすいたから、帰りにスーパーで買って来た一人分の手ごね風ハンバーグとこれも一人分のレトルトご飯を電子レンジで温めて夕食を食べる。

 今は一人暮らしでも料理なんかしなくてもちゃんと一人分の食事を手ごろな値段で用意できる。だから母が死んでからも炊事洗濯では全く苦労したことがなかった。

 もしかしたら、この状態でも生きていなさいと神様みたいながるとすれば言っているのかもしれない。

 お腹が満たされると、シンクの皿を片付けて、取り込んだ洗濯物をゆっくりと畳む。ズボンを畳んでいるとそのポケットに紙らしきものが入っているのを見つける。

 一緒に洗濯機で洗ってしまったからフニャフニャになっていたが、それを丁寧に引き延ばして

みる。

 それは上野を歩いていた時に、綺麗な女性に勧誘された時にもらった名刺だった。

 格闘技か。

 あの日、綺麗なあの女性から可愛いと言われたことが忘れられなかった。

 私なんかに欲を持って良いのかわからないが、信じてもいけないのかもしれないが、少しだけ希望を持ちたい気持ちになっていた。

 それに高額報酬となると将来のことを考えると少し気持ちが揺らいだ。

 話だけ聞いてみるのもいいかもしれない。

 にしても嫌らしい性格だなと自分で自分を思う。

 欲を持たないとか、諦めとか頭ではわかっているはずなのに心の奥底では妙な希望だの欲などを持っている自分に気づく。

 携帯電話を取り出してその紙の電話番号を入力する。

 ホントに電話しても良いのだろうか。

 あやしい雰囲気はないとは言い切れない。いや、きっと正統な仕事ではないことは確かだ。危険を伴うかもしれない。

 もし危険だと感じたら辞めればいい。そもそも、いつ死んでもいいと感じていながら、どうして危険なことを恐れる自分がいるのか。ホントは心の奥底で死にたくなとでも思っているのだろうか。

 嫌らしい性格だ。

 通話という画面をタップして耳に電話を近づける。

 しばらくの呼び出し音の後、あの街で話しかけられた女性の声が電話越しに聞こえて来た。

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