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「ミスがあること、雑なことは誰にもあるからね。でも、ひかるちゃんはそれが多いんだね。わかった。それがひかるちゃんの個性だね」

 また違和感のあるひかるちゃんと江沢さんが呼び始める。

 朝、少し早めに出勤して、誰もいない時にいつも一番に出勤している江沢さんに私のことを打ち明けた。

 打ち明けるまでは余計なことを考えていたが、いざ、告白してしまうと最初こそえ? という驚愕した顔をしたが、親身なって聞いてくれた。

「今まで辛かったでしょ? 大変だったね」

 急に優しい言葉をかけられるようになり、変貌ぶりに少しまた違和感を覚えるが、とりあえず、言えたことに安堵した。

「大丈夫? 今まで辛かったでしょ」

 また泣きたくなる。

 人間って悪くないのかもしれない。

 私と一緒でそれを取り巻く人もどこか悪いと決めつけているところがあった。それで勝手に心を閉ざして勝手に孤独になって一人で戦っているところがあったかもしれない。

 何か曇天の曇り空から晴れ間が差し込んでくるような一つ掴んだような気分だった。

「僕にできることは何かな?」

「いえ、こんな私の話を受け入れてくれただけでも嬉しいです」

「受け入れるなんて、話を聞いただけだけどね。とりあえず、今まで通り頼むよ。別に、今まで通りで問題がないからさ」

 今まで通りで問題はない。

 では、嫌みたらしく叱ってきたあの行動は何だったのか。

 事務室を出ていく、江沢さんを見送りながら疑問が浮かんだが、そんなことはどうでもいいと打ち消した。

 入れ替わるように入ってきたのはタイセイさんだった。

 いつも出勤時間ギリギリに来るのに、今日は開始時刻の三十分前に姿を現した。

 お互いに目を合わすとあいさつを交わして、彼は着替えるために奥の更衣室へと向かっていった。

 彼にも打ち明けるべきだろうか。

 コトさんと話して彼女には打ち明けられなかったが、久しぶりに人前で泣いて、何かスッキリしたというか、吹っ切れた気がする。きっと彼も江沢さんのように受け入れてくれて優しい言葉をかけてくれるに違いない。

 更衣室から出て来た彼に声をかける。

「あの」

 タイセイさんが呼びかけに振り向く。

「話があるんですけど」

「へえ。君から話かけるなんて、初めてですね。何ですか?」

 でも、彼に打ち明けたところでどうするんだろう。一瞬戸惑う。

 たぶん、この時、調子に乗るというか、私のことをわかってくれそうな人が周りにいてくれることがわかり、もっと理解者を増やしたいという下心があった。

「実は私、ADHDという障害があるんです」

 全部勢いで話した。話し終えると、彼は表情一つ変えず、首を一つ横へ傾げた。

「で?」

「え?」

「で? 何?」

「いや、その、何ってわけじゃないけど」

「時々さ、君が何をしたいのかわからなくなることがあるよ」

 何も言えなかった。自分のしていることを全て否定されているような気がした。

「いいですけどね。君の人生ですから」

 いや、いいわけないかと小さく彼がつぶやいたのが空耳の様な感じで聞こえた。

「あの、私、こんな私だけど、知ってほしくて。それで、それでも頑張りますんで。よろしくお願いします」

 苦し紛れに言った言葉に、彼が鼻で笑う。

「何を頑張るんですか?」

「いえ、そのいろいろと。私なりにですけど」

「それによろしくお願いします。って何をよろしく頼まれればいいんですか?」

 障害があるから少し考慮するとかと言いかけたが、それは社会人としてお金を貰っている人間として失言だと思い言葉が詰まる。

「いいですけどね。わかりました。とりあえず、俺は変わらず君と接するでいいですか?」

 え? 障害があることを打ち明けたのに変わらずなのか。

 不満があるわけではない。ただ、江沢さんとのあまりにも態度が違うことに戸惑う。

「あの、いやあ、だってそんなこと言われたって、じゃあどうすればいいんですか? どうしてほしいんですか?」

 返事ができないでいると、珍しく彼が少し苛立って訊いてくる。

「じゃあいいです。タイセイさんは今のままで」

「はあ? 何だよ。じゃあいいですって。ふざざけんなよ。時間ばかり取らせて」

 彼が声を荒げる。こんな姿を見たことがなかった。考えてみれば、私が打ち明けている間も少し顔を引きつっているような姿があった。どうしてだろうか。

「すみません」

 謝るしかなかった。何故だかわからないが怒らせてしまったことは、申し訳なかったととりあえず謝る。

「だから、どうして謝るんですか」

 彼はそのまま、ドアの方へ歩いていき乱暴にドアを閉めて部屋を出て行った。

 静寂が辺りを包む。

 打ち明けなけれな良かった。やっぱり、他人がそこまで他人に興味があるはずがない。こんなふうに人を怒らせてやっぱり私は私でしかなくて、最低な人間だ。どうしようもない。

 いつもの自暴自棄が襲ってきて見えて来た晴れ間はまた厚い雲に閉ざされた気がした。


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