プロローグ②
わたしは目を疑った。
面接室に入ってきたのは、30cmほどの白いオカメインコだったのだ!
「だ、だれだキサマ!?」
メガネをかけた美人面接官が口をひらく。
「弊社のスタッフのフミと申します。主に人材の教育や斡旋を担当しております」
「オ、オカメインコが教育係だと!?」
するとオカメインコが真顔で発言した。
「差別発言です。以後、気をつけてください。派遣は大きくわけて「登録型派遣」と「常用型派遣」があります。弊社は「常用型派遣」になります」
「??? どちらも派遣ではないか! ナニがどう違うのだ?」
「世間一般で派遣といえば「登録型派遣」かと思います。登録型は人材派遣会社に登録して、派遣先の企業で仕事があるときだけ雇用契約をむすび給料が発生します。おもに時給制で交通費もその中にふくまれ、ボーナス等もありません。大体は3か月更新で更新がなければ雇用契約がきれ、次の仕事が決まるまで賃金は発生しません」
「『KAMASEYA!』もそうではないのか?」
「弊社は「常用型派遣」です。人材を正社員として雇用し企業に派遣します。正社員なので月給制、交通費別途支給、ボーナスもあります。また派遣先で更新がかからなくても給料は支給されます。ただ次の派遣先が決まるまで他の仕事をして頂くこともあります。といった違いがあります」
「ということは…どういうことだ!?」
「…ようするに正社員なのですが、働く場所が派遣先の企業だということです。月詠さんは以前は魔王退治の企業に正社員で雇用され、その社員同士でパーティーを組み、仕事をされていたんですよね。それが弊社では他の企業様のパーティーに加入し働くということになります」
「な、なるほど、そんな派遣があったのか…他社のパーティーに…。かなり、コミュニケーション力が必要になるな…」
「ないのですか? これだけ様々な企業で働いていて?」
「あ、あるに決まっているだろ! バカヤロウ!」
すかさずおっとり系美人の面接官が口をひらく。
「というのが弊社の働き方になります。どうされますか?」
正直、他社のパーティーで、というのが気になるが背に腹は代えられん。
「承知した! よろしく頼む!」
「それでは明日からの勤務先はこちらになります」
すると面接官が派遣先の情報ファイルを手渡した。
「なっ!? か、『株式会社キボウノホシ』! 一部上場企業ではないか!」
「それでは派遣先のパーティーに入る前にビジネスマナーのチェックをおこないます。こちらの名刺を私に渡してみてください」
そういうとオカメインコはわたしに名刺入れを渡した。
名刺など今まで一度も渡したことががない。
「………(こうか?)」
わたしが名刺を手裏剣のように投げると、
「グサッ!」とオカメインコの額に名刺がささった。
オカメインコは額から血を流しながら、
「……20年ナニをしてきたのですか? 渡し方はこうです。まずは軽く会釈。両手で名刺を添えて『KAMASEYA!から参りましたフミと申します。宜しくお願いいたします』 はい、わかりましたか?」
オカメインコが名刺を手裏剣のように投げ、わたしの額にささった。
うぐおおおお! こ、こいつ! ネコかぶりやがって! あ、インコか!
そのあともオカメインコのビジネスマナー講座がつづき、2時間が経過…。
わたしはヘトヘトになってしまった。
「ビジネスマナーは以上となります。明日はツキノセ村に8時に集合です。遅刻厳禁ですよ。初回の数時間は私も同行いたしますので」
「おぼえていろ! いつか焼き鳥にして食ってやる!」
「明日までにコレを頭に入れておいてください」
オカメインコはそういうと「派遣法」という分厚い書類をわたしに投げた。
書類はわたしの頭にヒットし、たんこぶができてしまった。
こ、こいつ! 覚えていろ!
わたしは面接室の扉を蹴とばし、外に出た。
(その後、面接官が社長だと分かったのはしばらくあとのことだ)
わたしはものスゴク耳がよくて、面接室に残った1人と1匹の会話を察知した。
「35歳でこの教養のなさ。他では通用しませんね…」
「しかし、我が社では優良物件。我が社の未来は明るいですね。ふふふ」
ちっ……ブラック企業の臭いがプンプンする。
だが、背に腹は代えられん! 貯金が底をついているのだ!
派遣だろうが、正社員だろうが関係ない!
魔王を倒し「金」と「地位」と「名誉」を手にいれるのは、
この月詠三言なのだからっっ!