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「カリン様なら、あと十分程で王宮が見えてきますよ。私たちにはもう見えてるんですけどね。ほら、あそこに。」


リョウが指差す方角には何も見えない。

改めて獣人族の五感の鋭さが分かる。


『本当に、凄いですね。』


「見えていると言っても、行くとなると遠いんですけど、王宮自体が大きいので大体の街のどこからでも見えるんですよ。」


リョウは目を細めて宮があるであろう場所を見つめる。


『リョウは、第二王子様がどんな方かご存知ですか?』


ふと疑問に思い問いかける。


「え?あぁ、はい。第二王子ヴォルフ様は第七討伐部隊の隊長ですので。

あっ、討伐部隊っていうのは第一から第七まであって、それぞれ微妙に役割は違いますが、魔物を討伐するという共通認識の元動いています。

第七討伐部隊が一番人数が少なく、一番強いといわれていますよ。そのなかでもヴォルフ様は部隊トップの強さです。まぁ、私も第七討伐部隊の一員なんですけどね。でも、贔屓目じゃないですよ!ヴォルフ様はとってもお強い方です。」


『そうなんですか。教えて頂きありがとうございます。』


この時、彼女は第二王子に偶像崇拝に近い恋慕の気持ちを抱いているのだと分かった。

彼女の目は、自分の上司に向けるそれとは似て異なっていた。そうだとすると、この仕事は彼女にとっては酷ではないだろうか。

自分の慕う者の妻になる者の命を守り、慕う者の元へと送り届ける。

ちらりとリョウに目を向けると、リョウが口を開いた。


「カリン様の瞳は紅色なんですね。綺麗です。」


そう言って笑うリョウの瞳はチョコレートのようなブラウンだ。


『ありがとう。こちらでもこの色は珍しいのかしら?』


「そうですね、初めてみます。

大体が、私のような茶色や、黒、緑で、金色という人もいますね。王室の方々は青い瞳をしてらっしゃいます。

髪は王家の血を引く者は皆銀色になると言われています。例外は見た事ないですね。トアイトン王国でも紅い瞳の方は珍しいのですか?」


トアイトン王国も大体同じようなものだ。


『えぇ、トアイトン王国でも紅い瞳は親戚以外で見た事がないです。紅い瞳でフォーサイス家の人間だと分かるくらいですから。』


「すごく綺麗な色で羨ましいです。・・・あ、あちらが王宮ですよ。」


リョウが指指す方みると、そこには左右対称の美しい宮があった。


『大きい・・・!』


トアイトン王国の王宮に負けず劣らずの大きさだ。



近づくにつれて、その大きさと豪華さがより伝わってくる。

すぐ近くまで来ると、高い塀に囲まれているのが見えてきた。大きな門の前で一度止まり、リョウが顔を出して言葉を交わす。


「カリン様、一度南の離宮に寄るそうなのでそちらに向かいますね。」


私が頷くと、大きな門がゆっくりと開かれる。


王宮を過ぎても馬車は暫く走る。五分ほど敷地を走り、木に囲まれた茂みを抜けると、王宮を見てからだとやや見劣りはするが、それでも十分立派な宮のが見えてきた。

宮の前では、沢山の者たちが出迎えていてくれた。


「ここが南の離宮みたいですね。」


ゆるゆると馬車が止まる。

完全に止まると、リョウが失礼します。と横抱きに抱えてくれたので、軽く腕を回して抱きつく。


「降ります。しっかり掴まってて下さいね。」


私の返事を聞いた瞬間、ふわりと浮遊感を感じる。

次に目を開けた時には、ゆっくりと地面に降ろされていた。


実は、国境の通門で乗り込む時も、獣人用の馬車は高く、どうやっても一人では乗り込め無かったのだ。そんな私を、リョウは所謂お姫様抱っこをしながらも、軽く一跳びで乗り込んでみせたのだ。


「カリン様、大丈夫ですか?」


『えぇ。ありがとう、大変だったでしょう?』


「いいえ!むしろ軽すぎなくらいですよ。・・・じゃあカリン様、私達はこれで。」


『リョウ、楽しかったわ。ありがとう。皆さんも本当にありがとうございました。』


ふわりとドレスを持ち上げて挨拶をする。


リョウは照れくさそうに笑って御者の隣に飛び乗った。

颯爽と去っていった彼女達を、また会えるようにと願って見送った。










後ろから、失礼します。と声がかかる。

そうだ、私のすべきことを忘れてはいけない。




「第二王太子妃候補様。私はこの宮の執事を任されました、シュクル・スチュアートと申します。どうかシュクルと呼んでください。

この者は、メイド長のマドリーンです。

隣の三人のメイド達は、主に第二王太子妃候補様の身の回りのお世話を担当する、左から、モカ、ミルティア、フィナンシャリーです。

この他にもメイドは十一名、家政婦が三名、料理長を始めとした料理人八名、庭師二名が第二王太子妃候補様の下で働かせていただきます。

従者は第二王太子妃候補様が決めるように、と王様から仰せつかっております故、ゆっくりとお考え下さい。」


一人一人の顔を脳に焼き付けるように覚える。


『皆さん私のためにわざわざありがとうございます。早くこの地に馴染めるように頑張りますので、協力お願いします。それと、私の事はどうか下の名前で呼んでください。』


ふんわりと笑うカリンに、執事もつられて笑顔になる。


「かしこまりました。」


執事のシュクルが礼をすると、それに倣って一斉に使用人たちが頭を下げる。


『顔をあげてください。シュクル、出来れば本日の予定と、私のすべきことを教えてくれるかしら?』


「かしこまりました。まずは宮の中に入りましょう。」


シュクルがくるりと宮を向くと、使用人達がさっと道を作る。

優秀な使用人達である。






「すみません。少し時間が押しているので、歩きながら説明させていただいてよろしいでしょうか?」


『えぇ。もちろん。』


「まず、この南の離宮はカリン様お一人の宮です。」


分かりました。と頷くと、少し間が空いてから、不思議には思わないのですか?と聞かれる。


『私は王家の皆様に拾って頂いた身なので。』


その後には、特に不満を持つことは無い、と続くのだがわざとにそこで切る。

だが、シュクルはそれだけで理解し頷いた。

表向きはそうだが、本心は違う。

本当は一緒に暮らさないと聞いてほっとした。

婚約破棄された時も私は心の底から喜んだのだ。面倒な事から開放される。ようやくゆっくり過ごすことが出来る、と。

それなのに今度はヴァプール王国の王家へ嫁ぐことになり、内心感謝とともに少しだけ残念に思っていた。

だから、一緒に暮らさないというこの話は私にとって、特に不都合がないのだ。


「続いて、本日の予定ですが、これからカリン様には身支度を整えて頂きます。二時間後に王家の皆様にご挨拶をして頂き、その二時間後には昼食です。昼食は王宮内で第二王子様とお召し上がりください。

その後、そのまま王宮内の教会に移動していただき、婚約の儀の準備をして頂きます。

そして、十四時より婚約の儀となります。そこからまたお召し物を着替えていただき、十六時より歓迎の儀が執り行われます。


大丈夫でしょうか?」


『えぇ。ありがとう。もう覚えたわ。』


「それは凄いです。

それでは、メイド達がカリン様のお部屋へと案内します。荷物は既に運び終えておりますので、なにか不都合がございましたら仰ってください。」

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