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助かった、素直にこう思った。


大変な勉強も、難しいお稽古も、面倒な貴族付き合いからもようやく解放される。最初に心の底から溢れ出した感情は喜びや安堵だけだった。


明日という日に成人を迎えようとしているカリン・フォーサイス十六歳は、目の前の青い髪の男に感謝をした。

たとえ明日が、その男との婚約の儀だったとしても、だ。

――婚約の儀とは、成人、つまり十七歳に達した者が婚姻の儀を執り行う前に、教会で二人だけの誓を交わすものだ。婚姻の儀はその半年後に執り行うことが出来る。



「カリン!もう一度言うが、第二王子セージ・ベネットはお前との婚約を破棄し、この愛しのターニャと明日の婚約の儀を迎える!」


つい先程までの自身の婚約者の腕に抱かれているのはふわふわとしたピンクの髪に、小さく華奢な、瞳の大きい女の子。


『王様はこのことをご存知で?』


三人の周りには遠巻きに人の円が出来ていた。

こんなにも大勢の前で言ってしまえば、取り返しも付かない。直ぐに尾ひれや背びれの付いた噂が広まるだろう。


「いいや、でもお父様は認めてくださるはずだ!だってターニャと俺はこんなに愛し合っているんだからな・・・。俺は運命の人に出会ってしまったんだ。」


恍惚とした表情を隠すことなく向ける彼の腕の中で、彼女はどこか勝ち誇ったような笑みでこちらを見ていた。


『わかりました。それではお幸せに。』


いつもと同じ穏やかな笑みで元婚約者を見据える。


「あ、あぁ・・・。」


私がもっと食い下がるとでも思ったのだろうか。

泣いて縋るとでも思ったのだろうか。


お生憎様。


ふわりと制服のスカートをなびかせて背を向ける。


『失礼。通らせていただけるかしら?』


ひと声かけると。直ぐに人垣が左右に割れる。


『ありがとう。』


カリンのすっと伸びた背筋からはつい先程婚約破棄されたなど、誰も分からないだろう。



カツカツとヒールがタイルにぶつかる音が周囲のざわめきに消えていった。

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