運命と必然と偶然の狭間で
「…ここ?」
周囲は緑。景色はよし。まさに空気がおいしい、といえるような環境。
電車、バスを乗り継いで、キャリーケースをひきづりながら、やっとついたおそらく、新居が目の前にある。
「ログハウス…」に見える。おそらくわたしの家。しかも2階建て。
任せてー、大丈夫よ!と言ってくれた母にお願いした手前…
新生活に気を遣ってくれたのか。
いやいや、気を遣う方向違うのでは、といってくれる人がいるわけもなく。
「まぁいっか。」
とりあえず、ここまできたし。ここでの、生活に慣れればいい。
疲れてるのもあって、まぁいいかで済ませようとしてる自分に気づかないふり。
キィ…。
入ってみると一番に、木のかおりがした。
「すきな匂いだな」
明かりをつけてみると、家の広さと木の暖かさがよりはっきり浮かび上がる。
なんか懐かしい感じ。
家のなかを一通りみたところ、冷蔵庫も洗濯機もなんでも揃っていて。
食器もある、テレビもある。
特に先だって生活に困ることはなさだ。
わたしの荷物はもってきたキャリーケースだけだから、これならあっという間に準備終わりそう。
2階の奥の部屋にベットがあった。
とりあえずキャリーケースはそこに置いた。
「随分、きれいにしてある。」
誰か定期的に掃除をしてくれているのだろう。
お母さん、ここ、高かったんじゃないだろうか…。
「はぁ、とりあえず疲れた。ここまでけっこうかかったな。ちょっと足がいたい…」
前の家から6時間以上はかかったから。
ソファに座ると思ったより。
「ふかふかしてる。」
こんなに、贅沢したらバチがあたるんでは。
前の家、このリビングの3分の1だよ、
広すぎて大分落ち着かない。非日常…
でも居心地がいい。入った瞬間、いいなって思えた。
大学が決まったとき、遠方になるから、一人暮らしをしようと決めて、思いきって母に伝えようとした。
母子家庭でここまでにずっと二人ですごしてきて。家族は母だけ。
母を1人にすることには少し心配があったけど、先に母の方から言ってくれた。
『自分の人生も大事にしなさい。お金は大丈夫。学資保険があるし、少しは援助できるよ』
決して裕福ではない家庭で。
わたしの知らないところで、色んなことを考えてくれていた。
準備してくれていたんだ。
うまくありがとうが言えないわたしをみて、
母は『彼氏でもつくって、紹介してよ。』とウィンクしてきた。
「なに、それ」。思わず吹き出しちゃった。
ありがとう。お母さん。
ブーッ、ブーッ。
スマホの画面をみると、ちょうど母からだった。、
「はい」
『ついた?』
「ちょうど、ついたとこ。」
『驚いた?ふふ』
「驚くよ。ログハウスなんて!
お母さん、大丈夫なの?
ここ、随分綺麗にしてあるし、借りるの高かったんじゃない??」
『あら、借りてないわよー』
「…え?」
じゃあ、どうしたのだ、この家は。
『うちの名義よ、そこ。』
「?!」
うちのどこにそんな、余裕があったのだ。
『いざというときに、売ろうと思ったんだけどね。売らずになんとか、やってこれてたから。』
ええ。なんでいってくれなかったのよ。
「はぁ…。ビックリしすぎて、何て言っていいかわかんない」
『もともとは、貴方の父親の家よ。』
「お父さんの?」
『そうそう。』
父親はわたしが生まれて直ぐに亡くなっている。
詳しくは聞いてないけど。病気だったらしい。
父は、わたしが生まれるのを楽しみにしてくれていたようで、色々準備してくれていた。先々に必要になるものから、定期預金まで。
まるで、自分の寿命を、知っていたみたいに。
父がどんな人だったか。写真も残っていなくて、なんの手がかりもない。
『もともとそこも、お父さんの実家のものらしいんだけど。
お父さんの実家も短命だったからねぇ。全部お父さんが用意したの。』
そうなんだ…。
「…。」
『ところで、何か足りないものある?何かあればすぐいいなさいね。』
「うん、大丈夫。充分だよ。」
『この後、友達と約束があるから、また電話するわね。』
「わかった。」