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【第一幕】群れを外れた羊は丘を登らない-Rough Landing ,Hollyhock-

「公園に何かあるの?」


 放課後、いつもの如く二人乗りをして道を走る。

 線路の先にある公園。そこが今日の僕らの目的地で、滅多に行かない場所。

 行きたくなかったという訳ではなく、単に行く理由が今までなかっただけで、思い出深いところ。


「その何かを見つけるんだよ」


 キイ、と甲高いブレーキ音が鳴って公園の到着を知らせる。

 自転車を停めながら、見渡してみる。


「ノスタルジックな雰囲気」


 ――この街は本当に僕らの街なんだな。

 当たり前の事でありながら、それを実感して気がつく。

 誰もいないというだけで、街は僕らの記憶にあるものだ。

 間違いなく、昔からの街だ。


「こんなに小さかったっけ? わたし達が大きくなった的な?」

「だろうな。当時は、こんな広さの公園で冒険とか出来たんだけど、今の僕らじゃ、そもそも冒険なんておとぎ話になっちまった」

「言い回しが香ばしいですなぁ」

「臭いって言わない辺りお前らしい」


 目に映る公園内の遊具はどれも古びていて、錆ついている。

 魔王の城に見立てたジャングルジム、鉄棒はその塀で、砂場は底無しの罠。大きなトンネルは村の宿屋だ。

 今でも思い出せる。僕らは確かにここが冒険の地だった。

 むちゃくちゃな設定と、馬鹿馬鹿しい展開の、その時は本気でやってた物語を、皆が皆全力で楽しんでいた思い出の場所。

 何で今は出来なくなってしまったのだろう。


「あのベンチの辺りで紙芝居やってたよな」


 懐かしさを噛みしめながら、大きな木の下に置かれたベンチに向かう。

 どこにでもあるような、古びた木製のベンチ。

 公園にいる奴は皆、ここ囲むようにして集まって紙芝居を聞くのだ。

「僕とお前は基本ここのポジションで、その隣にうるさい奴がいてさ」

 左端のほうを指差して言う。当時のいつもの席で、決まってたその場所を。


「うん、覚えてるよ。お前らラブラブだなーってよく茶化してた子だよね」

「よく覚えてんな」


 名前なんか忘れたけど、いつも一緒にいる僕らは、周りからよくからかわれてた。もちろん、悪い感じじゃなくて、ノリで茶々を入れてる感じだ。


「今も変わってないから、また茶化されちゃうね」

「ラブラブではないけどな」

「なんだとー」


 そうやって背伸びして、僕の肩に肘を乗っけてくる夢前。腕が重い。


「その言い方、あざとい」

「なんやてー」

「そっちの方が良いな」

「よくわからんとなぁ」


 いきなり細い指で、頬をツンツンされる。くすぐったくて、突かれた方向にそのまま顔を向ける。


「なんだよ」

「触りたくなったー」

「ふうん。僕はお前のほっぺたの方が好きだぞ。柔らかくて、こんにゃくみたい」

「例えがなぁ。そこはお餅とかにしてよっ」


 コツン。と軽く頭突きされる。だいぶ僕に重心を預けてるせいで、よろけそうになる。


「痛いやんけ」

「スキンシップやんけー」

「頭突きはスキンシップじゃないだろ」

「まあ、正論ですなぁ」


 肩からようやく離れて、重さが解放される。

 何だか立ってるのも変なので、二人でベンチに腰掛ける。

 僕は深く、夢前は浅く、

 互いの距離は、近く。


「また、紙芝居見たいね」


 たくさん思い出の詰まった公園は、今も変わらない。あの紙芝居の物語みたいに、『思い出』に最終回のようなものはないのだ。

 無い。だからこそ、残り続ける。

 すがりついていたくなる。


「ああ。その後"レッドマスク"ごっこして、ジャングルジムの上に待つラスボスを倒したい」

「わたしはお姫様でもやればいい?」

「そうだな。お前は魔王の城に囚われてて、僕が助けに来るのを待ってるって感じで」


 昔を懐かしむっていうのは、はたから見たら無駄な事なのかもしれない。

 今の僕らも、二人で勝手に盛り上がっててアホらしいと思う。

 でも皆、そうやって生きているのだろう。

 過去にしがみつきながら、今が一番楽しいなんて気付きもせず、生きているのだ。

 ――そう、だから

 この街でまだ僕らは夢を見ていたい。

『今』なんてものを忘れた僕らは、ここで過去をずっと懐かしんでいたい。

 いつか、そんな過去も忘れてしまう日が来るまで、『今』に帰らなきゃいけない日が来るまで。

 

 もう少しだけ、ヒーローでありたい。

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