↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/26

【終幕】車輪は唄う-Forget Me Nots-

 言えなかった。


 別れを、僕は言えなかった。


 違う、こんな終わり方嫌だ。

 僕は僕の別れをちゃんと告げたい。

 あいつに、言いたい。


「くそっ!」


 ノロノロと走り出す電車を尻目に僕は改札を飛び越えて駅を出た。

 自転車の鍵を無理矢理ポケットから出して、急いで自転車に乗る。

 ダメだ。これじゃダメだ。もう遅いかもしれないけど、ダメなんだこのままじゃ……!

 ペダルに足を勢い任せに乗っける。痛い。でもそんなの今気にしてる場合じゃない。

 走れ、追いつけ、伝えろ! 僕が僕の言葉であいつに、最後の言葉を、聞こえなくてもいいから言うんだ!

 力任せに漕いだおかげか、スピードに乗れていない電車の横になんとかつける。下り坂だからスピードは出やすい。ガタンゴトンと大きな音が自転車の悲鳴みたいな音をかき消し始める。

 それでも、聞こえなくてもいい。かき消されたって構わない。

 伝われさえすれば、ちゃんと分かってくれさえすれば良いんだ!

 窓に寄り掛かる彼女の姿が見える。いける! 背を向けて下を向いている一人の為に、僕は目一杯の声量で声を張り上げて叫ぶ。


「じゃあなぁーっ!! ぜったいっ!! また会おうなぁーーっ!!!」


 こっちを振り向いたら見えるように、僕は右手で大きく手を振る。平行に走る車両の中には、見えてないし聞こえてないかもしれない。でも、どうにかして、伝わってくれと、僕はペダルをさらに強く踏み締める。車輪の悲鳴も、電車にだって負けてない。


「約束だぞおおーーーーっ!!! 忘れんなよっーーーー!」


 けれど、彼女は気付かない。背を向けたまま、僕の声が聞こえないまま……。


「ああっ!」


 一瞬バランスを崩して、スピードを落としてしまう。ペダルにうまく足が乗らなくて、すぐに立て直せない。そんな僕をゆっくり電車は離していく。

 あいつの姿も、段々と見えなくなってしまう。


「くそっ!」


 追いつく訳なんてないのに、なおもペダルに力を込める。


「動けっ! 動けよっ!!」


 錆び付いた車輪を、必死に漕いで、このまま自転車を壊すくらいの勢いで。


「もう一回! いけよっ! いってくれよ!!!」


 ……でも、それは遠くなっていくだけで、やがて視界からも消えていく。

 向こう側に、行ってしまう。


「ああ……いけ……よ」


 呆然と、足から離れたペダルを気にもせず、僕は立ち止まってしまう。

 ガタン。と自転車が倒れ、残された僕だけが何もない線路を見ていた。


「……いけよ……僕」


 汗が出て、涙が出て、全身が熱くて、息が荒い。


 たった一人の、自分の大切な人の、届かない背中に向かって、そのくらいの『証明』くらいしか僕には残せなかった。


 ここまで頑張ったと、誰に褒められる訳じゃない、褒めてもらう為にやったんじゃない、ちっぽけな『証明』が。

 伝えようとした、思い出が。


 ――町に、郵便バイクの音が聞こえる。

 ――町に、コンビニの入店音が聞こえる。

 ――町に、人の声が聞こえる。


 賑わい出した僕の町。

 朝を迎え、動き出すいつもの町。

 きっと、このまま三月八日が過ぎては、明日になって、明後日になって、一年を繰り返す。

 それは、至極当たりの事で、この先もそうであろう。

 けれど、僕にとっては、胸にぽっかりと穴が空いたみたいな日々のスタートだ。

 家族も、友達も、先生もいるけど、ふと、一人だけになってしまったかのような気持ちは、変えられないだろう。


 君という人間を、どうにか思い出そうとしても、すぐには無理そうだから、なるべく泣かないで待っているよ。


 そう誓った僕の上には、どこまでも続く朝焼けが広がっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。