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[8]パーロウ家、母と娘のお茶会議(2)

「レミリア嬢をお預かりする件については、プロプラム伯爵からもすでにご了承をいただいています」

「行動がお早いですね」

 テーブルの上に置いてあった一通のお手紙を手に持って、ひらひら振って見せてくるお母様。

 受け取ってみると、お父様からの手紙だった。

「昨晩、お父様にお話ししましたら、今朝早くから動いてくださったわ。この手紙は先程王宮から届けられたの」

 問題があるとするならば、と続けてお母様は言う。

「クリスティナ嬢でしょうね。レミリア嬢に“どこまでも付き添う”、と言い出すでしょう。(わたくし)としては彼女まで預かるつもりはありませんが」

 確かにあの様子では、付いて来ると言い出しかねない、と思う。

「ミリィを目の敵にしていましたし、レミリア嬢にも悪影響が出そうですからね。屋敷に一人預かれば、レミリア嬢をいじめるのではないかと、疑心暗鬼になることでしょうが……」

 そう言いながらため息をつくお母様。

「本来であれば、裾の汚れも庭園の花についても、ご家族が先に気がつくべきところですが、伯爵にしても男性だからか気が回らず、クリスティナ嬢も暴走気味で周囲が見えていない様子でした」

「……クリスティナ・メイ嬢は、ご自分の信じたものしか見えていないご様子でしたね」

 お母様の言う言葉に同意を添えながら、ふと以前お会いした時のことを思い出した。

「以前にもお茶会などで数度お会いしておりますが、もっと物静かな印象の方だったように思います。一部仲良しのご令嬢方とはお話が弾んでいたようですが、人見知りなのか他の方に対してはご挨拶以上の会話をなされていないようでしたし」

 お会いしたお茶会の殆どで、クリスティナ・メイ嬢は一通りのご挨拶を済ませた後、部屋の隅に逃げ込んでしまっていたように思う。仲の良い令嬢方がご一緒の際は、同じように部屋の隅へと集まり楽しげにお話していたようだったけれど、他の方達が近寄るとピタリと会話を止めてしまって、少々気まずそうな雰囲気になっていた。

 そういえば一度だけ、仲良しのご令嬢が一人も参加されていらっしゃらなくて、壁際でつまらなそうにお茶を飲んでいらっしゃったことがあった。

 少し気になったので、私から声を掛けてみたものの話が噛み合わず、結局彼女は「母のところに参ります」と言って去ってしまった。

 なにか読書の話をされたように思うものの、私が読んだことのない題名だったために会話が続かず、申し訳ないことをしたな、と思ったのだけれど。

(あの時の会話で嫌われたのかしら。でもその後別のお茶会でお会いした時には、昨日のような対応される程、嫌われているようには感じなかったのだけれども)

 そんな風に以前のクリスティナ嬢のことを思い出していると、「ああ、あれね」とお母様は少々皮肉ったように笑う。

「一部のご夫人とご令嬢で流行っている恋愛小説愛好会でしょう?貴女は読まないから知らないでしょうけれど」

と言いながら私をちらりと見る。

「そのような本も、少しは読んでみても良いのよ?」

「恋愛小説?そういうものがあるのですね。周囲で読んでいる方がいらっしゃらないので、目にしたことはありませんが」

「風俗本の一種ですからね。お父様も貴女に与えることはないでしょうし、私も好んで読みはしないから、貴女が知らなくてもおかしくはないけれど」

「クリスティナ嬢はそのようなジャンルの読書がお好きなのですね」

「そう、クリスティナ嬢だけでなく、お茶会の隅で話し合っている方たちはね。男性にはあまり内容を聞かれたくないし、風俗本と見下しているご夫人方もいらっしゃるしで、どうしてもコソコソしてしまうのでしょう。物静かなのではなく内弁慶、人見知りというより仲間内でしか会話ができない。他の方が開いているお茶会でやるようなことではないでしょうに、顔を見合わせればああなのだから、どうしようもないわね」

「今度ははっきりと辛辣ですね」

 お母様はしょうがない、という風に首をすくめる。

「恋愛小説を読むこと自体は本人の趣味の範囲ですもの、私は気にしないけれど。場をわきまえず行動してしまうのは、礼儀に問題があるでしょう?」

 だからね、昨日のアレはいつもの延長線上にあるのかもしれないわ、とお母様は言う。

「お母様にとっては、昨日のクリスティナ嬢は彼女らしいということなのですか?」

「いつも以上に積極的でしたけれどね。護らなければと思っている妹のことだからと、張り切ったのであれば納得もいくでしょう?」

「人のため、だからですか」

「そんな心優しい思いからくる行動であれば良いけれど」

とこれまた皮肉げに笑うお母様。

「妹のためとは聞こえが良いけれど、他人事だと思っているから無責任に動けるのよ。決まってもいない未来なのに『アンドリュー殿下と結ばれる妹が』なんてはっきり言っていたでしょう?あれが本当に相手を思いやってのことであれば、例えそれがすでに決まっている事実だったとしても、あんな大声で言えないわ。せいぜい『妹のために動いている私、素敵!』と考えているのじゃないかしら?逆に自分事であれば、彼女は一言も口に出せないと思うわ」

「言えませんか」


「言えないでしょうね。彼女自身もどうやらアンドリュー殿下に憧れているようでしたから」


「…………え?」

「茶話会中、アンドリュー殿下の姿を見るたびに頬染めていましたよ。いろんな方に妹を売り込んでいたのに、アンドリュー王子には挨拶以上の会話をしようともしなかった。恐らく緊張しすぎて言葉が出なかったのではないかしら。妃殿下の前ではちゃんとレミリア嬢を売り込んでいたのにね、本当に自己中心でいらっしゃること」

 お母様は、今まで以上に皮肉げな言葉を発したけれど、私は吃驚して嗜めることもできなかった。

「むしろレミリア嬢はアンドリュー殿下には無反応でしたわね。緊張しすぎていてそれどころではなかったのかもしれないけれど」

「……そうだったのですか」

 気がつかなかった、と膝に置いた手に視線を落とす。

 確かにそんなにまじまじと観察はしていなかったけれど。


 人の気持を察するのは難しい。


「気がついていなかったの?」

「はい」

 素直に頷く。

そんな私を見て、お母様はニヤッと笑った。


「ちなみに私が見ている間、レミリア嬢が一番頬を染めた相手は貴女よ、ミリィ」

「…………」


 それは関係ないと思います。


ブックマークや評価をくださって、ありがとうございます。

お盆休み中、コンスタントにUPして行こうと思っていたのですが、なんだかんだとお出かけせねばならず、気がつけば数日空いていました。

お休み中に、できればもう少しUPしておきたいと思っています。

皆様、暑いですが熱中症などに気をつけてお過ごしくださいね。

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