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[5]パーロウ侯爵夫婦の語らいは(1)

『お父様にねだって初めて訪れた王都。

 王都に到着した翌日は、毎年開催されている『豊穣の祭』の初日です。

 『豊穣の祭』は十月の中旬頃から一週間ほど、賑やかに開催されるんですって。

 その年の実りを神様に感謝するお祭りで、地方や隣国からも沢山の行商人が訪れて、出店(でみせ)が連なるのだそう。▶』


(わたし)はその日、お父様と連れ立って、ワクワクしながら街中(まちなか)にやってきました。

 お父様は、私の様子に呆れたように笑いながら、

 「迷子にならないように、私の側を離れてはいけないよ」

 そう言って、私をエスコートしてくれます。嬉しい!▶』


『「お嬢さん、あんた不思議な(えにし)を持っているようだね?良かったら占ってあげるよ」

 突然、出店のひとつから声が聞こえてきました。

 「不思議な縁?」

 私は吃驚して立ち止まり、そちらの方を振り向きました。▶』



★★★



 昼間の王宮茶話会から帰宅した後、娘のミリディアナとは別行動になり、そのまま他家で催される晩餐会へ、夫と連れ立って参加した。

 晩餐会は思いの(ほか)盛り上がり、屋敷へと帰宅したのは、深夜十二時を過ぎてからのことだった。

 本来であれば、明日(あす)の予定も決まっていたので早々に寝室へと引き上げたかったのだけれど、屋敷に届いていた一通の手紙が気になり、結局、夫の執務室に伴って入室すると、封を開けて中を確認することにした。

 夫は執務机とセットになった椅子に、私はその横に設置されているソファーに座ると、夫が手紙を読み終えるまでしばし無言で待つ。

「プロプラム伯爵からの謝罪だね」

「やはり、そうでしたか」

 読み終えた夫から、執事のハーマン(つた)いで手紙を渡してもらい、私自身も手紙に目を走らせる。

 昼間に行われた妃殿下主催の茶話会で、私達(わたくしたち)の娘ミリディアナに対してプロプラム伯爵令嬢であるクリスティナ・メイ嬢が発言した数々の言葉、それについての謝罪だった。


 昼間の王宮茶話会に参加していなかった夫には、ミリィがプロプラム・メイ嬢から(そし)りを受けたことについて、晩餐会会場に辿り着くまでの短い時間に、すでに説明してあった。

 晩餐会でも、茶話会に参加していた客が幾人も重なって来訪していたため、当然のように話題に上がっていた。


「プロプラム伯爵は、せっかく『聖女』を獲得したというのに、妙なところで窮地に立たされたものだね」

 私達の話す横で、執事のハーマンが邪魔にならぬようにと、静かにお茶を注いでくれている。

 『聖女』の噂が立ったのは、半年程前の昨年十一月頃のこと。

 『聖女』の実の父親であるカルダーニ子爵が、社交シーズンに合わせて王都へ足を運んだ際に、領地から初めて娘のレミリア・エイラ嬢を連れて来たことがきっかけだった。

「何故、プロプラム伯爵が、レミリア・エイラ嬢の後見人として養女に迎えられたのです?」

「元々カルダーニ子爵とプロプラム伯爵は、遠縁ではあるが親族でね、彼らの歳が近いこともあって行き来があったようだ。特にカルダーニ子爵は、王都に屋敷を構えていなかったから、社交シーズンは親族や友人宅を渡り歩いていたようでね。プロプラム伯爵家はその内のひとつだった」

そう言うと、夫は一度息をついてお茶を一口飲んだ。

「カルダーニ子爵自身は、一応貴族院の末席を埋める文官だね。わかりやすく評価すると、うだつが上がらない。娘を『聖女』として王宮に連れてきたり、それ相応の振る舞いを教育したり、『聖女』に起こりうる危険から娘を護るには、当人の力量も経済的余力も他の後ろ盾も足りなかった。王宮としても、レミリア・エイラ嬢が『聖女』であるなら、彼女に後見人をつけるべきだろうと考えたところまでは同じだったのだが……、私達が『聖女』の存在を確認できた時には、すでにプロプラム伯爵とレオーニ伯爵が争っているところだった」

「レオーニ伯爵も?」

 その名前を聞いて、私は少々顔を曇らせた。

 レオーニ伯爵は、我が侯爵家と同じ五大侯爵家のひとつ、ファレル侯爵の腰巾着。

 夜会でたまにお会いすると、ファレル侯爵夫人の周囲には、レオーニ公爵夫人以下取り巻き共がヒソヒソと……、いえ、頭の中だけとは言え、脱線するところではない。

「カルダーニ子爵は、どうやらレオーニ伯爵家にも社交シーズン中、良く宿泊していたらしい。むしろこちらの方が親しかったかもしれないね、領地の行き来もあったようだよ」

「では、なぜレオーニ伯爵が負けてしまったのですか?」

 個人的感情で言うならば、ファレル侯爵家と親しいレオーニ伯爵の元へ『聖女』が引き取られなかったのは幸いだと思っている。

 けれど、プロプラム伯爵家はそれなりの身代であっても、五大侯爵家のひとつが後ろに控えていないことを考えれば、『聖女』の後見人としては、レオーニ伯爵と比べるべくもない。

「理由は二つある。ひとつは、どうやらレオーニ伯爵の次男とレミリア・エイラ嬢の婚約話が持ち上がっていたそうだ。カルダーニ子爵家は子どもがレミリア・エイラ嬢だけでね。レオーニ伯爵の次男を婿養子として迎え入れる予定だったんだ。カルダーニ子爵としても、領地運営に苦戦していたようだから、レオーニ伯爵の援助を期待してのことでもあった。……ところが、レミリア・エイラ嬢が『聖女』となると話が変わってくる」

「過去の例だけを見るならば、『聖女』はどのような形であったとしても王宮に迎えられていますからね。『王妃』、『王弟殿下夫人』、他に『国王の養女』であったこともございましたね」

 夫は私の言葉に頷いた。

「婚約話が保留になり、その上男の姿があるように見えるのでは『聖女』の(ひん)が疑われる、と言う話になったらしい。それでレオーニ伯爵夫人が(へそ)を曲げられた。約束違反だ、息子への侮辱だと言ってね」

 ここも臍を曲げたのか、とプロプラム伯爵夫人の話を思い出してため息をついた。

 レミリア・エイラ嬢は、何一つ罪がないのに可哀想なことだ。

「そしてもう一つ。実はこちらの方が私達にとって問題でね。どうやら、最初に『聖女』の『印』を見つけたのは、件のクリスティナ・メイ嬢だったらしい」

 その話を聞いて、私は少々眉を潜めた。

「妃殿下からは、王都内で開催された『豊穣の祭』の出店で出会った『占い師』に見つけられた、と言う話を聞きましたが?」

「その後の調査でね、どうもレミリア・エイラ嬢に初めてあったその日に“右腕の内側に『聖女』の痣があるだろう”、と指摘したそうだ。本人は夢で()たと言っていたらしい。最初はプロプラム伯爵も娘の妄想だと思っていたそうだが、“翌日から開催される『豊穣の祭』で、南から来た占い師にも指摘されるだろう”とまで言い当てたらしい」

 私は思わず、驚き目を見開いた。


「……それではまるで、クリスティナ・メイ嬢の方が『予言者』か何かではありませんか」


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