狼人の少女の心情(1)
ご閲覧ありがとうございます。
箸休め回ではないですが、入れておくのがいいかと思いました。いつもより短いです。
▽は時間が経過する時に使用します。会話を重視するので多用すると思います。
戦って・・・戦って・・・戦って・・・戦って・・・。
戦って、戦って、戦って、戦い続付けた。
わたしたち、狼人属は、魔力適性が全くない。稀に、適応するものもいるが、ほとんどの場合が魔力保有量も精神力もステータスは0を示す。
わたしたち狼人属は、神に・・・世界に・・・嫌われているのだ。
わたしたち狼人属は、決まって固有スキルを持つ。スキルの名は『魔法接触』このスキルは、魔力を使えないわたしたちの、唯一の魔法に抗う手段。
効果は魔法に触れる事。火でも、雷でも、水でも、風でも、魔法で作り出されたものなら、それに手足で触れても効力を受けない。だから、わたしは戦場に出た。戦って、戦って、戦って、戦った。
魔法を弾き、魔法を壊し、魔法を潰し、魔法に抗う。それが、わたしの生きる手段だ。
皮肉にも魔法と戦う事で、魔石と食料をすこし得ることができるのだ。
娼婦になって、体を売る事もできるが、わたしは・・・男性種が嫌いだ。
▽
小さい頃のわたしの記憶。
「今日も、うーんとおめかししましょうね?」
「はい!お母さま!」
今日も着飾って、何処にいるか分からない。お父さまを探しにお母さまと都市を歩く。
「お父様に会った時に、嫌な思いをさせないように、かわいくしなきゃね?」
「はい!」
娼婦だったお母さまと、客であったお父さまとの間に生まれたのが、わたしだ。
無駄に魔石を費やして着飾ったその服は、まるでわたしたち狼人属が貴族にでも成れたかのような服装だった。
そうして歩く事、数刻後。
「・・・あ」
お母さまが、一人の男を見て口を開いた。
「探しましたわ!キョウヤ・イイジマ様!」
「あん?誰だ?」
両脇の女の肩に両腕を乗せる男に、後ろからお母さまは声をかけた。
「私です。ウェーリアです」
「ウェー、リア~?」
男に名を名乗り、思い出してもらおうと訴えかける。
腕を組んで男はこちらに向き合う。
「あ~娼婦の店で一回抱いた~。Dカップのいい感じのボインさんかぁ。尻尾もいい感じにモフってて、楽しめた奴だ」
「覚えておいででしたか!」
首をすこし傾けながら、空を見て、そんなことを呟いた男。
それに対して喜びの表情を見せるお母さま。
「そんな名前だったんだ~」
首はそのままに、お母さまをに目を向けて男が言う。
お母さまは目を見開いて、少し青ざめているようだった。
「あ、あの!娘ができましたのよ!さ、挨拶なさい?」
「はじめまして、お父さま」
お母さまに促される。教えてもらった貴族の礼でスカートを摘まみあげる。
「へー、で?」
男は無感情にわたしに目を向けた後に、お母さまに向かって言った。
「あ、あの、あなたと私の娘ですのよ?」
「だから、なに?」
お母さまが補足説明し訴えるが、男は無感情のままだ。
「あん?なに?この世界って、子供ができたから結婚する。みたいな法律あったっけ?」
男は付き人の女二人に振り返りながら問う。
「いいえ、そんなことはございません。この世界では、男性種が白と言えば白、黒と言えば白いものでも黒、黒と言えば黒ですし、白と言えば黒いものでも白になりまする」
「そーだよそーだよー」
瓜二つの顔をした女二人の赤い服の方が説明し、青い方が同意した。
「だ~よな~」
その言葉に男は満足し、ニヤけ顔でこちらに顔を向ける。
「じゃ、俺忙しいから~ってか、子持ちとかめんどくさいわ~」
「キョウヤさまひど~い」
「も~キョウヤさまったら~」
男はそういいながら、後ろ手に振ってその場を後にした。
お母さまは俯いて、服を握り締めている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
聞き取れないが、ぶつぶつと同じ言葉を繰り返しているようだった。
「お、お母さま、行きましょ?」
そういって、お母さまの服を掴もうとした瞬間。
―パシンッ
その手を叩かれる。
「あんたが居たからよ!!!」
「・・・え」
大声でわたしは怒鳴られた。
「あんたが居たから!あんたがいるから!あんたの所為よ!あんたの!!あんたが!!!あんたなんか!!!」
わたしは、繰り返されるその言葉を何度もぶつけられた。
何度も、何度も、何度も何度も・・・。
それから先は、よく覚えていない・・・。
確かなのは首を締めあげられたという事と、薄れゆく意識の中で最後に聞いた言葉。
「あんたなんか、生まなければよかった」
気が付いた時には、服は薄布1枚のような格好で、裏路地にいた・・・。
▽
それからわたしは明日を生きるために戦傭兵となった。
戦争の絶えないこの都市では、その度に傭兵を募っている。戦争は人手がいくらあっても足りない。その度に減るのだから当然だ。
戦争に勝てば、5魔石と戦争前の炊き出し。戦争後の炊き出し。
戦争に負ければ、戦争前の炊き出しのみ。
わたしの持つ『魔法接触』は、突撃に向いているのだという。いつも決まって先陣を切らされる。
武勲なんかいらない。敵の首もいらない。魔法だっていらない。ただわたしは、明日を生きるために戦うのだ。
娼婦で稼ぐとどうなるか?
戦友に聞いた話だと。
「男性種相手がほとんどで、男性種は羽振りがいいから、抱かせればとりえず500~2000魔石はくれる」
でもそれは、避妊や乱暴に扱うためのいわゆる、治療代なのだそうだ。
「それでも、戦で戦うよりはマシなんだよね~。それに、子供ができれば、もしかしたら娶ってもらえるってのも聞いたなぁ」
それは嘘だ。わたしが証拠なのだから。
「・・・」
「え?なんて~?」
ピーーーー
笛の音が戦の始まりを告げて、わたしは今日も戦った。
▽
最近は、特に戦が多い、しかも、勝ちとも負けともわからない、そんな戦ばかり。
なんでも、大津波の影響で、隣国同士が海域の奪い合いをしたり領土の奪い合いをしたりで、戦力投入のバランスが崩れているのだとか。
なんでもいい。戦があれば魔石が手に入る。魔石が手に入れば、明日を生きられる。
今日は珍しく戦争が2か所ある。1つ目が終わり、2つ目の戦場に行く。炊き出しがある。それだけでわたしには戦う意味がある。
男になんて絶対に抱かれてやるものか。
ピーーー
笛の音がなり、戦の開始が知らされる。
2つ目の戦場の敵は中王都市の一角なのだとか、そんなのはどうでもいい。わたしはただ、戦うのみだ。
だが、その戦場はいつもと違う。
戦場には見たことのない筒が多く配置されている。きっと魔道具の何かなのだろう。なんでもいい。魔法の道具ならば、わたしには関係ない。
今日も先陣を切って、わたしは駆ける。
「放てー!」
意味の分からない言葉と共に、筒から黒い塊が打ち出される。
わたしの頭上を通り過ぎ、わたしの味方の陣営を蹂躙した。
「ああ・・・」
後ろの惨状を見て、わたしは言葉をなくす。これは、戦にすらならない。
「ック・・・!」
それでもわたしは、敵陣に向かって駆ける。自分が、生きるために・・・。
蹴って、殴って、切って、叩いて、弾いて、潰して、蹴られて、叩かれて、突かれて、切られて、貫かれて・・・。
自己治癒スキルの持つわたしは、どんなに傷を負っても体力がある限りすぐに塞がるし、骨折だってすぐに治る。
わたしは、ただただ、戦った。
わたしの陣営も、応戦しているようだが、先ほどの筒から出る黒い塊に恐れて、あまり動けてないようだ。
準備に時間がかかるのか、再びその黒い塊が飛んでくることはない様子だ。
「降伏せよ!さもなければ、もう一度先の攻撃を加える!」
何を言っているのかわからない。
言葉が通じないんじゃ意味がない。わたしは無視して戦いを続ける。
そして、何人倒した後だろう。
「放てー!」
先ほど聞いた言葉だ・・・。まさか!
次の瞬間、またあの筒から黒い塊が後方へと飛んだ。
後ろを振り返ると、そこにはたくさんの死体。死体・・・死体・・・。
「もうやめよ!戦は決した!」
―また、分からない言葉を。
わたしは、さらに戦いを続ける。わたし一人になったとしても・・・。
▽
意識が薄れる・・・。立っているのもやっとだ・・・。
何か黒いものに寄りかかる。
これは・・・あの筒?
敵陣はすでに撤退した。これは、勝ったの?負けたの?
よく・・・分からない・・・。
肩を預けていた黒い筒に手をかける。
生暖かい・・・。おかあ・・・さま・・・?
『あんたなんか、生まなければよかった』
その言葉を思い出してしまい。びくりと体をはね起こした。倒れまいと筒に手をかけると、その勢いのまま筒が倒れ、わたしに覆いかぶさる。
わたしは、筒の下敷きとなった―。
ご閲覧ありがとうございました。
銀色ケモっ子少女需要はありますかね~
次回の投稿は1週間後に。