未練の旅立ち
ご閲覧ありがとうございます。
今回も、20分ほどお付き合いいただけると幸いです。
買い物を忘れている主人公の旅支度に関しては、明言しませんがヤツです。そのくだりは『イルナの心情(2)』に書いてありますので、気になっていただけたらご覧ください。
▽は時間が経過する時に使用します。会話を重視するので多用すると思います。
朝、気持ちのいい朝。
昨日が永遠に続けばいいと思っていたけど、朝は来るものです。
寝たままに天井を見て、何か忘れているものを思い出そうとする。
「やばい!」
忘れていたことを思い出し、ガバリと起きながら大声を出す。
「んん・・・、どうしたんだい?コウサカ」
目を擦りながら、眠気眼のアルミナさん
「あ、おはようございます」
「おはようコウサカ、で?何がやばいんだい?」
挨拶を交わす。挨拶は大事だ。だが、それどころではない。
「旅立つためのものを全く買っていないんです!」
いろいろあった所為もあるけど、何処まで抜けているんだ・・・本格的にポンコツさんという資格がないぞ。
「それなら、昨日イルナ様が魔車ごと、用意してくれたはずだろう?表にあったじゃないか」
魔車?外の馬車もどきの事?
「ああ、操縦方法を教えるよ」
▽
現在外で、魔車とやらのレクチャーを受けている。
「これ、都市内で全くみませんでしたけど、何かあるんですか?」
「高いのもあるけど、この都市はあまり大きくないからね」
外に出て操縦方法を教わったが、自転車とバイクそのままだった。
ただ、ペダル部分が付けはずし可能で、漕がないなら魔力で動くようになっているようだ。
魔力の注ぎ方は、ハンドルをバイクの様に捻るか、管のようなものについているスイッチ部分に親指で振れると、注げるようだ。
「これ漕ぐの大変では?」
「ああ、魔力のある我々は漕ぐ必要はない。重いし」
「ああ・・・、なんとなくわかりました」
「この都市では、奴隷は扱ってないから、他の都市に行ったら考えてみな」
言わなくても・・・奴隷か~、あんまりそういうのは欲しくないな・・・かわいそうじゃない。
「あー・・・実際、奴隷を買うのと魔力で動かすのって、どっちの方がコスパがいいのでしょうか」
「んー・・・奴隷次第だろうね。1魔力100mってところかな」
うん、奴隷はいらないや。奴隷の相場は知らないけど。そもそも、たぶん無限に魔力あるし。
「魔車屋に行けば、魔車を改造してもらって、3台とかにできるから、奴隷3人で漕がせることができるよ」
「奴隷はー、いらないですかねー」
この世界の常識なのだろうけど、アルミナさんがそんな事を平然と言うのに対し、俺は棒読みで返す。
「荷台の方の中身は、ポーションなんかと食料が大体10日分あるらしい。固定化魔法のかかった樽らしいから、お腹を壊したりすることはないだろう」
「固定化魔法ですか。それは魔法屋にはなかったなぁ」
いろんな魔法があるなぁ。すべての魔法を揃えたい気分になってきた。
「ああ、買い占めたんだってね。中王都市に行くって、はしゃいでたよ」
クスクスと悪戯っぽく笑いながらながら、アルミナさんが言う。
そういえば、猫人さんどうなったんだろう。魔族に何かされたようだったけど・・・。
「マ・ルサが?いや、大丈夫じゃないかな。あいつはこの都市でイルナ様の次に魔力適性値が高い。買い占めたなら、魔石もたくさんあるはずだ。最悪、何とかして逃げるだろう」
「そんな優秀な人材が、都市からいなくなったらまずいのでは・・・?」
結構有名な人だったのだろう。だからこそ、魔法屋を続けていられたのもあるのかもしれない。
しかし、そうなると本当に魔族が攻めてきたら・・・。
「まぁ、なんとかするさ。今、イルナ様が防衛のための作戦を練ってるはずだ」
残りたい、別に急ぐ旅でもないし・・・残ってもいいかもしれない。
でも、あの悪魔の狙いが俺なら?俺がここにいる方が危険かもしれない。俺は拳を握りしめる。
「ありがとね」
「俺は、なにも・・・」
「心配してくれるだけで十分さ。それに、貴重な男性種に何かあったら、世界が、私たちの都市が攻めてくるかもしれない」
そんな事情もあるのか・・・。どっちに転んでも、詰んでる気がする。どうしようもないなら、旅に出るとしよう・・・。
俺の方に来てくれることを願うばかりだ。
▽
入った門とは逆の門から出る準備をする。一応、魔族が逃げて行った方だ。
「行ってしまうのね。コウサカ」
いろいろな事から立ち直ったポンコツさんが、見送りに来てくれた。
「ごめんなさい。皆で見送りたいけど、魔族が来るかもしれないから・・・」
「いえ、いいんです」
「・・・」
拳を作って握り締めながらポンコツさんが言う。
ブレないなこの人、小声でも聞こえてしまったよ。最後に両手を伸ばしてきたのでハグだけしておく。どさくさに紛れて、頬にキスをされる。
「コウサカ、忘れないでくれるとうれしい」
「もう、会えなくなるわけでは・・・」
「・・・そうだな」
鎧甲冑に身を包み、旗をもっているアルミナさんが、根性の別れとばかりに見送りをしてくれる。
魔族に殺される可能性もあるか・・・。
「では、また・・・」
「「また」ねー」
後ろ髪を引かれる思いで、初めての都市を後にした。
▽
人生で初めての旅の始まりだ。
他人に用意してもらったものばかりだけど。
正直、ワクワクしている。
けど・・・やはり、魔族の事が気になって仕方ない。
アルミナさんが心配でたまらない。イルナ様は・・・まぁ、一応、心配ってことにしておこう。
「そうだ、試しに・・・」
地図魔法を念じて、発動させる。
周辺の地形を、上空から見降ろしたように表示される。
望みとして、生物、特に魔族がいないかとか、表示されないだろうか、とね。
「お?」
地図内に、赤い点がいくつか見えた。だが、それがどれで、なんなのか分からない。
「ダメか・・・」
地図魔法のLvが上がれば、もしかしたら変化があるかもしれない。
▽
繰り返す度、10回。
表示される広さや詳細情報が見れるようになった。条件検索や、非表示などの設定もできるようになった。
何故10回でやめたのかだが、表示されてる間は再発動できないらしく変化がなかった。消えるのを待ってる間に、いろいろ設定や詳細を見ていたのだが、集中してるところで消えるのが、イライラしてきたためだ。
敵対が赤丸、味方や人が青丸、動物や虫なんかが緑丸、建物や小屋なんかは黄色で四角、といった感じに表示されるようだ。
ちなみに赤表記なのは魔物。『イウシ』という、動物系のようだ。地図表示の詳細を見るにそんなに強くない。1Lv~6Lvの15体位の群れだ。地図だと姿形はわからない。
しかし、魔族、悪魔などは見当たらない。条件検索でも地図内には表示されない。
「別のところに行ったとか?」
その可能性も、無くはない。
「あの悪魔が居た時に、使っておけば・・・」
たられば言っても仕方ないが、悔やまずにはいられない。
では、どうするかだ。
俺のところに来てくれることを願い。少し遠くに行こう。
地図に最初の都市が見えて、かつ、魔族があっちに行ったら、すぐにでも行けるくらいの距離。
ちょうどいいところに、無人で未所持の小屋があるのが地図に移っているので、そこを拠点にさせてもらおう。
これなら、戻って滞在日数を伸ばせばいいとも思うが、俺が標的なら戻らない方がいいだろう。
進み出そうとして、地図が消える。
「面倒な・・・」
再び表示して進み出すと、方向が変だ。
「あっちか・・・」
小屋に着いて、中を見たが本当に誰もいない。地図で確認済みだったけど、地図の情報は当てにしていいようだ。再び地図魔法を使おうとして、自動化を思い出す。
「そうか、地図を自動化すればいいのか」
これで消えるウザったさがなくなる。
さて、アルミナさんはイルナ様と一緒に城で会議しているようだ。複数名固まっている。
「あれ?アルミナさんの家と城って逆じゃなかったっけ?」
疑問に思いながらも、あんまり見続けるのはストーカーっぽいからやめよう。
自分の周辺に何かないか見てみると、たくさんの灰色表示の荒野がある。
「なんだ?」
すこし、いやな予感を覚えながら、灰色表示の詳細を見る。
「うわ・・・」
表示されたのは『ジーズ・マクルアルカ(死体)』となっていた。灰色表示はすべて死体なのだろう。戦場の後なのかもしれない。
「ん?」
灰色表示の中に、一つだけ青表示の点がある。
詳細を見ると『狼人』となっていた。亜人か?
体力が17/1538しかない。見つけてしまったのを見殺しにしたくないので、灰色の点だらけの荒野に行く事にした。
「んー?」
また進む方向を間違える。
▽
やはり、戦場の後のようだ。
山積みになっていたり、あちこちに散らばっていたりと、たくさんの死体がある。
「うっ・・・何か焼けた匂い・・・人の焼けた匂いってこんな匂いなのか?」
例えるなら、灯油が腐ったかの様な匂い。鼻を摘まむ。
この中を、たった一人生き残った狼人がいるはずなので探す。
探すと言っても、地図魔法が出っ放しなので、拡大すればすぐにわかるけど。
「俺がここで、あの辺がこうで・・・?」
なんとも、分かり難い。小屋の時も、何か違和感があったけど・・・。
「もしかして・・・」
いやな予感がして、見ている地図表示を、紙を捲り返すようにした。
「ああ・・・なんか変だと思った」
裏返しに地図を見ていたから、いろいろ変だったようだ。
『・・・』
ん?なんだろう、懐かしいような、聞き覚えのあるような、苛立つような、そんな不敵な笑いが頭に響いた気がする。
いや、気にしてる暇はない。狼人の体力が8になっている。
急がないと。何ができるかは分からないが、このまま見殺しにするなんて、誰ができるものか。
正確になった地図を頼りに、狼人のもとにまっすぐ走る。
そこには砲台が横倒しになっている。武器や兵器などは、地図に表示されないようで分からなかったな。
横倒しになった砲台の下から、銀色の髪(毛並み?)、髪と同化した耳と頭部、そしておそらく左手が見える。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今退ける!」
途絶え途絶えの何度も繰り返す声に答えて、砲台をどける。筋力ステータスのおかげだろう。重くもなんともない。
「・・・・・・・・・・・・」
砲台を退けて姿を現したのは、綺麗な銀色の髪の少女。
荒れ果てた戦場と、それを悲しむかの様な曇り空。雲に一片の穴が開き彼女を照らす。
砂埃にまみれ、血まみれなのにもかかわらず。目を奪われるような綺麗な銀色の髪の少女。
お姫様抱っこで、優しく抱き上げる。あと3の体力を如何すればいいだろう。幸い、これ以上体力が減っている様子は無い。手足が折れたりなども・・・していないようだ。
魔車に何かあるかもしれない。細心の注意を払い、優しく抱き抱えたまま、小屋に戻ることにした。
ご閲覧ありがとうございました。
1章の終わりとします。章の作りがよくわからずに見切り発車したので、とりあえず、普通に続けていきます。やり方がわかればさらっとやっておくかもしれません。
戦闘入れたいのですけど、どうしようかな~と考え中です。
次回の投稿は1週間後に。