異世界初恋との最後の晩餐
ご閲覧ありがとうございます。
今回も、20分ほどお付き合いいただけると幸いです。
若干いつもより長いです4500ギリギリになりました。前の話に少し持って行ってもよかったかもしれませんが、次が見たくなるような終わり方にしているつもりなので、仕方ありませんね・・・。
▽は時間が経過する時に使用します。会話を重視するので多用すると思います。
「本当に詠唱なく使えるのだな」
その声に鳥人ステータスから意識を反らされる。
鳥人の声が、先ほどと変わり野太い声になった。男というよりは、獣などがしゃべっているような感じだ。
「あの猫人の言う事は本当のようだ」
猫人・・・!?
「猫人さんに何かしたのか」
「まぁしたような、してないような。か?」
猫人さんの安否が心配なので聞いてみたが、あやふやな答えが返ってきた。
返答に苛立ちを覚えて、握っている手にさらに力を籠める。
「ぬぐ・・・ま、まて。このままでは」
―グシュ。
音と共に手を握りつぶしてしまう。
「っく。この馬鹿力め・・・」
潰れた手は霞となり、空気に溶けたように見える。血が出てないのはなんだ?
拘束が解かれた、鳥人(?)が後ずさって距離を取った。
さて、このまま逃げられてしまう訳にはいかない。聞きたいこともあるし。再び掴みにかかろうとする。
「コウサカ?」
「―!アルミナさん来ちゃだめだ!」
俺の後ろから、アルミナさんの声がした。振り返りながら注意喚起すると、そこにアルミナさんの姿は無かった。
「あれ?」
バサリ、バサ、バサ。
音の方に振り返ると、鳥人(?)が飛び去った後だ。
「そういえば、幻聴魔法ってのがあったな・・・」
今度は詠唱してないようだったけど、スキルの致死緊急魔法発動ってのが関係してるのかな?
攻撃系の魔法を持っているけど、使ったことがない。挙動が分からない魔法を、本番で使う自信はない。それに、仮に当たってステータスの差で、そのまま死なれたら情報が得られない。
考えているうちに、鳥人(?)は豆粒程度にしか見えないほどに、遠くに行ってしまった。
何か、痕跡でもないかとあたりを見回す。
「馬車?」
馬車・・・というには、馬はおらず、馬の代わりに、バイクのような形をした自転車のようなものが連結されている。漕ぐ部分はあるけど、形がバイクのように足を置く部分がある。
さっきはこんなものは無かった。これを届けにきたなら、何故ドレインを俺に?でも悪魔付ってなってたしなぁ。
「コウサカ!大丈夫かい!?」
またも後ろから声が聞こえる。先ほどのもあるので、少し警戒しながら後ろを振り返る。
「今度は本物のようですね」
そこには、間違いなくアルミナさんがいた。それと、ポンコツさんと小隊規模の兵士もいる。
「何のことだい?いや、それ「大丈夫なの!?コウサカ!!」」
心配してくれるアルミナさんの言葉を遮って、ポンコツさんが飛びついてきた。
ドレスに数カ所、鉄の板が装着されていて、胸当てなども装備されている。ドレスアーマーと言えばいいのか。一応、受け止めてあげる。鉄部分がちょっと痛い。
「怪我とかは無いですけど、よくわかりましたね」
「都市核の力よ。領主は都市核に接続してるから、その力を得ているの。だから、魔族が現れたのを察知して、衛兵を連れてきたんだけど、本当に怪我したりしてない?」
「大丈夫ですよ」
「脱がせてもいい?」
「ダメですよ」
ポンコツビッチさんが、体のあちこちを触りながら説明をしてくれる。
接続ね・・・一体俺は何に接続しているのか、それとも接続できるということかな?
「本当に大丈夫そうで良かったよ。けど、その魔族は何処に?」
「飛んでいきました」
そういって飛んで行った方を見ながら言う。すでにその姿はなかったけど。
「そうかい。こんな昼間だから、軽く倒せると思ったんだけどね」
腕を組みながら目を瞑り、少し残念そうに教えてくれた。
「昼間の魔族はすごく弱いらしい。安全圏だから戦ったことはないけどね。初戦闘、初勝利で、みんなの自信向上にうってつけだと思ったんだ」
そういえば、ステータスに『月光回復』ってのがあったな。月という事は夜が関係してくるのかな。
「魔族のステータスを見れたの!?」
俺のつぶやきにポンコツさんが反応し、顔近く聞いてくる。いい加減離れてほしい。「見れた」と聞くってことは、常識的ではない事をしたかな?
「Lvは!」
「60でしたね」
「・・・」
場の空気が凍り付く。
「どうかしました?」
「勝てないわ・・・」
やっと離れたポンコツさんは、真剣な顔で顎に手を当てて何やら考えながら呟いた。
「昼間とか関係なく・・・勝てないわ・・・また襲ってくるかしら・・・」
「簡単に「コウサカ」」
俺の言葉を遮って、アルミナさんが人差し指を立てて口に当てている。言わない方がいいという事か?
「兵長?」
「いえ」
「・・・?そう?コウサカは?何か言いかけなかった?」
「あーいえ、なんでも」
ポンコツさんが、首をかしげている。
「イルナ様、魔族はもういないようですし。昨日の書類のチェックをされたほうがよろしいのでは?コウサカの事情聴取は、私がしておきます」
「うっ、そうね。じゃぁ任せるわ。みんなも撤収するわよ」
「ハッ」
「兵長の報告は、明日でいいわ」
「了解いたしました。イルナ様」
▽
現在、アルミナさんの家で向かい合っている。
「さて、どうやって撃退したんだい?」
「右手を・・・」
「右手を?」
アルミナさんの問いに、自分の右手を見てから、アルミナさんの目を見て言う。
「握りつぶしました」
「・・・ップク・・・あはははは」
俺の言葉がそんなにおかしかったのか。噴出したと思ったら、お腹を抱えて笑い出す。
「やっぱり、コウサカは異常だね。疎過ぎるし。異世界人だから、神の恩恵がすごかったりするのかい?」
「いや・・・どうなんでしょう。比べる相手がいないですし」
笑いすぎて、零れそうな涙を指で拭いながら、俺に問いかけてくるアルミナさん。やはり、ばれていたようだ。
「そうかい・・・。ねぇコウサカ」
そして真剣に顔を向かい合わせて。アルミナさんが言葉を紡いだ。
「あたしを気にいっているなら、あたしと結婚して、ここに住んでくれないかい?」
窓から差し込む朱色の陽射しが、アルミナさんの髪を煌めかせ魅力を最大限引き出すようだ。
本来なら、二つ返事で「はい」と答えているところだし、むしろ俺から申し出たいくらいだが。
「・・・すいません」
勿体ない・・・こんなに気が合って、こんなに素敵な人で、体の相性もいいみたいだし。だが、俺は異世界の人だから、この世界に居続けることはできないだろう。
「そうかい・・・まっ、わかってたさ」
顔を伏せていたので、表情は読めなかったが、声が震えていたので、悲しませてしまったのは間違いないだろう。
アルミナさんが椅子を引いて立ち上がり、顔が見えないように背を向ける。
「出発は・・・明日だろう?あの魔族のこともある。早めにこの都市を出た方がいい」
体を交えておいて、無責任であると思う。2回目は自分から誘ったんだ。
「俺は、・・・アルミナさんの事が好きです。一人の女性として・・・」
「ああ・・・ありがとう。あたしもコウサカが好きだ。でも、コウサカについて行くわけにはいかない」
「ええ、イルナ様が大切なんですよね」
「・・・」
互いに、互いの事情が分かり合っている。それでも結ばれないこともある。
沈黙が二人の間を流れる。
ぐぅ~
ぐるるる~
その沈黙を破ったのは二人のお腹の虫の音。
「「ップ・・・あはは」」
二人で笑い合う。
「さて、じゃぁご飯を作ろうか」
「お願いします」
図書館でのポンコツさんの事や、魔族襲来があって、二人とも昼ご飯を食べ損なっている。
外はすでに朱色に青が混ざり始めている。夜ご飯を取る形になるだろう。
▽
この都市での、最後の晩餐だ。
今日の晩御飯は豪勢だ。いや、いつもアルミナさんの作る料理は、元の世界の何よりもおいしい。それが俺の好物のカレーなのだから、これに勝るものはない。
「これ、俺が好きな食べ物です!」
「そうだったのかい?なら、ちょうどいいね」
平皿にご飯を乗せ、鍋に入ったカレーをお玉で掬い、その上からかける。俺のカレーは半々。これぞカレーライスでライスカレー、5対5が黄金比だ。これは譲れない。
「お、コウサカも5対5かい?」
「アルミナさんもですか?」
二人で笑い合い、盛り終わって手を合わせる。
「「いただきます」」
スプーンで掬って口に運ぶ。口に運ぶ・・・。運ぶ・・・。
カレーは、こっちの世界でもカレーだ。ただ、豚肉の味がする魚のような肉感がするくらいで、他に変わりはない。と、思う。人参がリンゴっぽい味がしたのは気のせいだろう。
「おいしいです・・・あれ・・・」
「コウサカ?」
アルミナさんの手料理が、これで食べれなくなるのかと思うと、涙が零れてきた。声が震えているのが自分でも分かる。
「グスっ・・・いえ、本当においしいです・・・」
「コウサカ・・・」
最後の料理を、黙々と口に運ぶ。
気が付くと、アルミナさんも涙を流しているようだった。
▽
鍋のカレーは空になり、二人で食器などを洗う。
ちなみに、キッチン蛇口も殆ど元の世界と変わらない。シャワーの時と同じように、パネルがあるのでそこに手を置くと水が出る。
「おっと、魔力切れだ」
「魔力切れ?」
その言葉が示すのは、水のことのようだ。
「もしかして、パネルに手を翳すのって魔力を入れてるとか?」
「説明してなかったっけ?」
使い方だけでしてないです。
「パネルに手をかざすと、魔力が吸われて、その魔力を水に変換して抽出してるのさ」
「なるほど・・・」
説明をくれながら、今度は魔石を取り出した。
「魔石を直接翳しても、吸収されるんだよ。こっちの方が目に見えるから、わかりやすいかね」
俺は魔石を翳すのを止める。
「俺の魔力を使いましょう」
「そうかい?ありがとう。でも、変換効率はかなりいいから気にしなくていいよ?」
変換効率・・・どれくらいなんだろうか。
「1魔力1リットル、手から吸収されるのは、1度に100魔力分だ。もう一度手をかざしたときに使わなかった分が返ってきて、止まる。端数は持ち越しだったかな」
「なら、毎回魔石でいいのでは?」
「まぁ慣れだね。あたしら兵士は訓練で魔法も使うし、たまたま切れただけさ」
知らない事もまだまだ多いな・・・しかし、機械的だったり、魔法的だったり、よくわからない世界だ。
▽
外は完全に夜だ。
二人でベットに入って横になり、向かい合う。
「コ、コウ・・・サカ」
「はい?」
恥ずかしそうに俯いて、アルミナさんが俺の名前を呼ぶ。
「最後に、その・・・」
アルミナさんが指遊びをしながら、言葉を詰まらせる。ここで女性の口から言わせる男がいるものか。
「俺もしたいです」
二人とも服を脱ぎ。正座で向かい合う。
「うん。本当に怪我はないみたいだね」
「まさか、それを確かめるために?」
「いやいや!ついでにさ!心配だったんだ・・・」
アルミナさんが指遊びを再開する。
「どうかしました?」
「いや、その・・・最後なんだし・・・・・・」
小さすぎる声に聞き逃してしまい。顔を近づけて聞き直す。
「すいません。聞き取れませんでした」
「・・・・・・」
俯いたアルミナさんの顔。優しくほほに触れて、顎の下に滑らせ。顔を上げさせる。
「アルナ」
ご閲覧ありがとうございました。
『アルナ』はアルミナさんの家を出る前の名前なので、間違いではありません。
アルミナさんの「大丈夫か!?」を「大丈夫かい!?」に変えました。
次回の投稿は書き溜めが結構あるので、確認が終わり次第か1週間後に。