第1章ー7「ヤンデレパニック」
「じゃあ、私はクエストに行ってくるから、タクオはラファの世話を頼むな」
「ああ。了解」
そう言い残したサーニャは部屋を後にした。
「今のやり取り、夫婦みたいだね」
「お、おい茶化すなよ…」
卓生はラファのからかいに顔を赤くしたが、満更でもなさそうだった。
「それにしても…」
「ん?」
「お前が俺達と打ち解けてくれてよかったよ」
卓生は穏やかな表情でラファを見つけた。
「うん。私も、タクオくんとサーニャちゃんと会えてよかったと思っているよ。こんなに優しくて、こんな私を受け入れてくれたんだから…」
「ああ」
「それに、今日は私を護るためにタクオくんが私の側にいてくれる…だからね…」
「ん?」
「今日はずっと私の側にいて…絶対に私から離れちゃ駄目だよ。私、信じているから…タクオくんはあの人達みたいなことは絶対にしないでね…」
ラファは卓生の腕にしがみついた。
「あれ? タクオくんどうしたの? 返事して。聞こえなかったのかな? じゃあもっかい言うね。卓生くん、今日は私から離れないで…ずっと側にいてね…」
「あ、ああ…分かった…」
卓生は濁った目をしながら自分の腕にしがみついているラファを見て怯えた表情をした。そのため、彼の声も少し震えていた。
(あれ…ラファってこんな子だっけ…なんかめちゃくちゃ怖いんだけど…)
卓生は冷や汗を流していた。
(そういえば…現実世界で俺が読んでいたラノベでこんなキャラの子、いた気がするな…その手の子って確か…)
卓生はラファを見ながら、自分が読んでいたラノベの登場人物の1人と重ねていた。
「ねぇ、タクオくん。さっきから変な顔しているけど、大丈夫?」
「え? あ、ああ…大丈夫だよ…」
「様子がおかしい…なにか隠している?」
「い、いや…別に…」
「ねぇ、もしかして私以外のこと考えている?」
「え?」
「サーニャちゃんは私のお友達だから考えてもいいけど、私とサーニャ以外の女の子のことは考えちゃだめだよ…じゃないと、私、ひどいことするよ…?」
「ヒッ! ご、ごめん…」
卓生はラファの気持ちの重さにすっかり怯えきってしまった。
「じゃ、じゃあ…俺はトイレに…」
卓生は逃げるように立ち上がったが、しかし…
「駄目」
「え?」
「どうしても行きたいなら、私も一緒に行く! 恥ずかしいけど、見ているから!」
「ええ…」
卓生はすっかりラファのペースに振り回されていた。
※
「さて…今日はどのクエストに行くかな…」
その頃サーニャはクエストボードを見ながら、悩んでいた。
「よし、今日は思いきって上級者コースを受けるか」
サーニャは上級者コースの張り紙を取った。その張り紙にはこう書いてあった。
『1匹のボスモンスターから頭、体、しっぽの鱗合計3つ採取せよ』
「さ、行くか」
サーニャは上級者クエストを受注した。
※
「今回はモンスターを倒すだけじゃなくて鱗の採取だからな…はぁ、大変だな…」
サーニャは面倒くさどうな顔をしながら、洞窟の中を歩いていた。
「そういや、タクオ達は大丈夫かな…ラファは優しいけど、時々目が濁っていた時あったからな…」
サーニャはどうやらラファの心の底にある狂気に気づいていたようである。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!」
サーニャが歩いている洞窟の奥からモンスターの鳴き声が聞こえた。
「くっ…もうモンスターの近くに来たのか…いや、モンスター自ら私の方に向かって来ている!?」
サーニャはモンスターの動きを察した。その理由は
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」
サーニャはその場に止まっているが、モンスターの声がだんだん大きくなっているからだ。
「だが、ただ待ってるだけじゃ、モンスターが一体何属性なのかわからん…よし、私もモンスター(おまえ)のところへ行くぞ!」
サーニャは意を決して走り出した。そして、お互いがお互いのもとへ向かっていたため、サーニャとモンスターはすぐに邂逅をした。
「モンスターは見る限りだと火属性か…だったら!」
サーニャは水色の魔法指輪をつけ、水魔法を発動した。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」
サーニャの魔法を受けたモンスターはひるんだ。
「まだまだぁ!」
サーニャは水魔法を打ち続けていた。そして、彼女はあることに気づいた。
(あれ…? 私、3発以上打てている…? いや、それどころかもう10発以上打っている気がする…)
そう、サーニャは以前まで三発で1つの指輪の魔法が使えなくなっていたが、今現在、その3発を超えたのだ。
(よっし! 行けるぜ!)
サーニャは水魔法をモンスターに打ち続けた。
「はあああああああああああああああ!」
そして
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」
モンスターは倒れた。
「よっしゃ! 倒したぜ!」
モンスターを倒したサーニャはガッツポーズをした。
「ああ、いかんいかん…鱗採取しなきゃな」
サーニャはナイフを取り出した。
「よし、こいつを使って採取だ」
サーニャはモンスターから鱗をそれぞれ頭、体、しっぽから1つずつ、合計3つ採取した。
「さ、そろそろ帰るか」
▼サーニャは100ポイント獲得した
▼サーニャは4000G獲得した。
※
「うーん…ここ2週間タクオと一緒にクエストを受け続けたが…ようやく1500ポイントか…」
サーニャはパーティウォッチを見ながら、悩んでいた。
「よし、あと2、3回上級クエストを受けるか!」
サーニャはクエストボードへ行き、再びクエストの受注をした。
※
「ただいま」
クエストを受け終わったサーニャは寮に帰ってきた。
「あ、サーニャちゃん! お帰り! クエストお疲れ様!」
ラファはクエストから戻ってきたサーニャを抱きしめた。
「はは…ところで、タクオ。お前、かなり痩せたな」
「…」
卓生はげっそりとした顔で横たわっていた。
「お、サーニャ…お帰り…」
卓生の声は虫のように小さかった。
「卓生、お前どうしたんだよ?」
サーニャは卓生に手を伸ばした。
「いや…ヤンデレって怖いなって…」
「?」
卓生はサーニャの手を掴み、立ち上がった。
「ラファの愛情が物凄く重くてさ…多分、今の俺は胃に1000個ほど穴が空いたかも知れんな…」
「それは大袈裟だろ…」
「で、でも…」
「お前がどんな目にあったかは知らんが、ラファは前のパーティーで酷い目にあったから、信じられる人を見つけて嬉しいんだろ。だから、。大目に見てやれ」
「そ、それもそうだな」
「さ、明日はお前が外に出る日だ。クエストに関しては無理に受ける必要はない。街を歩くなりしてもいいからな」
「い、いや俺は別に…街は勿論歩くがポイントと金も欲しいし、クエストは受けるぜ」
「そ、そうか」
サーニャは卓生を穏やかな表情で見つめていた。
「さ、私達は風呂に入るか。ラファ」
「待って」
「?」
「私、今日はタクオくんと入る!」
「え?」
サーニャはラファの発言に目を丸くし
「え?」
卓生の声は怯えていた。
「な、なんでそうなるの…?」
「だって私、タクオくんと入りたいもん!」
「なぁラファ…お前は女の子なんだから、もっと恥じらいを…」
サーニャはラファを諭そうとしたが…
「そ、そっか…」
「…!?」
次の瞬間、ラファは濁った目をした。サーニャはその様子に驚きを隠せなかった。
「じゃあ…」
「…」
「3人で入ろっ!」
「…え?」
ラファの提案にサーニャは再び目を丸くした。
「3人だと、もっと楽しそうだし!」
「わ、私は…」
サーニャは躊躇したが…
「いいよねっ!」
「う…わ、分かったよ…」
サーニャはラファの押しに負け、3人で風呂に入ることを承認した。
「タクオ…」
「は、はいなんでしょう…?」
「お前、私の裸見たらただじゃおかないからな…」
サーニャは戸惑ったままの卓生を睨みつけた。
「は、はい…」
卓生は最早なすすべがなかった。
※
「…」
「はーい。じゃあ、背中洗いますね」
「おう」
卓生はお互い背中を洗っているサーニャ、ラファに目もくれずに湯船につかっていた。
(これはやばいな…今すぐにでも上がりたい…でも、早めに上がったらラファがなにしてくるか分からないしな…)
卓生は考え事をしていた。その時
「じゃあ…次はタクオ君が私の背中洗って」
「え?」
「お願い。私もサーニャちゃんの背中洗ったからさ」
「サ、サーニャ…たすけ…」
「知らん」
「うう…」
卓生はサーニャに助けを求めたが、彼女はそっぽを向いたため、彼はおとなしくラファの背中を洗った。
「…」
「タクオ君、上手だねぇ!」
「いや、そんなこと…」
卓生は目を逸らしながら、ラファの身体を洗っていた。
「じゃあ、そろそろ流すね…」
「あっ、待って」
「な、なに?」
「肝心なところ洗い忘れているよ」
「ど、どこ…?」
卓生がおそるおそる聞いた途端、ラファは卓生の手を掴み
「ほら、ここ洗って」
自分の胸に当てた。
「え、えええええええええええええええええ…」
卓生の災難は続く…