第4章25-「二つの人格」
「ルーフ・ヴァルキュリア...貴様にやっと会えたな。私の恋人を殺した恨み、晴らしてもらおう!」
ハヌマーンが抱えていた復讐は、ルーフに恋人を殺されたのが理由だった。
「ふっ、お前ごときが俺様に勝てると思うな:
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ハヌマーンは卓生...の身体をしたルーフに襲いかかったが
「ふっ...」
「なっ...」
ハヌマーンの攻撃をあっさりかわし、その直後指一本で彼を下した。
「ぐあっ...」
「この攻撃程度で俺様に勝てると思ってるの? そんなんじゃ甘いよ」
「ぐっ...貴様」
「よっと」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
更にトドメとばかりにルーフはスピリット・スパーダでハヌマーンを斬り裂いた。
「まさか、タクオがあの剣に呑み込まれなかったのって、あのルーフという男が身体の一部になっていたせいか...?」
「じゃあ、サーニャちゃん。何で今までルーフの人格が表に出なかったの?」
「多分、今までタクオは無意識にルーフの人格を支配下に置いて抑え込んでいたけど...ハヌマーンの態度を見てタクオの感情がこれまで以上にむき出しになって、闘争本能が働いた。そして、その隙を見てタクオの人格を乗っ取ったと言うべきか?」
サーニャは卓生がこのような状態になった理由を考えた。
「おいおい...恋人が殺された怒りはその程度か?」
「貴様...どこまで俺をコケにすれば気がすむんだ」
「コケだと? それはお前も同じじゃないか? ルール上仕方ないとはいえ、お仲間さん二人を殺したんだからさ」
「だ、黙れ! 恋人を殺された憎しみを晴らすにはその手段しかなかったんだ!」
「あ、じゃあ言っておくけどこの俺ルーフ・ヴァルキュリアは既に死んでいるんだよ? 君はその死人を追いかけていたんだよね。もう死んでいるから。それに君のお仲間さんももしかしたら仲間とか恋人とかいるかも知れないよ。君はその人たちに復讐される覚悟の上で殺したの? はい、ロンパ」
ルーフに言葉攻めされたハヌマーンは何も答えられなくなった。
「...ごめんラファ、キョウ。タクオが身体を乗っ取られた理由は他にもあったわ」
「え?」
「それって、どういうことですか?」
「この前にタクオから聞いたんだが、イキリオタクって言うのは自分が有利な状況になった時、相手にマウント取ったり正論っぽいことを言って相手を論破するんだよ...」
「それで...?」
「卓生とルーフのイキリオタクという特長がマッチしてしまったことで、あっさり身体を乗っ取られたのかなって...あいつはタクオの嫌な部分を詰め込んだ感じがするからな」
サーニャは呆れながらルーフを見つめていた。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ! 例え私のやっていることが正しくなくとも、貴様さえ殺せば私の気分は晴れるのだ!」
「あらあら...すっかり俺の挑発に乗ってらっしゃる。もう笑えるよ」
ハヌマーンはルーフのペースに飲まれてしまっていた。
「あいつムカつく...一発殴るかな?」
「落ち着いてください!」
「サーニャちゃん、気持ちは分かるけど二人の戦いの邪魔はしないのー。いい子いい子」
ルーフを無意識に卓生に重ねていたサーニャは怒りをむき出しにしていたが、キョウとラファに抑え込まれ(ラファに至っては抱きしめて頭を撫でる行動にまで出た)少しだけ落ち着いた。その時
「おい...さっきから俺の身体で好き放題しやがって。ふざけんじゃねぇ!」
「うぉっ! なんだ!?」
「俺だよ...桐井卓生だよ!」
ルーフの人格を押しのけ、卓生の人格が戻りかかっていた。卓生の左目は黒色に戻り右目は紫色のままだったため、半分ずつつまり身体に二つの人格が動いているということになる。
「お前...俺の邪魔をしてただで済むと思ってるのか!?」
「お前こそ、俺の身体を乗っ取ってただで済むと思っているのか!?」
本人たちはお互い言い争っているつもりだが、側から見れば卓生が一人で喧嘩しているなんとも見苦しい光景だった。




