第4章ー23「怒り」
「それでは、能力祭決勝戦を始めます。それぞれのチームは準備をしてください」
司会の言葉に答えるかのように、卓生のチームとハヌマーンのチームはそれぞれフィールドに立った。
「まずは、桐井卓生率いる史上最強の戦士!」
卓生たちが紹介された瞬間、観客が沸いた。
「ふふ、まるで人気者になったみたいだ」
「全く、お前はいつも呑気だな...」
サーニャは得意げになっている卓生に呆れた。
「それでは、次にチームゴッド!」
そして、チームゴッドことハヌマーンたち3人が現れた。
「チームゴッドか...ふざけた名前してやがるぜ」
「貴様こそセンスが無いパーティ名だな。今すぐ改名しろ」
「へっ、やなこった。自分でつけた愛着のある名前をお前なんかに言われて易々と改名できるかってんだ」
卓生とハヌマーンは戦闘が始まる前に口喧嘩を始めてしまった。
「いや、卓生...センスが無いと思っているのは私も同じ気持ちだ」
サーニャは引きつった顔をしながら、卓生の肩を叩いた。
「えぇ...なんだよ」
卓生は仲間からもパーティ名を酷評されたためか、少し間の抜けた表情になった。
「それにしても、あの男がハヌマーンか...かなりの強敵になりそうだ」
サーニャは険しい表情になっていた。
「ドルーシさん...あの人とは同じ競技だけど、実際に戦い合うのは今回が初めてなんだよね。一筋縄ではいかなそうだし、心して挑まなきゃ...」
ラファは緊張し、強張った表情になっていた。
「僕は今、この大きなフィールドで戦いを挑もうとしている。奴隷だった時では考えられないことだ...絶対にみんなの足を引っ張らないようにしなきゃ」
キョウも気合を入れていた。
「お、ラファちゃんだ。強さも分からないし、私を楽しませてくれると嬉しいな」
「サーニャさん、あの人の強さは競技の時点で確信している...ハヌマーンの頼みとはいえ、どんな戦いになるかワクワクしてきたぜ」
ドルーシとダリューも気合いを入れていた。「ルールはチームから1人ずつ戦います。そして、最終的に勝ち残った人が多いパーティか相手のチームを全滅させた人のパーティが勝利になります。そして、司会は私アーム・ヴァルキュリアが務めます!」
「...ヴァルキュリア財閥が」
ハヌマーンは心底不愉快な表情をしていた。
「それでは、試合を始め...」
「ちょっと待て!」
「ん?」
アームが試合開始の合図をしようとした途端、ハヌマーンが呼びかけた。
「例えば、私の不注意で味方のやつが死んでも、俺は罪に問われないか?」
「それはつまりどういう...?」
「だから、味方を倒しても私は失格にはならないかって聞いたんだ」
「ああ。故意でも過失でも、味方を倒してしまった場合でも試合は続投します。要は、味方が的に倒されたのと同じ扱いになりますので失格になることはありません」
アームは丁寧に説明した。そして、説明を聞いた後、ハヌマーンは不敵な笑みを浮かべた。
「だってさ。お前らはここまでよく私を導いてくれた。だが、お前らは決勝戦では邪魔だ」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ハヌマーンはドルーシとダリューに衝撃波をくらわせた。そして、もろにそれをくらった2人は倒れた。
「な、何...!?」
卓生たちはハヌマーンが味方に手をかける様子を見てしまい、衝撃を受けた。
「おいてめぇ...あの2人はお前の仲間じゃないのかよ!」
「仲間? あいつらは私が決勝戦に進む為に利用した駒さ。なんでも、能力祭ってパーティを組まないと参加できないらしいからな。全く困ったもんだ」
「ふざけるなぁ! お前に人の心というものはないのか!」
卓生は激昂し、駆け出そうとした。しかし
「やめろタクオ!」
「離せ! こいつは俺が一発、いや百発くらい殴らないと...」
「落ち着け。あいつを倒すのは試合のコングが鳴ってからだ」
サーニャは卓生の耳を引っ張り、無理矢理彼に諭した。
「分かったよ...だったら、今この試合が始まった途端にお前をぶっ倒してやる!」




