第1章ー6「心開いて」
「すみません…ラファさんは別のパーティーに籍を置いていますので、あなた方のパーティーに入れることはできません…パーティーの責任者を呼び、その方に解消手続きをさせて貰うことはできますが…」
「だからぁ、そのパーティーが問題なんだよ! あんたも知っているだろ? シャイセの評判の悪さを!」
「は、はい…悪い噂は聞いていますが…」
「じゃあ今すぐ抜けさせろよ! あんた受付だろ? 不可能ってことじゃないだろ?」
サーニャと受付嬢はラファのパーティー脱退を巡って言い争っていた。
「まぁまぁサーニャ、ちょっと落ち着いて…」
「ふん」
「あの、パーティーの責任者を呼ぶ以外に、パーティーを抜けさせる方法はありますか?」
「うーん…後は、パーティーとはぐれるか解消手続きなしで別れてからその日を含む3日間会わなかったら、勝手にパーティーから解消されます」
「わ、わかりました」
卓生は受付嬢の話を聞き、納得したかのようにサーニャ、ラファと共に集会を後にした。
「3日間か…」
「別れた日も含むってことは、実質2日間…決闘はそれまでお預けかぁ…」
「あ、あの…すみません、私なんかのために…」
ラファは自分のために悩んでいる2人を見て、おどおどしていた。
「いや、ラファは悪くない。それと、私達に敬語を使う必要はないぜ」
「え…? でも、前のパーティーでは後から入ってきた人は一カ月間敬語を使えと…」
「だーから。お前が前にいたクソパはそんなゴミルールだったんだろ? 私ら史上最強の戦士はそもそもルールとか存在しない。強いて言えば…なるべく無事でいてくれることだ」
サーニャは諭しながら、ラファの頭に手を添えた。
「…」
ラファは何も発しなくなった。
「あ、すまん。撫でられるの嫌だったか…?」
サーニャはラファの頭から手をどけた。
「ち、違うの…私、こんな優しい人達に会えてよかったなって…」
ラファは今まで自分を縛りつけていた鎖から解き放たれたかのように心が軽くなり、その嬉しさで涙を流した。
「…」
サーニャは黙ったままラファに抱きついた。
「ふわっ…サ、サーニャ…ちゃん?」
「今まで辛かったな…よくここまで耐えたよ…でも、明後日でそんなのは終わるから、もう少し頑張ってくれよ…」
サーニャはラファにつられたかのように涙を流した。卓生はそれを微笑ましく見ていた。
「あ、あんま見るなよ!」
サーニャは卓生の方を向き、そして睨んだ。
「いいじゃねーか。それより、2日間どうする? ラファを1人にするわけにはいかんだろ?」
「そうだな…では、明日はお前がラファの面倒を見ていてくれ。その間に私がクエストを受ける。その代わり、明後日は私が面倒をみる。お前はクエストを受けるなりそこらへん出かけるなり好きにするんだ」
「わかった」
「とりあえず。今日はもう遅いから私はシャワーを浴びた後に寝る。ラファはどうする? 一緒に入るか?」
サーニャはラファに聞いた。
「う、うん…私も一緒に…入りたい…」
「つーわけで、私達はシャワーを浴びてくるから、お前絶対に覗くんじゃないぞ」
「へいへい」
サーニャは卓生に忠告しつつ、ラファを連れ、バスルームへ向かった。
「全く…騒がしいやつらだな…」
卓生は疲れからか、近くにあった椅子に座り込んだ。
※
「…」
「…」
サーニャはシャワーでラファの髪を洗っていた。
「それにしても、ラファ髪が長いな…」
「うん。でも、サーニャちゃんの髪も可愛いよ」
「か、かわ…」
サーニャはラファの何気ない一言で顔を赤くした。
「ん?」
「わ、私がこの髪にしたのは動きやすいと思ったからだ。決してかわいいのを意識したわけじゃ…」
サーニャはそう言いつつも満更でもない表情をしていた。
「それと…」
サーニャはなにを思ったのか、ラファの胸をわしづかみした。
「ひゃっ…な、なにするの!?」
「いや…大きいなって…」
「うう…だからっていきなり揉まないでよ…」
「悪い悪い。でも、本当に大きいな…はは…」
「サ、サーニャちゃん!? 気を落とさないで!? 大丈夫! 成長すると大きくなるから!」
ラファは自分の胸を揉みながら、濁った目をしているサーニャを必至にフォローした。
「じゃあ、交代ね」
「うん。じゃあ、流すぜ」
サーニャはラファの身体についている泡を流した。
「じゃあ、サーニャちゃんの髪洗うから座ってね」
「おう」
サーニャは座り、ラファはシャンプーを彼女の髪につけた。
「じゃあ、あわあわつけるね」
ラファはサーニャの頭を洗い始めた。
「…」
「ん?」
「サーニャちゃんの髪、つやがあって綺麗…」
「え?」
「短いけど、すごく鮮やかだね」
「いや、そんなこと…」
「あるよ! サーニャちゃん、髪だけじゃなくて全てが可愛いもん!」
「お、おい!」
ラファはサーニャに思いきり抱きついた。
「うりうりうり~」
「全く…」
サーニャは楽しそうなラファを見て微笑んだ。
「ラファ、だいぶ洗ったからそろそろじゃないか?」
「そうだね、じゃあサーニャちゃん上がりますか?」
「そうだな。流してくれ」
「はーい」
ラファはサーニャの身体についている泡を流した。
「あーさっぱりした」
「じゃあ、上がって寝よっか」
「おう」
2人はバスルームから出た。
※
「じゃあ、私達は寝るからお前はシャワーでも浴びるんだ」
「了解。おやすみ」
「ああ。じゃあい、行ってくるわ」
サーニャとラファは同じベッドで眠り、卓生はバスルームへ向かった。
「…」
卓生はシャワーを浴びていた。
「それにしても…シャイセとかというパーティーは一体なんなんだ…? 酷い所なのはラファを見たら分かる。だが、俺は集会所どころか街ですらいかにも悪そうだと思う奴らは見かけなかった…」
卓生はラファのいたパーティー、シャイセのことを考えていた。
「まあ、あいつらの素性が分かるのは決闘の時だな。とにかく、明後日が来るまでラファを護るか」
卓生はラファを護るという、固い決心をした。