第4章ー12「能力祭SideK 3」
生産部門の競技第一回戦で合格したのはキョウを含み10名だった。
「おめでとうございます。君たちが合格者です」
レイはにこやかな顔で合格者10名に祝福の言葉を送った。
「それでは、あなた達には今からその武器で殺し合いをしてもらいましょう」
そして、レイはすぐに表情を切り替えた。その表情はとても冷徹な印象を与えるものだった。
「…」
その反面、キョウは険しい表情から一切顔を変えていなかった。
(僕はもう覚悟はできている…どんなことがあろうと最後の1人になるまで生き残ります…!)
キョウはとっくに心の覚悟を決めていた。
「ですが、やはり準備が必要な方もいますでしょう…10分だけ時間を与えますので、それぞれ待機室を用意しましたのでゆっくりお過ごしください」
そして、10名の選手たちはそれぞれ自分達の待機室へ向かった。待機室はまるで公衆電話ボックスのような人一人分入れる程度のスペースであった。意外なことに、レイのルールに対して不満の声を上げる人間は一人もいなかった。
「…はぁ…はぁ…」
キョウは自分の胸に手を当てていた。彼は覚悟こそは決めていたが、とても緊張をしていたのだ。
「僕は人を殺せる覚悟はできたし、痛めつけられるのは奴隷時代に何回もやられたから覚悟はとっくにできているはずだ…」
キョウは自分に言い聞かせるように呟いていた。
「でも、僕は勝つことをしたことがない…前にタクオさん達と敵に立ち向かった時も、結局足を引っ張ったばかりだし…」
キョウは自分と他のパーティーメンバーとの能力差を比較し、悩んでいた。その時
「!?」
キョウはなにか外から音がしたことに気づいた。そして、その音が気になった彼は扉を開けた。
「へっ! 騙されやがって! 死ね!」
選手の一人がキョウに斬りかかった。しかし
「やはりそうでしたか…」
キョウは剣を間一髪でかわし、弓矢を構え、そのままそれを敵に当て、返り討ちにした。
「がっ…!」
そして選手はそのまま倒れた。
「おい貴様…」
「レ、レイ・コーク…」
倒れた選手の元にレイがやってきた。
「貴様、10分待機していろと言ったはずだが…まだ3分しか経っていないぞ」
「ぐっ…」
レイは選手のことを厳しい眼差しで見つめていた。
「油断している選手を攻撃するのは確かに作戦としては素晴らしいものだ。だが、この競技のルールに従わない人間は必要ない」
そして、レイの目が赤くなり、彼女の姿がみるみる変わっていった。そして、レイは人間の姿から3つの顔を持ったドラゴンの姿に変貌した。
「お前みたいな人間は真っ先に消えろ!」
そして、レイは3つの顔からそれぞれ青い炎、赤い炎、緑の炎を吐き出した。、
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!」
そして、3つの炎をくらった選手は跡かたもなく消えた。
「ふぅ…」
選手を消した後、レイは元の姿に戻った。キョウはこの一連の流れを最後まで唖然としながら見ていた。
「君の場合は正当防衛なので不問にします。では、始まるまで残り5分なのでしばらくお待ちください」
レイはキョウを許した後、その場を去った。
※
「…はっ!」
その頃、卓生は待機室にいた。彼はどうやら眠っていたようである。
「いかんいかん…悩みがあるとすぐ寝るのが俺の悪い癖だ…」
卓生は目をこすった後、あくびをした。
「まぁ、寝ている間は何も考えなくて済むし、いい方法なんだけどな。それにしても不思議な夢を見たもんだ」
卓生はどうやら衝撃的な夢を見たようだ。
「その夢の話、俺にも聞かせて貰えないか? 格闘使い」
「うおっ!? 何だお前か…」
卓生の見た夢の内容が気になり、彼に話しかけて来たのはハヌマーンだった。
「なんでお前に話す必要がある?」
「能力祭という大事な時なのにも関わらず、呑気にお昼寝なんてできるやつの夢の内容を知っておけば、何かヒントになると思ったからだ」
(こ、こいつ…どこまで俺をコケにすれば気が済むんだ…それに、悩みの原因の1つはお前のせいでもあるんだよハヌマーン。お前が羽沼に似ているせいで…)
卓生はハヌマーンの嫌味な発言や言動に腹を立てていた。
「まぁ、色々だ。俺が仲間のピンチににエールを送る夢や俺がみんなと一緒に学校へ行く夢とか…」
卓生は内心では嫌がりながらも夢の内容を話した。
「仲間か…俺にはそんなものは必要ない。それに、まだ優勝が決まった訳じゃないのに学校に行く夢を見るなんて…心底能天気なやつだな」
「な…てめぇから聞いておいて…」
「優勝するの俺だ。全ては復讐のためにな…お前のように遊びで能力祭に参加しているやつに負けるわけがない」
ハヌマーンはそう吐き捨てて去って行った。
「なっ…あの野郎…」
卓生はハヌマーンに殴りかかろうとしたが
『やめろタクオ。あいつへの怒りは決勝戦でぶつけるんだ。ここで喧嘩を買ったところで意味はない!』
リューが怒りに震えている卓生をさとし、彼を抑えた。
「…分かりました。決勝戦であいつにひと泡吹かせて見せます」
卓生は渋々リューの言葉に従った。
※
「そろそろだ…」
キョウはパーティウォッチの時間表を見ながら、息を呑んでいた。そして
「タクオさん…サーニャさん…ラファさん…上手くいくか分かりませんが、僕はこの競技を頑張って見せます!」
「それでは、殺し合いスタートです!」
「よし! 行きます!」
キョウは合図と同時に待機室の扉を開けた。
本作はLINEノベルでも投稿予定です




