第4章ー5「能力祭SideT 5」
これは桐井卓生が小学校5年生の頃の話である。
「おい。羽沼」
「なんだ桐井?」
羽沼琴太と桐井卓生は幼馴染である。2人は物心ついた頃から仲良しなのである。
羽沼は銀の短い髪をしており、身長は卓生より高い。そして、美形である。
「お前、オランダに引っ越すって本当か?」
「...どこでそんな話を?」
「昨日享子から聞いたんだよ。で、享子は母さんから聞いたって...」
「そうか。お前、知っちまったのか。俺が引っ越すこと」
「なんで俺に言わねーんだよ」
「その...お前に言うと、お前まで寂しくなるからさ...」
「そんなの! 黙って消えられる方が寂しいよ! で、いつ引っ越すんだ?」
「あ、明日だけど...」
「よし! まだ間に合う!」
「え? 何が?」
「いいからついてこい!」
「お、おい!」
羽沼は卓生に腕を無理矢理引っ張られ、ある場所に連れて行かれた。
※
「こ、ここって...」
「ここは俺とお前のお気に入りの場所だろ?」
羽沼は卓生によって河川敷に連れて来られた。
「よく、こいつでキャッチボールしてたよな!」
卓生は羽沼に野球ボールを投げた。
「うぉっと...ああ! 幼稚園の頃からやってたよな!」
羽沼はボールを投げ返した。
「お前ともうこんなことができなくなるのは...寂しいな...」
「...」
「でも、お前が頑張れるなら、俺も頑張るぜ! それにまた会えるんだからな!」
卓生は思い切りボールを投げた。
「まぁ、桐井が頑張るなら俺も頑張るよ...」
羽沼は照れながら眉毛をいじった。
「これは桐井が持っていてくれ!」
羽沼はボールを卓生に投げ、卓生はボールと共にぶつけられた思いの丈を受け取った。
※
「お兄ちゃん! ニュース見て! 琴ちゃんが...」
「羽沼がどうした?」
テレビを見ていた享子は血相を変え、卓生をリビングへ連れて行った。
『速報です。オランダ行きの便がハイジャックされ、小学5年生の男の子が家族と共に殺害されました。殺されたのは羽沼太郎さん、羽沼琴歌さん、羽沼琴太君です。』
「...」
卓生はショックのあまり、絶句していた。
「なん...で...羽沼...なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
卓生は手に持っていた汚れた野球ボールを握りしめ、涙を流した。
※
「お前...羽沼なのか...?」
卓生は恐る恐るハヌマーンに聞いた。
「羽沼? 誰だそいつ? 俺はハヌマーンだ」
「え? でも...」
「残念だが、今の俺は転生前の記憶がない。復讐を代償に記憶を失ったからだ」
「復讐...?」
「ま、ヒーロー気取りのお前は『復讐は何も生まない』とか『悲しくなるだけ』とか安っぽい言葉を言いそうだがな」
羽沼は軽く卓生を挑発した。
「いや、俺は言わないよ」
「何?」
「お前の気が済むならそれでいいし、それに何も知らない俺に復讐を止める資格はないよ。ただ、そのせいで自分の記憶が無くなるのは辛くないのかなって思っただけだよ」
卓生は冷静に羽沼に聞いた。
「辛くはないさ。そのおかげであのハイジャッカー共をこの世界に呼び出し、苦しませて死よりも恐ろしい運命を辿らせたからな」
「そんなことが...」
「ああ。やつらに不死身の能力を与え、100年経っても脱出できないダンジョンに監禁し、更にそこに手強いモンスターを100体ほど連れて来させた。やつらは未だ悲鳴をあげているだろうな...ふふふ...」
これまで無表情だったハヌマーンがついにほくそ笑んだ。
「だが、俺にはもう1つ復讐をしなければならん...それはヴァリュキリュア財閥のやつらだ。あいつらにも死よりも重い思いをさせてやりたい...」
卓生は「重い」と「思い」に反応し、少し笑いそうになったが必死に堪えていた。そして、彼はハヌマーンの様子を見てあることを考えていた。
(こいつは俺に似ている...ブチギレた俺を常に保っている感じだ...)
「あいつらは俺の大切な人を奪った...必ず復讐を果たしてやる...記憶と引き換えに得たこの力でな...」
ハヌマーンは血相を変えてヴァリュキリュア財閥への憎しみを表していた。
「羽沼...いや、ハヌマーン」
「なんだ。格闘使い」
「お前、くれぐれも暴走しないようにしろよ」
「俺は暴走なんてしない。お前と違ってな」
「な、なぜ俺が暴走しやすいのを知っている...?」
「最初の競技の時、お前が必死に自分の感情をコントロールしているのが目に見えた。しかも、あれは一歩間違えばなりふり構わず暴れだしそうな感じだった。それで分かったのさ」
「...」
「とりあえず俺たちは決勝までお預けだ。ま、せいぜい生き残ることだな」
ハヌマーンはそう言い残し、卓生の目の前から去った。
「...」
卓生はなんとも言えない表情をしていた。
能力祭卓生編はここで終わりです。




