第2章ー9「リュー=スア」
今回は後日談のようなもので、次章へのプロローグでもあります。余談ですがヒロインの父親ってあまりラノベでは見ませんよね
シャイセのメンバーのダスト、ミュル、トラッシュは窃盗や暴行、恐喝の罪が露見し逮捕された。そして、スピリット・スパーダは一時期、署に預かって貰ったが、その後今の状態では無害ということで正式に卓生の武器になった。そして、武器屋の主人はソウルの部下に雇われていたことが発覚し、逮捕はしない代わりに永久出店禁止の刑になった。
※
卓生達は今、カフェのような場所にいた。
「それにしてもタクオ…お前、その姿はどうにかならないのか?」
「ああ…その姿ね。一応、元には戻れるぜ」
卓生はスピリット・スパーダを鞘にしまい、鞘についている黒い紐のようなものを引っ張った。すると、彼の姿は元の冴えない陰キャに戻った。
「ああ…一応、姿は戻れるみたいだな」
サーニャは少し困惑気味になりながらも、一安心した。
「それでタクオ、お前に聞きたいことがあるんだが…」
「ああ」
「私の父さんに会ったというのは本当か?」
「会ったうちに入るのかな…そもそも本人か分からんし…確証がないわ」
「はっきりしろよ…」
「じゃあ、逆に聞くがお前の親父の名前はリュー=スアであっているか?」
「そうだけど」
「じゃあ、間違いないな。お前の親父だ」
「それにしてもどうして…? 賢者が生き返らせたから、あの剣の中にいるはずはないと思うんだが…」
サーニャは頭の中で引っかかっていた。彼女の父、リュー=スアはスピリット・スパーダによって魂を取りこまれたが、その直後に知り合いの賢者に生き返らせて貰ったため、一命は取り留めている。記憶喪失と言う代償を払って…
「サーニャ、俺はそれで疑問に思ったんだが…その賢者とやらが胡散臭いと感じている」
「な、なにを言っているんだ!? あの人は私達家族とは昔からの付き合いなんだぞ!」
「サーニャ。お前の気持ちも分かる。だが俺はそれが本当かどうか疑わしいと感じているだけだ。取り敢えず、俺はお前の親父に会ってくる」
卓生はそう言いながら、サーニャにスピリット・スパーダを差し出した。因みに、それは卓生が自身で改良を施したため、使用者が飲み込まれる心配はなくなった。
「私にどうしろと?」
「これで俺を刺してくれ」
「は? お前、正気か!?」
サーニャは卓生のとんでもない発言に驚いていた。
「正気だ。お前の親父に会うにはこの方法しかない」
「だったら、私が」
「お前じゃ難しい。あの剣の中で動けたのは俺とお前の親父だけだからな。それに、お前にはヒーリングがあるから、それで俺の傷を治せるだろ?」
「…分かったよ」
「キョウとラファが戻ってきたら、事情を説明してくれたら助かる。心配はかけたくないからな」
「ああ。じゃあ、行くぜ!」
サーニャは卓生をスピリット・スパーダで刺した。
「ぐっ…いざ刺されると、中々キツイ…な」
卓生は意識を失った。
※
「…ん?」
「よぉ。また会ったな」
「リュー=スアさん…」
卓生はリューに再び暗闇の中で巡り合った。
「おいおい。そんなに固くなるなよ。それで、俺に何の用だ?」
「リューさん。あなたの娘、サーニャから聞いたのですが、あなたはサーニャが生まれたばかりの頃、スピリット・スパーダに刺されたのですよね?」
「ああ。そうだが。それにしてもお前、サーニャと知り合いだったのか」
「はい。同じパーティーで仲良くしています」
「そうか」
リューはどこか安心しきったような顔をしていた。
「それで、話の続きですが知り合いの賢者さんに生き返らせて貰ったと聞きましたが、あなたに賢者の知り合いはいましたか?」
「いたといえばいたな。ただ、そいつは俺がここにくる3日前に何者かに殺されたと聞いたがな」
「!?」
「それにしても、生き返らしたのだとしたらおかしな話だ。もしも本当に生き返してもらったのだとすれば俺は未だここにいることはない」
「そうですよね…」
「で、俺の肉体はどこへ行ったんだ?」
「それは…分からないです…」
「俺も分からない。すまんな。手掛かりとか言えなくて」
「いえ…そんな…」
「それと、お前に頼みがある」
「なんですか?」
「お前の身体、少しだけ貸してくれ。サーニャと話がしたい」
「え、ええええええええ!?」
卓生はリューの一言に驚きを隠せなかった。
「そんなことできるんですか!?」
「まぁな。大丈夫だ。3分経ったら戻る」
「それ、どこのウ」
「おっと。そういうことはあまり言うもんじゃないぜ」
「…すみません」
「じゃあ、行ってくるぜ」
「あっ、ちょっと!?」
リューは卓生の目の前から消えた。
※
「あっ、タクオ戻ってきたか」
「でも、様子が少しおかしいような…」
「うん」
サーニャは卓生の身体が動いたことを確認した。しかし、キョウとラファは少し違和感を覚えていた。卓生の目が赤くなっていたからである。
「サーニャ。俺はタクオじゃない」
「え?」
「タクオの身体を借りたリューだよ」
「ええ!? パパ!?」
「それにしても、赤ん坊だったお前がこんなに大きくなるなんてな」
「う、うん…」
サーニャはまだ戸惑っていた。
「で、私に何か用?」
「お前と会いたくてな。それと、お前に伝えたいことがある」
「な、なに?」
「知り合いの賢者がいただろ? あいつは偽物だ。間違いない。なにせ俺の魂が取り込まれる前、何者かに殺されたからな」
「そうだったんだ…」
「まぁ、でもお前や母さんを責めないでやってくれ。お前はまだ赤ん坊だったし、母さんはあいつが殺されたことを知らなかったからな。寧ろ、あいつが殺されたことを早く伝えていればな…」
「い、いや。パパは悪くない。私に自分を責めないでとか言っておいて、パパこそ自分を責めているじゃん!」
サーニャは彼女なりにリューを慰めた。
「ははは…そうだな。そして、俺の肉体の手掛かりはダイトウ学園にあると考えている。あそこには俺の知り合いの他に優秀な教授や学者もいるからな」
「ああ…」
「偽賢者の手かがりは詳しくは分からんが、俺の知り合いの賢者は、週に一度に賢者の集会に参加していた。それだけは言える」
「わ、わかった」
「おっとそろそろ時間だ。俺はタクオに戻るぜ。またな」
リューが卓生の身体から離れたことで、卓生の身体は眠るように意識を失った。




