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第1章ー12「サーニャの悩み」

「…」

「…」

「…」

「…」

 卓生達4人は寮に戻っていた。

「タクオ。まずお前に聞きたいことがある」

「なんだ?」

「あの時、私達が剣を見て怯んでいる間、なんでお前は平気だったんだ?」

「理由は分からないが…逆にどうしてお前らは身体に異変があったんだ?」

 卓生は3人に理由を聞いた。

「…私は分からないかな」

「…僕もですね」

「サーニャは?」

「私は少しだが、分かるかも知れない…」

「そうなのか? じゃあ、教えてくれ」

 卓生はサーニャに聞き出そうとした。

「確かあの剣は、使用者の人格を乗っ取る剣と言われている『スピリート・スパーダ』だ。でも、何故こんな所に…」

「なんだその、ダサい名前の剣は…」

「あの剣は使用者のステータスと噛み合ってない限り、人格を乗っ取られてしまう恐ろしい剣だ。それで、乗っ取られてしまったやつはただ欲望にままに剣を振る肉の塊になってしまう…」

 スピリート・スパーダについて話しているサーニャはどこか憂いを帯びた表情をしていた。

「見ている奴が身体に異変を感じるのはどうしてだ?」

「それは、見ているやつもそのスピリート・スパーダに取りこまれそうだからだ。あの剣は人格だけじゃなく、相手の魂も取り込もうとしているからだ」

「やけに詳しいな…」

「…」

「サーニャ…?」

 サーニャは顔を下に向けた。そして

「ラファ、キョウ」

「なに?」

「なんですか?」

「お前等は先に寝ていてくれ」

「…わかったよ。キョウちゃん、行こう」

「は、はい」

 サーニャの心中を察し、ラファとキョウは寝室へ行った。

「タクオ…落ち着いて私の話を聞いてくれ」

「あ、ああ…」

「私の父は私が生まれて間もない頃にスピリート・スパーダに魂を取り込まれたんだ。モンスター討伐に行く途中、何者かがその剣を持っていてだな。そして、その剣の所有者も間もなく意識を乗っ取られ、死んでしまった。それで、その剣は行方不明になってしまった…」

「そうだったのか…お前の親父さんが…」

「私のパ…父さんの肉体は知り合いの賢者が魂を錬成したことで一命を取り留めた。だが、それを代償に記憶喪失になってしまって…それで今はどこか旅に出てしまった」

「一命は取り留めたと言え、不完全な状態で蘇らせた賢者をお前は恨んでいないのか…?」

「そんなことはない。記憶喪失にはなったが、生き返らせてくれたから感謝はしている」

「お前、強いんだな…」

「そんなことはねえよ…それで、私の父さんの手掛かりが『聖ダイトウ学園』にあるということが分かった。それで私は能力祭で優勝して、絶対にその学園に入って手掛かりを見つけてやると考えたんだ」

「なるほど。それでか…」

「ああ…しかもダイトウ学園には父さんの手掛かり以外にも、父さんの友人や記憶喪失に詳しい学者もいる。だから、そこから探すのが手っとり早いと私は思った」

「お前がその理由でダイトウ学園に入りたいのは分かった。だが、そのこと2人は知っているのか?」

「まだ知らない。そもそも私は、ラファとキョウを参加させるつもりはないからだ」

「なぜだ?」

「私はあの2人を私の都合なんかに巻き込みたくないんだ」

「そうなのか…」

「それに、私はお前も能力祭に参加させるつもりはない」

「は!?」

 卓生はサーニャの発言に驚き、思わず身を乗り出してしまった。

「どうしてだよサーニャ!」

「パーティーのメンバーがいなくても、ポイントさえあれば参加はできる」

「そうじゃなくて! なんで俺は参加させないんだ!」

 卓生は内心焦っているということは自覚しつつ、サーニャに問い詰めた。

「じゃあ逆に聞くが、お前は憧れていた異世界に来てまで、難関な学校に入って、難しいことをしたいか?」

「…!?」

「いいか。聖ダイトウ学園は前に話した通り、入学者が少ないんだ。どんなに頭がいいやつでも、入れるのは一握り、それに入学権を賭けた能力祭にも勝てるのは1つのパーティーだけだ。それに、学園で学ぶ内容は物凄く大変と聞く。お前はそれでも私について行くか?」

「…」

卓生はサーニャの問いに答えることはできなかった。彼はせめて何か一言言おうと思ったが、言葉が詰まり、口が塞がれてしまった。

「じゃあ、私は寝るぜ」

「ああ…」

 サーニャは寝室へ行き、卓生は呆然と立ち尽くしたままだった。


       ※


翌朝…

「ふぅ…ようやく決戦の日か…」

「そうだな」

「はぁ…怖いな…」

「私も」

卓生達はシャイセとの約束通り、集会所へいた。

「俺はあいつらにひと泡吹かせられることができるから、楽しみだぜ」

卓生は気合十分な感じだった。

「はぁ…お前は呑気だな。相手があんな武器を持っているんだぞ?」

「そんなことは分かっているよ。たださ、俺はあいつらをぶちのめしたい以上に、あの武器がどんなものかということも知りたいんだ」

「あんな危険なものが気になるのか!?」

「ああ…」

 サーニャは戸惑いを見せた直後

「それとさ、タクオ…昨日のことは気にしてないのか?」

「昨日?」

「ほら、ダイトウ学園のことだよ。私はあの時、感情的になってしまった。お前がダイトウに入る道もあったはずなのに、それを否定してすまなかった」

 サーニャは昨晩の言動を詫びた。それに対し卓生は

「あー気にしてないよ。寧ろ、サーニャは俺の心配をしてくれてああ言ったんだろ? だから、ありがとうな」

 卓生は怒るどころか、サーニャに感謝をした。そして

「うー…なに言ってるんだお前は!」

 サーニャは顔を赤くし、卓生を軽く叩いた。

「本当に仲良いね…」

「うん! かわいい!」

 その様子を見ていたキョウはきょとんとし、ラファは和んでいた。

「それにしても、あいつら遅いな…」

「まさか、あの剣が…」

 サーニャは昨日の戦闘を思い出しながら、不穏な表情を浮かべていた。その時

「よぉ! 俺達に挑む無謀パーティー様よぉ!」

 シャイセの3人がやってきた。ダストは物凄く無礼な挨拶をした。

「遅いぞてめぇら。どうしたんだよ。まさか、怖気ずいたのか?」

「誰がお前らなんかに怖気ずくかよ。ヒョロヒョロして弱そうなお前、ガキみたいなお前、役立たずのお前、そして奴隷のお前が俺達なんかに勝てるはずないだろ! ぎゃはははははははははは!」

 トラッシュは完全に卓生達史上最強の戦士を見下していた。

「はぁ!? てめぇ俺達の事馬鹿にしたな!? 言っておくが、例えお前らがまとめてかかってきても、俺一人で倒せるんだからな。昔、たくさんのヤンキーに囲まれた時、気が付いたら意識ない状態でヤンキー共を血まみれにしたからな。ま、その時の記憶はあまり覚えてないんだがな」

 卓生の悪い癖であるイキリが発動してしまった。

「トラッシュ、その辺にしておけ。いずれもお前等は俺達に倒される運命だ。さっさと行くぞ」

「言われなくても分かっているよ」

 卓生達はダストに案内され、ついて行った。

ここで第1章は終わりです。次からは第2章が始まります。

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