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命の担い人  作者: これは、神作品なのか……? いや、それは非常に遺憾であり、コインランドリーに駆け込むフィリップ氏のような感じます。
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プロローグ






 この世界には数多の職業(クラス)が存在する。


 自然からの恩恵を得て生活する農民や漁師、それらを売商う商人。果ては病や怪我を治療する聖官者(せいかんしゃ)、生態系や地理情報の揺らぎを観測する探測者(たんそくしゃ)など、多様で個性の輝く職業が活躍している。


 そしてこの世界にはスキルも存在する。職業によって使えるスキルは異なってくるが、人々は各々が得たスキルを最大限に駆使し、自らの仕事に矜持と責任を持って暮らしている。


 そんな職業の中で良くも悪くも特に有名なのが、モンスターを討伐することで生計を立てる狩人(ハンター)である。

 厳密にはモンスターの素材売却や、依頼を受注しその達成報酬で金品を貰い暮らす職業である。


 その日その日によって収入に大きな差が現れ不安定。それに加えて命の危険性が伴う職業と言えるのだが、それを目指す者は少なくない。


 中には三十を過ぎる大人になってから目指す者、転職(ジョブチェンジ)をして狩人になる者、或いは女性の狩人もいる。


 ——理由は単純。

 

 夢があるから。


 富や名声は言わずもがな、自由や幸福など、あらゆるものを同時に手中に収めることができるからである。


 とはいえその夢を掴めるのはほんの一握り。ほとんどの者は夢どころの話ではない。誇り、財産、希望、家族。あらゆる全てのものを失い儚く散っていく。


 つまり、命あるうちに引退できれば御の字、人並みの収入を得ることができれば大豊作という、現実的な観点から見れば身も蓋もない職業なのである。


 それでも、狩人がいなければ人々の生活圏が縮小するのは目に見えているし、新天地の開拓は文明の発展に必要不可欠である。だから狩人と他の職業は持ちつ持たれつの関係を良好に築いているし、狩人を支える職業も少なくない。


 そしてそのうちの一つが、鍛冶屋である。

 鍛冶屋が直接的に狩人を支えていると言っても過言ではない程、密接な関係にある。まさに、表裏一体。


 しかし、狩人の数とは反比例に鍛冶屋の数は年々減少している。理由はいくつかあるが、一番の要因は後継者不足である。


 鍛冶職は他とは違い、スキルだけでなく単純な技術力も要求される。それに加えてスキルの習得に比較的多くの年数を要し、難易度も決して低くはない。それ故に容易に就ける職業ではないのである。

 加えて鍛冶職は他人の命を担う職業。信頼がモノをいう職業である為新規参入が厳しい業界なのだ。


 それでも、現存している鍛冶職人たちは今日も、一人でも多くの命を零させないために腕を振り下ろす———。




 『人々の安寧と幸福の為に作り上げたものが、その真逆の意味を持たされて、その上貶められるのが、俺は堪らなく悲しいんだ。俺に限った話じゃないが、自分の存在意義と大望が乖離することは珍しくない。根本的な部分では、俺は誰よりも弱い人間だった……でもお前はさ、お前なら——』




 「……ん」


 とある工房内で、唸り声に近い声を出しながら一人の男が目を覚ました。

 ウィーン・レイベルという名の鍛冶師である。


 工房というよりは独房に近い閑散とした空間であり、鍛冶に必要なものを除けば何もない殺伐とした作り。照明は小さな光源が一つだけであり、窓もない為薄暗い。


 そんな今現在が何時かも分からない空間の中、レイベルは簡素な石造りの椅子に腰を掛けたまま眠りに落ちてしまっていたことに落胆しつつ、先程見ていた夢を思い出していた。


 いや、厳密には夢ではなく思い出である。


 未練や後悔にまみれ、けれども懐かしさを嫌でも感じる風化できない過去。


 とうに払拭したはずの過去が今になって夢に出てくるのは、何かの予兆なのではと考えたくもなるが、結局は無意味なことだとレイベルは知っている。


 それでも、心の内では何かを期待しているのも確かであった。


 「夢、か——」


 そして無意識にそう呟いてから立ち上がり、そのままレイベルは工房を後にした。 


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