第7話 妾、娘になるのじゃ!
ウリュウの家に勝手に上がり込んできたこの女──ローラの話をまとめると、どうやらルナはウリュウの一回り近く年の離れた兄嫁の連れ子だそうだ。
兄夫婦は王都で共にパーティーを組む冒険者だったらしいのだが、8年前にとある依頼でともに殉職してしまい、身寄りのなくなったルナをウリュウが預かり、育てているということになっているらしい。
百数十年を生きる真祖のルナにとって、こんな話はそもそも有り得ない話なのだが、それを抜きにしてもこの話、ルナが数日前にウリュウから聞いた話とすら食い違う。
ルナは数日前、ウリュウから家族の話も聞いたのだが、その話の中には兄の子など出て来なかった。そして8年前の依頼の話も聞いたが、その時死んだのはウリュウの兄だけであり、兄嫁は重傷を負ったものの生き残り、昨年までウリュウは兄嫁と同居しながら面倒をみていたと聞いている。
つまり、帰って来た人物が兄の娘と兄嫁で入れ替わっているのだ。
なぜこのようなことが起きたのか? ルナは色々と考えてみたのだが、どう考えても原因はルナの月と血の祝福以外に思い当たらない。
──ルナの願いを叶えた月と血の祝福。
ルナはリムから聞いた、自らが込めたという想いについて思い出す。
《あの者を助けること、そして妻としてでなく、別の形でも良いから、ルナ様が初めて愛したあの者と、ずっと一緒に居られることです》
──別の形でも良いからウリュウとずっと一緒に居られること──
つまり、現在ルナがウリュウの娘として認識されているこの状況こそが別の形であり、親子であるからずっと一緒に居られるということなのだろう。とルナは理解した。しかし親子であれば、恋人や、ましてや嫁になることなど出来ないと肩を落とす。そしてなぜウリュウはなぜ若返ったのか? という疑問も残った。
ウリュウはローラという娘と未だに話しているが、話の内容がウリュウやルナの話から、この娘についての話にかわっており、既にルナにとっては全く興味がないどうでもいいものと化していたので、ルナは家から出て近くの木に寄りかかり、リムに思念波で自らの考えについて一通り話し、その後意見を求めた。
《なぜルナ様は嫁にはなれないと思うのですか?》
《何故って、人間は吸血鬼と違って近親者とは婚姻を結ばない生き物じゃからに決まっておるじゃないか?》
《……? ルナ様とあの者は近親者じゃないじゃないですか?》
《それでもウリュウやその周りの者は、妾とウリュウを親子と認識しておるから無理なのじゃ》
《……近親者というのは、【血が近い相手】という意味ですよね? ルナ様はあの者の兄の実の娘ではなく、嫁側の連れ子ということになっているのに血が近いことになるのですか?》
ルナはリムの思念波を聞き、大きく目を見開いた。
《リム! 頭良いのじゃ!》
リムの言うとおり、あの女の説明によれば、ルナは兄嫁の連れ子と言うことになっていた。連れ子と言うことは、ルナはウリュウの兄嫁が、ウリュウの兄と結婚する前に、別の男との間に生まれた子と言うことだ。つまり、ウリュウとの血の繋がりは一切ない。
《私はルナ様に眷属として頂いた日より、ユエ様にルナ様の結婚相手の条件についても厳しくご指導を受けております。その中の1つに、ルナ様の近親者との交際は、ユエ様が了承した場合を除き、一切許すな。という物も御座いましたので、その辺についてはバッチリです》
《そ、そうか……ユエ姉様の従兄弟嫌いはそんな頃からであったか……そもそもあそこまで従兄弟達を毛嫌いしておった理由はなんであったのじゃろうな》
《ユダ様……ユダ以外の従兄弟全員がユエ様の20歳の誕生日にユエ様に婚約を申し込み、その日ユエ様が取得した月と血の祝福により、婚約を申し込んだ理由が王位欲しさであり、ユエ様のことを全く愛していなかったことが露呈したかららしいですよ?》
《そんなことがあったのか!? それは……嫌いになるのも無理ないのじゃ》
《ですね》
《それはともかく、そのルールならウリュウは間違いなく合格ということじゃな! そうか、となるときっとウリュウが若返ったのも、妾とウリュウが添い遂げ安くなるようにということなのじゃ!》
《そのように思われます。ユエ様からの命で、あの者がルナ様と婚約、又は初夜を迎える条件として仰せつかっているもので当てはまるのは、あの者が私に勝つことだけとなります》
《却下じゃ! そんなの真祖ですらほぼ無理なのじゃ!》
《申し訳御座いません。これはユエ様の月と血の祝福。【絶対遵守乃約定】によって命じられておりますので、私の意思ではなんとも》
《なぜそんなことをされておるのじゃ!? それにリムには月と血の祝福は効かぬはずじゃろ!》
《私がルナ様の眷属となった日、他のルールと共に、ルナ様にたかる愚か者は全て私の牙で排除せよ。とユエ様の【絶対遵守乃約定】により命じられました。私が月と血の祝福を取得する前の命令ですので、私には逆らうことが出来ません》
《ユエ姉様……》
ルナは、腹違いの姉であり、ルナ以外で唯一生き残った王族であるユエを想う。
異母姉たるユエは、ルナのことを本当に愛してくれており、小さい頃は毎日のように一緒に遊んでくれたし、おやつもたくさん作ってくれた。今でもリムとウリュウを除けば、ユエが最も大事に想う、最愛の姉だ。
その姉もきっとその時は、リムがここまで強くなるとは思っていなかったんだろうなぁ。と思いながら、今度はリムについて考える。
リムは元々、王家に仕える少数精鋭のライカンスロープ部隊隊長の娘であり、その将来性を王たる父に買われ、ルナ専属の護衛兼習いとして傍に置かれた者であった。
ライカンスロープと言うのは、真祖の吸血鬼並の身体能力を持ち、人に化ける事が出来る妖狼である。
本来なら眷属にする事など出来ないのだが、ルナが賊に襲われ、リムが自らの体を盾にしてルナを守り、出血多量で死にかけ、ルナが自らの血のほとんどを、自分が気絶するまでリムに無理矢理輸血してその命を救うという事件発生した。
輸血が終わり、2人が目覚めたときには、リムはライカンスロープでありながら、セカンドとして覚醒していたのだ。
セカンドクラスと思われる不死性と若いままの体。身体能力こそほとんど変わらなかったものの、真面目な性格のため鍛錬を怠らなかったその技は、我流でありながら達人の域にまで達している。
更にリムは、リムに対して発動する、リムが望まない月と血の祝福は全て無効という月と血の祝福まで取得してしまった。
ぶっちゃけ勝てる奴なんているの? と本気で考えてしまう程の強さなのだ。
ルナは仮に、自分があのまま王国に居たとしても、おそらくリムがいる間、自分はずっと独り身のままだっただろうと考え、直後自らの口元が緩むのを感じていた。
今のルナにとって、そんなことはどうでも良いのだ。百数十年の孤独を味わいはしたが、その末にウリュウという好きな人ができたのだ。
一度は嫁になることを断られたが、それで諦めなければいけないという理由はない! リムを倒す秘策もある!
ルナは、ウリュウと添い遂げられる可能性を信じて決意する。
《妾、ウリュウの娘になるのじゃ! そしていつかウリュウを振り向かせ、リムを倒して添い遂げるのじゃ!》
《……一応言っておきますが、ルナ様が手を借すのは認められませんよ?》
《なんじゃと!? それじゃあ絶対無理なのじゃあ!》
ウリュウの義娘となり、将来的にはウリュウと添い遂げる! という方針が、ルナの中で出来ました!
そして次回、ウリュウはルナの父として生きていく事を決意します!
次回【父になろう】をお楽しみ下さい!
そして私は、今年から書き始めたばかりで自信家な方でもないので、ブックマーク・感想・評価など頂けるととても嬉しいです!




