第4話 告白……そして事故
小難しい設定を書くのはこれが最後の予定です。あとはギルドの説明ぐらいでしょうか? 今回は少し細かく書いていますが、読み流して頂いて大丈夫です。
「妾の独り言は、ここまでじゃ。そしてここからが本題。ウリュウ。妾をそなたの妻にしてはくれぬか?」
「つ、妻!?」
「……やはり、こんな妾を妻にするのは嫌か?」
「と、とんでもない! こ、こちらこ──」
ルナが嬉しそうな、それでいて少し陰りのある表情で俺の唇に人差し指を当て、俺の言葉を遮った。
「最後に1つ、後出しで悪いのじゃが、答えをもらう前に言っておかねばならぬ事があるのじゃ。もし妾を嫁として貰ってくれるなら、悪いが子は諦めて欲しいのじゃ」
「子供?」
「生殖能力が無いというわけではないのじゃ。そして妾と人との間に子が生まれないという訳でもない。ただ、妾とウリュウの間に子を授かる可能性は、限りなく0に近いのじゃ」
「……エリザベートの呪いのせい、か?」
「……無関係……とは言わぬが、本質は別なところじゃ。妾達吸血鬼は、血が濃ければ濃いほど基礎能力が高く、寿命も長くて死ににくい。更に妾の子孫も、呪いが影響しなければ、必ず真祖の吸血鬼となるわけじゃが、真祖と言うのは生まれてしまえば死ぬ可能性はほとんど無い。それ故、吸血鬼は血が濃ければ濃いほど子孫を残す能力が低くなるのじゃ」
なるほど、確かに言われて見ればなんとなく納得がいく。約千年の寿命を持ち、まず死なない真祖が人間と同じ様に子供を作り続け、更にその子もとネズミ算式に増えていけば、この世はあっという間に吸血鬼だらけだ。
「妾たち真祖やセカンドの吸血鬼が妻や夫を娶る際、相手が吸血鬼でない場合、必ず相手の同意を得てからセカンドに変えて伴侶とするのが通例じゃ。そうせねば長大な寿命を持つ妾達にとって、愛する者との時間は短すぎる。そしてほとんどの場合、子が出来る前に相手が死ぬか、生殖能力を無くしてしまうから子も出来ぬ。特に妾は、かなり血の濃い真祖どうしの子、数百年に1人子が生まれれば良い方じゃ、むしろ千年生まれてこぬ可能性の方が高いやもしれぬ」
「セカンドが伴侶を得るときは、どうやって相手をセカンドにするんだ?」
「自分をセカンドにした親に頼むのが普通じゃが、他の真祖に頼む場合もあるらしい。ようは伴侶に吸血鬼になってもらい、寿命を延ばすのが目的じゃからな」
「セカンドになったら真祖に逆らえないとかなにかデメリットはあるのか?」
「ないはずじゃ。あえて言うなら吸血鬼は親以外で自分より血の濃い吸血鬼に対して恐怖を感じることがあるらしいと言うくらいか」
「つまりルナが言いたいのは、このまま俺とルナが結婚しても、子が出来る前に俺が死ぬか不能になると」
「い、言い方が下品じゃが、まぁそういう事じゃな」
「なら吸血鬼の通例通り、俺をセカンドに変えてくれ。俺にはもう家族もいない。それでルナと共に生きられるのなら、俺はその方が良い」
「その気持ちには感謝するが、妾にはそれが出来ぬのじゃ。妾の血はエリザベートの呪いのせいで、体外に出て暫くすると死んでしまう。故にウリュウを吸血鬼とし、共に長く生きるということは出来ぬのじゃ」
そこでエリザベートの呪いが出てくる訳か……。もし俺と結婚しても、俺はもって数十年。その後ルナはまた……。
──ん? でもそれって、ルナが俺をセカンドに変えることが出来ないだけで、他の吸血鬼に頼めば良いだけなんじゃないのか? セカンドがそうするように、俺もそうして貰えば良いんじゃないのか?
──うん。ルール上は問題ないはずだ。
「今の話を踏まえた上で答えが聞きたい。妾はおそらくそなたの子を産むことは出来ぬし、共に年をとることも出来ぬじゃろう。それでも妾を娶り、妾と一生共にいてくれぬだろうか?」
「あぁ、俺は一生ルナと一緒にいる。でもルナのそのプロポーズは応じられない!」
プロポーズは俺からする!
そして俺は吸血鬼になり、絶対にルナとの間に子を作り、ルナと一緒に年をとる!
俺の方が先に死ぬかも知れないけど、その時には俺達の子がルナのそばに居るはずだ。
絶対ルナに孤独を感じさせたりなんてしない!
「……どういう意味じゃ?」
俺は立ち上がり、ルナに俺の気持ちを伝え──
──つるんっ。ゴツンッ!──
「うがっ!?」
──バタン──
▽ルナ視点
「今の話を踏まえた上で答えが聞きたい。妾はおそらくそなたの子を産むことは出来ぬし、共に年をとることも出来ぬじゃろう。それでもルナを娶り、妾と一生共にいてくれぬだろうか?」
ルナはこれまで、ウリュウの反応を確認し続け、自らの告白を受けてくれると確信したうえで告白していた。
子供が出来にくいということを話す前に1度告白したのもその為だ。
ルナも正直、この告白の仕方は卑怯だと感じていたが、ウリュウは百数十年ぶりに出来た親しい人間であり、自らが恋した相手。どうしても失いたくなかった。だから最悪、子の話をしたときのウリュウの反応次第では、告白を冗談ということにし、なんとか今の関係だけでも続けられるようにするつもりでいたのだ。
そんなルナが、冗談という逃げに走らず、全てを話した上で、もう一度告白をするに至ったのは、ルナを見るウリュウの目が、最初こそ悩んでいたようだったが、最後には『そんなことは関係ない』と、強く語ってくれている気がしたからだ。しかし、ルナの告白に対するウリュウの返答は、そんなルナの確信を裏切った。
「あぁ、俺は一生ルナと一緒にいる。でもルナのそのプロポーズは断る!」
──断られた!!──
一瞬ルナは、目の前が真っ白になった気がしたが、ウリュウはルナと一生共に居るとも言った。つまり、フラれてそのままサヨナラという最悪な展開ではなさそうだ。しかしそうなると今度は、ウリュウの望むルナとの関係がよくわからない。
「どういう意味じゃ?」
ウリュウは勢いよく立ち上がり。
──つるん。ゴツンッ!──
──滑って頭を強打した。
「う、ウリュウ!? ウリュウ! 大丈夫かウリュウ!?」
ルナは直ぐさまウリュウを抱き上げたが、ウリュウは後頭部から大量に血を流していて呼吸もない。
「ず、頭蓋が陥没しておるのじゃ……」
心臓は辛うじて動いているが、止まるのもおそらく時間の問題。ルナはかつてのように自らの腕を爪で切り裂き血を流し、その血をウリュウにかけようとしてその手を止めた。
「ダメじゃ。妾の血をウリュウの頭──脳に投与するわけにはいかぬ」
吸血鬼化と言うのは、吸血鬼の血が、対象の血に着床した時点で始まる。そしてその血が脳に至ると、対象の脳を自分達に都合の良いように変異させるのだ。
人間なら3割しか発揮できないと言われる筋力を全力で使えるようにし、様々な感覚を数倍に引き上げる。そしてその血の濃さによっては異常な治癒力や特殊な能力も授かることになる。しかしルナの血は、ルナの体外に出ると数秒で死滅する。つまり、頭に投与すれば血が脳を弄っている最中に死滅するのだ。
王国を追放されて間もない頃、ルナは二度、怪我で瀕死の重傷をおった狼を眷属にしようとしたことがあった。一度目は吸血鬼化の最中にルナの血が死に、結果その狼は半端な変異を起こしてより苦しんで死ぬこととなった。
二度目は血を脳が完全に変異するまで与え続けたが、その後ルナの血が死に、狼は発狂死した。
「妾の血をウリュウの脳に投与したらあの時の二の舞じゃ。これが頭ではなく腹なら、初めて会ったあの時のように、心臓を止め、妾の血で治してみせるのに……」
ルナは初めてウリュウと会った時の事を思い出す。
ルナに当たるはずもなかった矢の前に、勝手に飛び出し矢を受けた人間。
そのまま放っておけば死は確実。
試して死ねばそれまで。
助かれば僥倖。ある種実験にもなる。
そんな事を考えながら、ルナはウリュウに自らの血をかけたのだが、そこまで思い出したとき、ルナの中に1つの疑問が生まれた。
──妾は今まで死など腐るほど見てきた。なのに名すら知らぬウリュウを、腕を切り裂いてまで助けようとしたのは何故じゃ?
「妾は……妾はまた失うのか?」
初対面のルナに、ウリュウがくれた言葉を思い出す。
『俺は君に魂を奪われた。俺はもうすぐ死ぬかも知れないが、俺が死んだ後も俺の魂は君と共にあり続け、必ず君を守ってみせる』
直後、ルナは父の最後の言葉を思い出した。
『およそ千五百年を生きた我に残された寿命もあとわずか……だがルナよ。お前の中を流れる我の血は、我が死んだ後もお前と共にあり、必ずやお前を守るであろう』
──あぁそうか、妾の20歳の生誕祭。父上が妾にかけてくれた、最後の言葉に似ていたから興味、を……?
ルナはこの時、自分がなにかとても大事なことを忘れている気がした。
なんじゃ? 妾はなにを忘れているのじゃ?
父上の最後の言葉? ……生誕祭? それじゃ! でもいつの? 当然20歳の生誕さ──っ! 血盟の儀っ! つまり月と血の祝福じゃ!
ルナは、月と血の祝福を授かるのに必要な物を即座に思い出した。
必要な物は2つ。月の祝福と血の祝福だ。
月の祝福とは満月のこと。
血の祝福とは、自分以外のセカンドまでの血族の血。
前者は問題ないが、後者は今ここにはない。しかしルナは、自分がウリュウを助ける手段はそれしか思いつかなかった。
ウリュウの血を吸ったところで、ウリュウは血族ではないので意味がない。そしてルナの唯一の直系眷属であるリムの血を吸ったしても、彼女は眷属ではある前に狼である為か、その血で妾の血が反応することはない。
普通に考えれば手詰まりだ。だからルナは、普通に考えないことにした。
ルナはウリュウの後頭部──血が出ている部分から血を吸い込むと、かなりの量を口に含ませてから舌を噛む。
ルナは自らの血とウリュウの血を口の中で混ぜ合わせ、ルナの血がウリュウの血を変異させるのを願い待つ。そして数十秒が経った頃、ルナは両の膝を着き、膝立ちの状態で両手を結び、月に祈るポーズをとると、口に含んだその血を飲み込み、魔力を最大限高めて月に向かって願いを語る。
「月よ! 妾の願いを聞き、妾の願いを叶えよ! 妾が望むは、この者を救うことの出来る力。他の者までもとは言わぬ、ただこの者を救うことの出来る力だけで良い! 妾にそれを叶えることの出来る力を授けよ!」
ルナの体は天に浮かぶ月のように黄色く輝き始めた。ルナは同時に膨大な魔力の喪失に目眩を覚えたが、自分から抜け出た魔力がウリュウを包み、瞬く間にウリュウの傷を治していくのを確認し、月と血の祝福による治療の成功を確信した後意識を失った。
お読み頂きありがとうございます。
次回【ウリュウの記憶が無くなった!?】をお楽しみ下さい。
次回投稿は金曜日を予定しています。