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第15話 ルナの計画

 現在のウリュウ一家の家計は、薬草採取の依頼をこなしているとはいえ、それだけでは完全にマイナスだった。情けない話ではあるが、ルナが殺人蜜蜂の巣から影魔法で大量の蜂蜜を採取し、それを売ってくれたお金があるからなんとかやっていけているのだ。しかし森に入れなくなってしまえば、その両方の収益がなくなってしまう。


 そうなればリムのお金に手を付けなければいけなくなってしまう。そうしなければウリュウ一家の食事事情は悪化し、パンすら食べることが出来なくなり、蜂蜜と目玉焼きのみとなってしまうのは時間の問題なのだから。


 ウリュウはこれからどうすれば? と途方に暮れつつ、娘たちにこれからの生活について不安を……ルナにはすでに持たれていたが、これ以上持たせるわけにはいかないと思い、娘たちを先に帰らせることにした。そしてギルド長に森に入れるようになるにはあと何日くらいかかるのか? 鬼さえいなくなれば、ゴブリンたちは帰ってくるのか? 等という話を聞く為に。


「俺はギルド長にこれからのことについて聞いてくるよ。この状況だと多分それなりに時間もかかると思うし、悪いけど先に帰っててくれる?」

「良い。待っふぇぐ!?」


 ルナがリムの口を後ろから手で塞ぎ、ウリュウに笑顔で応えた。


「わかったのじゃ。リム。先に帰って晩御飯の支度をするのじゃ」

《リム。妾に良い考えがあるのじゃ》


 ルナが手をどけると、リムがいつもの無表情で応える。


「わかった」


 ウリュウは自分がお金のことを心配しているということをルナに気付かれ、リムにそのことがバレないように気を使われたのだと感じ、少し情けない気持ちにはなったが、ルナのその気遣いに感謝しながらギルド長の下へと向かった。


「ありがとう。じゃあお願いね?」

「わかったのじゃ」

「任せる」


《ルナ様。それでその考えというのは?》

《鬼をおびき出して妾達がやっつけるのじゃ!》

《ですが先程の者の話によると、鬼はこの村の者達からするとかなり強いらしく、私達が倒せば不自然に思われるのでは?》


《王都に応援要請の使いを出したと言っておったじゃろ? まずはその応援で来た者の前で鬼を倒す。そしてその者達に催眠術をかけて操り『それ程の腕があるのにこんな魔物もろくにいない場所にいるのは勿体無い。王都に来ないか?』と言わせるのじゃ!》


《……なるほど。王都へ引っ越すことが出来れば、依頼もここよりはマシになるでしょうし、シルキーの命も救われる。一石二鳥ですね》

《うむ! 完璧な作戦なのじゃ!》


《しかしウリュウ殿が大人しく引っ越しを受け入れてくれるでしょうか?》

《? 何故じゃ? あんなボロ屋、捨てても惜しくはないじゃろう?》


《今まで冒険者として何度も色々な街に入って知ったことなのですが、人間というのは吸血鬼以上に一所に定住する生き物のようです。吸血鬼は家が古くなれば壊して建て直すか引っ越します。しかし人間の場合、大半がそのままその家に住み続けるようなのです》


《なぜなのじゃ? ボロい家に住み続けるより、新しい家に移るか建て直した方が快適に過ごせるじゃろ?》

《他にもあるのかもしれませんが、私が知った理由は2つ。まず1つ目が、家を建て直すのにとても高額なお金がかかるらしいということです》

《高額なお金?》


《人間は吸血鬼と違い、家を建てられるレベルの土魔法使いというのは、あまり多くはないそうなのです。家を建てるのに沢山の人間が協力しなくてはならず、かなりのお金がかかり、しかもウリュウ殿の家と同程度の家を建てるのにも数か月はかかるそうなのです》

《あの程度の家に数か月もか!?》


 ルナもリムも土魔法は全く使えないのだが、大抵の吸血鬼は練習さえすれば土魔法を習得することが出来るようになる。ちゃんとした家を建てられるレベルとなるとその数は多少減るが、真祖の吸血鬼であれば5人居れば3・4人が、セカンドでも3・4人に1人は家を建てられるレベルの土魔法が習得可能なのだ。とはいえ、定期的なメンテナンスなどをしない限り、一般的なレベルの吸血鬼の建てた家の耐久年数は10年そこそこであり、人間の家程長持ちはしないのだが、それでも1時間もそこそこでウリュウの家(準コンクリートバージョン)くらいは建てられる。


 費用に関しても、土魔法が使えれば自身の魔力だけで事足りる。土魔法が使えない吸血鬼でも、土魔法を使える吸血鬼に頼めばかなり気軽に家を建ててもらう事が出来る為、大抵代わりに食事を奢るなどの手間賃は必要になるが、実質ほぼタダなのだ。その為、寿命の長い吸血鬼にとって家というものは、その生涯のうちに何度も気軽に替えられるものであり、特に愛着を持つような物でもない。


 特に土魔法が使えず、頼める相手もいなかったが為に、岩山に穴をあけてそこで寝泊まりしていたルナ達にとって、家と言うのは雨風を凌いで眠るだけの場所という認識でしかないのだ。


《家の価格相場はいくらくらいなのじゃ?》

《そこまでは……ですがほぼ全ての人間が所有していることから考えると、それほど高いとは思えないのですが……》


《なら、妾達は鬼に家を壊されたが、その壊された家の下からウリュウのへそくりが見付かった。ということにして、今ある妾の所持金をウリュウに渡すのはどうじゃ?》


《それであれば問題ないかと》

《よし、ではこの作戦であのボロい家から脱出するのじゃ!》

《はい。そしてシルキーが安心して住めるくらいの家を王都で手に入れましょう》


 そしてルナとリムは、そのまま家へと帰り、シルキーにこの作戦を話して準備を開始するのであった。

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