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第6話 冒険者登録【中編】

「……ごめんルナ。それでも俺は、ルナに危険なことはさせたくないんだ……」


 ルナの言葉に心を動かされたらしく、涙こそ流していないが目を赤くし、すでに半泣きの鼻声だが、それでもウリュウは心情的に認めたくはないらしい。しかしルナにとっては、冒険者となり、ウリュウと一緒に働くというのは昨夜のうちからの決定事項だった。そしてそれをウリュウに反対された場合、どう反論するのが一番効果的か? そのことについてはすでに、ルナの大変優秀な参謀が、ウリュウの心をえぐり込む、鋭い答えを示してくれていた。


 まずはその参謀について簡単に紹介しておこう。

 その参謀というのは当初、ルナの護衛でしかなかったのだが、少しでもルナの役にたつために、ルナがセイリオス王家の英才教育を受けている時、自ら志願してルナと一緒に授業を受け、志の差からか、その頭脳は最終的に秀才であったルナをも超えたリムである。


 ただしリムは、セイリオス王家の英才教育を真面目に受けすぎた影響か、普段は割と感情で動くくせに、考えるときはかなりの合理主義者となる。

 つまり、自分の意見を本気で通すときには、他者の感情を一切考えず、核心をズバズバついてくるのだ。


 今回彼女が用意してくれた答えもその手のものだ。だからウリュウのためにもそれだけは使うまい。と考えていたルナだったが、もうすでにルナに残された有効そうな手札はそれ以外に思いつかなくなっていた。

 よってルナはその手札を切ることにした。

 ……とっても申し訳なさうに。上目遣いで弱々しい態度で。


「……これはあまり言いたくなかったのじゃが、実はウチにはあまりお金がないのじゃ……」


「お金?」


「パン1つで銅貨5枚。2人いるから1食当たりパンだけでも銀貨1枚かかるのじゃ。他に卵以外のおかずも欲しいから、ハムやチーズで合計だいたい銀貨1枚と銅貨8枚。1日当たり銀貨5枚と銅貨4枚になるのじゃ。他にも服や靴、家畜の餌の金額とかを考えると、パパの稼ぎだけでは……その、……ちょっとだけ。ほんのちょっとだけじゃが厳しいのじゃ……」


「「「……えっ!?」」」


 ウリュウは娘にこんなに深刻に金の心配をされるほど自分が稼げていなかったのかと愕然とし、ローラとギルド長はすぐさまウリュウの報酬額から、月に平均いくら稼いでいたのかを試算する。その姿を見たルナは、この手を使ってしまったことについてかなりの罪悪感を感じ、後悔もしたが、それ以上に記憶をなくしたウリュウのことが心配だったルナは続けることにした。なにより自ら賽を投げてしまったのだ。今更止まることなどできはしない。


 そしてこのお金が足りないという答えは、この100数十年、色々な冒険者組合に何度も出入りし、薬草採取の相場を知るリムの試算によりすでに出ている。

 リムはルナとウリュウが交際を始めた時点で、ルナの知らぬところでルナの交際相手のチェックを徹底的に行っており、その中にはウリュウの正確な所得とこの村の物価も含まれていた。そのことを告げられた時、ルナは『そんなことまで調査していたのか!?』と、愕然としたのだったが、その話は一先ず置いておこう。


 ウリュウの所得を詳細に調べあげたリムの試算によると、ウリュウの所得ではこの村で1人で暮らすことはできても、2人以上で暮らすのはかなり難しいというものだった。

 どの程度かというと、食費だけならなんとかなる。しかし服や靴を買ったなら、1日3食は食べらない。それぐらいの所得だ。

 ウリュウが過去、兄嫁と暮らしていたという話は聞いていたが、その時は兄嫁とウリュウ、両者が過去に稼いだ貯えを浪費することで維持できたものであると、ルナはウリュウ本人から聞いて知っていた。

 よってルナは続けた。リムにより絶対勝てると言われたこの論述を。


「服や靴を買うと、当分おかずが卵以外なくなるのじゃ。梅雨には燃やす薪の用意を忘れて卵も生で食べることになったのじゃ……」


  「……確かにウリュウ君の報酬額からすると、1人ならともかく、2人でやっていくにはかなり厳しいわね……」


「今までこれでよくやってこれたものだ……。というかなぜわしらはその程度のことにも気付いてやることができなかったのだ?」


 それは実際にウリュウが今まで独り暮らしだったからだろう。と思いながらもルナは続けた。心の中で何度も本気の謝罪を繰り返しながら……。


「1番最初は妾がオークを倒して家に持ち帰り、それを調理したのじゃ。でもパパに、危ないからもうするなって言われて……。それからは苦しくなってきたら、妾がこっそり殺人蜜蜂(キラービー)の巣から蜂蜜を採って行商人に売り、パパのタンス貯金にこっそり足していたのじゃ」


「な、なん……だと!?」


「……そう言えば、最近この村に立ち寄る行商人さんのほとんどが殺人蜜蜂(キラービー)の蜂蜜を持ってたけど……あれってルナちゃんが……?


 ルナは申し訳なさそうに頷く。

 行商人に売っていた理由や、タンス預金の話はウソだが、行商人の大半が殺人蜜蜂(キラービー)の蜂蜜を持っていたのはルナが売ったからである。


 思い返せばウリュウとルナが初めて会ったのも、ルナが白パンや小説を買う資金源にしていた殺人蜜蜂(キラービー)の蜂蜜を採りに行こうとしていた時であった。ルナの魔法なら簡単に蜂蜜のみを取り出せるため、ルナの貴重な収入源となっていたのだ。

 ちなみに行商人への販売はリムの仕事である。


「……お腹がすいたらいつでもうちかギルドに来なさい。好きなだけ食べさせてあげるから」


 ルナの心の中の謝罪は、ルナの顔に申し訳なさそうな表情として表れており、それが余計に3人の心を抉っていた。


 ローラとギルド長は、ウリュウの収入についてよく知る位置にいながら、今の今まで気付いてやれなかったことに対して。

 ウリュウは娘にそんな苦労をさせていたことに、そして自分達親子が、ルナの隠れた援助のおかげで生活が出来ていたのだと。自身が、完全な甲斐性なしだったのだと知ったために。

 もちろんこれはルナのウソなのだが、現状ギルドにある書類にはウリュウの稼ぎが。

 ウリュウとルナ以外の者の記憶には、2人が何年も親子として生活しているという認識がある。

 それらを踏まえると、ルナが支援していたために生活できていたというこの話は、ルナが一切支援していなかったと言われるよりも、格段に現実味を帯びたものだった。


「迷惑はかけたくないのじゃ、それにその好意に1度でも甘えてしまうと、妾は負い目を感じてしまう。そうなりたくないから妾は今まで誰にも言わずに隠してきた。だからその気持ちだけをありがたくいただくのじゃ。

 ……でもやっぱりおかずは欲しい。今回みたいにパパになにかがあって取り残されるのも本当に怖い。それにこのままじゃ、ウリュウが風邪をひいただけで妾達は食べることもままならなくなるのじゃ。

 だから妾に残された唯一のウリュウを護る(すべ)と、おかずと安心を取り上げないでほしいのじゃ……」


 この後ルナは、ウリュウの精神的ダメージと引き替えに、無事ベルテ村冒険者ギルドにより、冒険者として登録されるのだった。


 ……ウリュウ、本当にごめんなのじゃ!

 でもこれでなんとか妾がウリュウを護ることが出来るのじゃ。それと現実問題、妾達が親子としてこの村でやっていくには、どう考えてもウリュウの所得では無理だったのじゃ……。

今話において、ルナがウリュウに言ったウリュウの稼ぎに対する台詞……。私にはまだ子供はいませんが、娘にここまで言われたらかなりキツいのでしょうね……。

特に遠慮がちに「おかずも食べたい」とか「ご飯」なんて言われたら……。

将来その可能性がないとは言えないことが恐怖です。



次回、ウリュウとルナはそれぞれ私的な目的から、途中で別行動をとります。ウリュウの目的とはなんなのか? そしてルナの目的はなんなのか?


次回【シルキー】をお楽しみ下さい。

作者インフルエンザにつき、更新は少々お待ちください。

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