第4話 ルナの実力
「ならば妾がウリュウと一緒に冒険者として活動するのじゃ!」
「「「えっ!?」」」
ルナ以外の三人が、同時にルナを見ながら驚きの声を上げた。
「妾が冒険者としてウリュウと一緒に活動すれば、全て解決なのじゃ!」
「「「いやいやいや!」」」
「ダメだ!」
「ルナちゃん? 冒険者のお仕事は大変なのよ?」
「そうじゃ、それにとっても危険でもあるのだ! 命を落とす可能性すらあるのだぞ!?」
「……年齢制限かなにかに引っかかってるのじゃ?」
「そういう問題じゃない!」
「そうよ。冒険者はとっても危険なの。綺麗な肌に傷がついちゃう程度じゃすまないのよ? 私のおやつのアメちゃんあげるから、これで考え直して?」
ローラはそう言うと、自らの足下から棒付きのアメを取り出し、それをルナに差し出した。
ルナ達からは受付のカウンターに隠れて見えないが、どうやらローラの足下には鞄か何かが置いてあり、そこからアメを取り出したようだ。
リムの手柄を横取りし、ウリュウに色目を使うこの女のことは気に入らないが、アメに罪はないので、ルナは遠慮なくそのアメを頰張った。
「うむ。年齢制限などは特にないが、その提案は父のためとはいえ、君を思うウリュウ君の気持ちを考えていない、少々軽率なものだとわしは思う。考え直しなさい」
全員に反対されたため、ルナはアメを頬張りながらも少し不機嫌になってしまったが、よくよく考えてみると、ルナの見た目はまだ13歳前後といったところ。それも腕っぷしの強そうなタイプではなく、色白の細くて可愛い可憐な美少女だ。
自分ではもしかすると、地上最強クラスかもしれないというほどの自負まであるのだが、人間が外見だけでそれを判断するのは難しいかもしれない。そう思い直したルナは、自らの実力の一端を見せ、まずは三人に自分の実力を認めさせることにした。だがどうやって認めさせるか……。
その時ルナの目に留まったのは、ギルド長の格好だ。
「……ギルド長。お主はもしや魔術師か?」
「いかにも。元Aランクパーティーの支援魔術師じゃ。もっとも、わし個人の最終ランクはBだったがな」
「それはそれなりに強いという事か?」
「ルナ! いくら何でもその言い方は失礼だぞ!」
「よいよい。子供はそのくらい元気で生意気な方が可愛いというものだ。それとわしの実力だったな? 足が衰えてしまったため、もう冒険には行けぬが、実力だけならまだまだ並みの冒険者よりもずっと上だよ。少なくともこの村の誰にも負けることはないだろう」
ルナはギルド長のその答えを聞き、ニヤリと笑ってこんな提案をした。
「そうか、今一番問題視されているのは妾の実力。ということで間違いないのじゃな? ギルド長」
「そうだな。あとは年齢的な意味もあるが、そちらは君くらいの年齢の冒険者も沢山いるから、そこまではわしも……いや、少なくともわしは言わん」
「なら、ギルド長に勝てるほどの実力があれば、ギルド長はもう妾を止めないのじゃな?」
「フフフ。まぁ勝てれば、な」
「……ギルド長」
ローラがジト目でギルド長を非難する。
「まぁ良いではないか? 若者を導くのも年寄りの役目であり、生き甲斐よ」
「なら今から妾の実力を試してもらっても良いかの?」
「良いだろう。なにか欲しい武器はあるか? それともし君が魔法を使いたいというのなら、外でやっても構わんぞ?」
「いや、問題ないのじゃ」
「稽古用の木剣や槍に見立てた棒くらいならここにもあるから使ってもよいぞ? 本物の剣や槍はまだ君には危ないが、それくらいなら大丈夫だろう」
「そんなの必要ないのじゃ」
「よかろう。わしが攻撃して君に怪我を負わせるのは、ここにいるみなが望まぬことだ。だからわしは結界を張ってルナ君の攻撃を防ぐことにする。わしの体や衣服に、少しでも攻撃を入れられれば君の勝ちだ。時間は……10分以内としよう」
ギルド長が、この試合とも呼べないであろうものを受けたのは、可愛い子供のわがままを聞いて少しだけ遊んであげるとともに、実力の違いを見せつけることで、世の中はそんなに甘くないということを教え、この少女が今すぐには危険な冒険者という道に踏み入れないよう、止めてあげようと思ったからだった。
軽い気持ちで始め、取り返しのつかないことになるものを、数えきれないほど見てきたギルド長なりの優しさからの行動だった。
「わかったのじゃ」
ギルド長は自らを起点として、半径一メートルほどの結界を張り、ルナに開始の合図を送る。
「よし、ではどこからでもかかってきなさい」
「ところでギルド長。ギルド長にひとつ聞きたいのじゃが、ギルド長は今、そこから歩くことは出来るのかの?」
ギルド長にとっては、この勝負自体が所詮はただのお遊びのつもりだった。
強者たる自分が、父のために強がっている子供の頭を撫でて諫めてあげる程度のもの。そう思っていたのだ。
そしてルナの先の発言について、どういう意味があるのか? その意図を一瞬図りかねたが、結界には空間固定型と、自分を中心に常時展開できる非固定型とがある。
非固定型の場合、自分を中心に展開しながら動き回れるため、強度は落ちやすいがより高度な魔法とされている。
ギルド長が今回張ったのもこの非固定型だ。
ギルド長たる自分の張った結界が、そのどちらであるのかを確認したかったのだろう。そう思い、言われたように歩いてやろうとした瞬間、ギルド長は愕然とした。
「んなっ!?」
歩こうとしたギルド長の足は、足の裏が床に張り付いたかのような感覚に襲われ、一ミリたりとも足を上げることが出来なかったのだ。
「確認も取れたところで、じゃあそろそろいくのじゃ」
「──っ!」
ギルド長は考える。なぜ足が動かないのか? と、しかし足が動かなくとも結界自体は維持されている。今回張ったのは対物・対魔法の両方に効果のあるオーソドックスな結界であり、最も使い慣れた結界だ。
この結界は魔力を込めれば込めるほど、その強度が上がる。
自分がいったい何をされたのか? それはわからないが、少なくとも全力で魔力を込めれば破られることはない。
そんなことを考えながら、全力で結界を強化しているギルド長の目の前で、ルナは先ほどローラから貰ったアメの棒を器用にアメから抜き取った。
そしてそのアメの棒を縦に持つと、そのまま手放し真っすぐ落とした。
それになんの意味があるのだろう? と思いながら皆が見つめる中、アメの棒が床に触れた瞬間、なんの抵抗もなく床をすり抜け、気付いた時にはギルド長の目の前を下から通過し、結界の上の方に、内側からギルド長の帽子を貫き刺さっていた。
「流石はギルド長の結界なのじゃ。壊れずに残っておるとは、とっても頑丈なのじゃ」
ギルド長は思わず、奥歯と言わず体までもをガタガタと震わせながら腰を抜かす。
動かぬ足裏はそのままに、後方にしゃがみ込むように尻餅をつき、ひび割れた自らの結界を、信じられないとばかりに驚愕の表情で仰ぎ見ることしかできなかった。
「ところでギルド長、帽子は衣服に含まれるのかの? 含まれないなら続行するのじゃが?」
ギルド長は壊れたおもちゃのように首を上下に勢いよく何度も振り、こう答えた。
「ももももも、もちろん含まれる。み見事な腕じゃったぞ? ルナ君」
それに対してルナは、
「ありがとうなのじゃギルド長! では妾の冒険者登録をお願いするのじゃ!」
と、天使のような笑顔で答えるのだった。
次回、ルナはギルド長に実力を認められるが、ウリュウには反対されます。その時ルナがとった行動とは? ルナは冒険者として登録し、ウリュウと一緒に働けるのでしょうか?
次回【冒険者登録 前編】をお楽しみ下さい!
次回は12/22の金曜夜7時に予約投稿してあります。