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第3話 ウリュウの欠点

 冒険者ギルドのギルド長から、突如ウリュウに告げられた。「君は冒険者を辞めなさい」という言葉に、ウリュウは一瞬頭が真っ白になり、ローラはギルド長に向かって吠えた。



「ギルド長! いきなりなんでそんなこと言うんですか!?」

「ウリュウ君やルナ君のことを思ってのことだ」

「記憶をなくした人に、いきなり仕事を辞めろっていうののどこがウリュウさんのためになるっていうんですか!」



「冒険者というのは危険がつきもの。そんな仕事を記憶をなくしたウリュウ君にさせるわけにはいかん。このベルテ村周辺に限って言えば、危険なモンスターは殺人蜜蜂(キラービー)くらいなもの。あれも手を出さなければ基本的には襲ってこん。そしてウリュウ君は基本的には薬草採取の仕事しかせず、危険な仕事は一切してこなかった」

「なら――」



「だからこそわしは今までウリュウ君のことは黙認してきた。だがウリュウ君はそんな安全なはずのベルテ村周辺で、記憶を失うような事故にあってしまった。これはウリュウ君を放置していたわしの責任でもある。だからウリュウ君には冒険者を辞めて欲しいのじゃ。言っている意味は分かるな? ウリュウ君」

「えっ!? あ、はい。いいえ」



 ウリュウは突然の事態に混乱し、よくわからない返事を返してしまった。



「……すまない。記憶を失っているんだったな。君の武闘家としての実力はAランクの冒険者以上だろう。しかし君は現在ランクE。つまり青ランクの冒険者で仲間もいない。なぜだと思う? この理由については、記憶をなくしてから今までの短い間の中でも、おそらく一度は感じたことがあるはずだ」



 ウリュウはギルド長に言われたことを考えてみたが、思い当たるところが何もない。しかし、ルナとローラさんには思い当たるところがあったらしく、暗い顔で少し俯いてしまっている。



「……わからんか? ならはっきり言おう。君のその青い眼は、どの程度見えている?」

「眼?」

「……心当たりがないのなら実際に測ってやろう」



 ギルド長が正方形に折った裏紙に、Cのマークを書き、それをもって数メートルウリュウから離れるとこう言った。


「丸の穴はどっちを向いとる?」


 ウリュウはすかさず答える。


「上です」

「……ならこれは?」

「右です」


 ギルド長が1メートル程さらに下がってから尋ねてくる。


「……これは?」

「斜め左上」

「……見えているのか?」

「見えてますけど?」

「……そんなバカな──」


 

 という感じの視力検査の結果。最後の方はギルド長の汚すぎる文字を解読できずに外してしまったが、概ね視力は良好だという判断を頂いた。



「なにがあったんだ? 君は少し前までど近眼で、それを理由に王都での武術指導をやめ、このベルテ村に来たはずだ。なのに今はしっかり見えとるではないか?」

「なにが? と言われても、俺は昨日からの記憶しかないし、目が覚めた時からずっとこれくらい見えてたし……」



「うーむ……ん? ウリュウ君。君、目の色がなんだかちょっと赤くないか?」

「え?」

「あ、本当だ! ウリュウさんの目、ちょっと赤い。というかちょっと紫っぽい色になってる?」

「なんじゃと!? おぬしら邪魔じゃ! ちょっとどくのじゃ!」

「きゃっ!? ちょっとルナちゃん!?」

「ぬおっ!?」



 ルナが二人を強引に押しのけ、ウリュウの服の首元を掴んで引き寄せた。

 鼻と鼻とが当たるくらいの距離……というか実際に当てながら、ウリュウの目を覗き込んでいる。



 ウリュウはルナの綺麗な顔のドアップと、唇があと1㎝も近付けば当たってしまうことに、思わずドギマギしてしまうが、『自分はルナのお父さん!』と心の中で何度も繰り返すことで、なんとか平常心を保つことに成功した。



「眼球の色素……けかけて、血管が……ている? ……パイア化? いや、それにしては……」



 平常心を保とうとしている間に、ルナがなにかを小声で呟いていたが、ウリュウの頭にはほとんど入ってはこなかった。


「子供にその距離はまだ早いわよ!」



 ちょっと怒り気味のローラがルナをウリュウから引き離した。

 ルナは特に文句を言ったりせず、ブツブツと何かを呟いている。



「ギルド長。俺に冒険者を辞めろと言った理由が、視力の問題だったというのなら、視力に問題がないと分かった俺は、冒険者を続けても良いんですよね?」

「あぁ。うーむ。いやだが、やはり一人と言うのはどうしても不安だ。実際君は記憶がある状態でも事故に遭い、現在は記憶をなくしてしまっているわけだ。不測の事態が起きた時のためにも、ソロでの活動はなるべく控えて欲しいのだが……」

「わかりました。仲間がいればいいんですね?」



「……簡単に言うが、この村でまともに冒険者活動をしておるのはチームドーラくらいなものなのだ。しかしあいつらは兄弟以外を同じチームに入れたがらん。ムスカ発掘隊は遺跡発掘とかいうわけのわからんことにしか興味がない連中だ。君とはそもそもそりが合わんだろう」



「じゃあこの村には、すぐに組めそうな仲間はいない。っということですか?」

「……すまんがそうなる。ここは金になるモンスターもほとんどいない。地方の弱小ギルドでしかないのだ。ソロがダメという規約はないし、わしにはそれを君に強制する権限もない。だが出来ればソロではなく、仲間を見つけて欲しいのだ。規模の小さい弱小貧乏ギルドだからこそ、わしはこのギルドに来てくれるみんなのことを家族のように思っておる。わしはもう、家族が命を落としたという報告は、2度と聞きたくないのだ」



 ギルド長とローラの表情や態度から、ウリュウはこの村の冒険者ギルドに登録していた人の中から、過去に殉死者が出ていたらしいことを悟ってしまったのだ。そしてギルド長がこの冒険者ギルドに登録している者のことを、家族のように思っているというのも、ギルド長の権限を越えてウリュウのソロ活動を止めようとしていることから、おそらくは本心なのだろうという察しもついた。



 ギルド長がウリュウに冒険者を辞めるように勧めたとき、真っ先にギルド長の意見に反対したローラさんも、内心ではギルド長と同じ気持ちなのだろう。今はただただ悲しそうな表情で俯き黙ってしまっている。



 ウリュウはウリュウで、そんな二人の表情を見て、その内心までを悟ってしまい、その後はなにも言えなくなってしまった。

 記憶を失った自分がまたソロで活動すれば、この優しいギルド長やローラさんに心配をかけることになるのだろうと悟ってしまったから。しかし記憶をなくしてしまった自分には、いったいなにが出来るのかもわからない。



 三人の間にしばしの重い沈黙が流れたが、その沈黙は突如として破られた。



「ならば妾がウリュウと一緒に冒険者として活動するのじゃ!」



 満弁の笑みとともに胸を張り、大きく明るい声で放たれた、ルナのこの言葉によって。

ルナのこの提案は通るのでしょうか?

次回ルナは、自らの実力を認めさせるため、とある行動に出ます。その行動とは? そしてそれは認められるのでしょうか?


次回【ルナの実力】をお楽しみ下さい。

次回投稿は12/19を予定しています。

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