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第1話 謎の朝食

第一章スタートです。

 記憶喪失から二日目の朝。

 ウリュウが次に目を覚ました時、辺りはもうすっかり明るくなっていた。

 左の二の腕の辺りに軽い痺れを感じてふと見ると、ウリュウの腕を枕とし、幸せそうな顔でウリュウの方を向いて眠るルナの顔が、そこにはあった。



「ハハ。腕は痺れてちょっと痛いけど、こんな幸せな痛みなら、悪くないな。さて、約束通りルナを優しく起こそうか。ルナ、おはよう。もう朝だよ?」


 ウリュウは、ルナの愛くるしい寝顔を見ながら、ルナの後頭部を撫でながら声をかける。すると、


「ムフフフフ」


 こしょぐったかったのか、ルナの顔が一気にニヤケ、その口からは面白い笑い声が漏れてきた。



「ルナ?」

「……」

「……寝てる?」

「……」



 ルナはどうやらまだ寝ているらしい。寝ていてもこしょぐったいものなのか? と思いながら、ウリュウはもう一度ルナの後頭部を撫でてみる。


「ムフフフフ」


 ルナがまた同じように笑う。どうやらルナは、ルナの頭を撫でるときにウリュウの腕が首にこすれるのがこしょぐったいらしい。


「ムクククク」


 ウリュウが面白がって、今度は首筋を直接撫でると、ルナはクビを縮め、肩で首をガードしてしまった。だがガードはするくせに、一向に起きる気配はない。

 ルナのこんな姿を可愛いと思いつつ、なんだか楽しくなってしまったウリュウは、ルナを起こすという名目の下、起きるまでルナの顔を使って遊んでみることにした。



 まずは『スーウスウ。スーウスウ』と、規則正しい寝息を発している鼻を抓んでみる。すると当然のように鼻での呼吸が停止し、数秒後には口が軽く開き『ひゅーう。ふひゅーう』という音を発する口呼吸に変わった。



 ウリュウは心の中で娘の適応力の高さに称賛を送りつつ、抓んでいた鼻を解放し、今度は下から指で押し上げてみる。いわゆる豚鼻という奴だ。

 豚鼻にしてみても、ルナはやっぱり可愛い。



 次はほっぺたの部分を両手で挟み込んで上下にずらす。

 いわゆるム〇クの叫びと呼ばれる絵画と同じ表情であるが、ウリュウはこの世界に存在しないそんな絵画のことなどもちろん知らない。


「クフフフフ。こんな綺麗な顔でもこうやって崩れると、意外と面白い顔になるもんなんだな」


 調子に乗ったウリュウは、ルナの両方の目尻を人差し指で下に下げ、ほっぺたを親指と中指で左右に軽く引っ張った。出来上がったのは現代で言うところのおか〇納豆のような表情だ。ウリュウはおか〇納豆の存在など知らないので、こちらもたまたまである。


「クハハハハハハハハハ。――あ」


 出来た顔の面白さに、ウリュウがたまらず笑っていると、ルナの顔にとある変化があった。



 ルナの目が開いている。

 ウリュウはとりあえずそのままの状態で、ルナに朝の挨拶を送ってみる。



「おはようルナ」

「おはひょうひゃのじゃヒュリュウ。ひょこりょでこれは、どゅうゆうひょうきょうひゃのじゃ? ひゃぜ妾はヒュリュウにヒョッペタを引っ張ひゃれておひゅのじゃ? ひょれはひゃいみん術でごみゃかひょうとひたびゃつひゃのか?」



 ルナは恐らく、おはようなのじゃウリュウ。ところでこれは、どうゆう状況なのじゃ? なぜ妾はウリュウにほっぺたを引っ張られておるのじゃ? これは催眠術でごまかそうとした罰なのか? と申しております。


「……違うけど、そういうことにしても良い?」

「ひがうひゃらこれはひゃんひゃのじゃ?」


 ルナは恐らく、違うならこれはなんなのじゃ? と申しております。



「うーーーーん。イタズラ?」

「ひゅるひゃんのじゃあ!」


 ルナは恐らくって、あーーーーっ!



  ▽



 父と娘の心温まる和やかな朝のあいさつが終わり、二人は食事をとるために部屋を出る。

 当然、まだ食事の用意が出来ているわけでもないので、家の隣にある厩舎小屋から卵や牛乳を回収するところから始まる。すでに先ほど、今日はウリュウが鶏の卵を回収を行い、ルナが牛の乳を搾って牛乳を回収するという役割分担までバッチリ決めてある。



 ちなみにこの役割分担を決めたのはルナの方だ。

 突然胸がなくなったルナとしては、牛の胸であってもなにか思うところがあったらしい。



 そんなこんなで、二人が小屋に向かおうとして部屋から出ると、


「……なんで朝食がもうあるんだ?」

「な、なんでじゃろうな?」



 ルナは瞬時にその理由に当たりを付けた。



《リム! 今どこにおるのじゃリム!?》

《存在がバレないように玄関横の窓から見える低い木に隠れながら覗いております》

《この朝食はリムが用意したのか!?》

《はい》

《そんなことをしたらリムの存在がバレてしまうのじゃ!》

《あ……》

《どうするのじゃ! このままじゃバレてしまうのじゃ!》

《……シルキーの仕業ということにしましょう》



《シルキーとは家に憑りつく妖精のシルキーのことか?》

《はい》

《どうみてもこの家には居ないのじゃ!》

《誘拐してきます》

《無理じゃ! あ奴らは家に憑く妖精じゃから、家からは離れられないのじゃ! というかシレっと誘拐とかちょっと怖いのじゃ!》

《大丈夫です! 家ごと誘拐してきますので。では行って参ります》

《ちょっ、ま、誘拐とか可哀そ――》



「これってルナが用意してくれたのか?」



 ルナがあげようとしたリムへの静止の声は、ウリュウの質問により遮られ、ルナはリムが風のように走り去って行く気配を感じながらウリュウに応えた。



「………………ち、違うのじゃ」

「なら誰が用意してくれたんだろう? 誰か心当たりはある?」 



 ルナは視線を逸らしながらウリュウに応える。



「ちょ……ちょっと思いつかなのじゃ」

「そうかぁ。うーん。目玉焼きも温かいし、作ってからまだ大して時間は経ってなさそうだけど誰が……。ローラさんかな?」

「……なんであの娘が出てくるのじゃ?」



 ルナの口から発せられたこの言葉は、両社にとって思いのほか低く冷たく、抑揚の一切ない声であり、ウリュウとルナはともに内心で一気に焦る。



 ルナが焦ったのは、ウリュウと仲の良い親子らしい関係になってきたと、今の今まで感じていたのに、先の言い方はまるで夫の浮気を責める嫁のようだったからである。出来たばかりのウリュウとの関係が崩れることを危惧したのだ。



 一方ウリュウが焦ったのは、ルナの不安通り、ルナ()自分()の交友関係……それも女性関係を疑われたかもしれないと思ったからだ。しかもこれから信頼関係を作っていこうとしている段階であるのにもかかわらずだ。

 自分はまだ一度も結婚していないらしいので、浮気などの問題はないが、ルナ()ウリュウ()のその姿をどう思うか? というのは別問題な気がしたのだ。

 子供は道義よりも感情を優先する。



 ルナの先ほどの声音からすると、良く思ってはいなさそうだということだけは間違いない。

 ウリュウは静かに一瞬で精神を統一し、一切狼狽えた様子を見せないように、そして噛まないように気を付けながら、ルナに笑顔で答えた。



「いや昨日ローラさんが、『ウリュウさんは記憶をなくして大変だと思うから、なにか困ることもあるかもしれないし、ちょくちょくお手伝いに顔を出すわ』って言ってたからローラさんが作ってくれたのかな? って思ったんだ。色々考えてみたけど、それ以外でこの状況に対する答えに見当がつかないし」



 ルナもウリュウとの関係を崩さないため、満弁の笑みをその可愛い顔に張り付け、嬉しそうにテーブルの方へとウリュウの手を引っ張りながら応えた。



「そうなんだ? それはともかくとってもおいしそうだね? 冷めないうちに早く食べようよお父さん!」



 心にもないセリフ。昔読んだ小説のセリフをそのまま言ったため、いつもとは違う口調にはなってしまったが、自分の演技自体には自信があった。

 なぜなら昔、ルナの姉であるユエが作るとってもおいしいお菓子は、ルナがユエに可愛らしくおねだりをしなければなかなかルナのために作ってもらうことは出来ず、それを食べるために日夜可愛らしい演技の練習を続けてきた過去があったのだから。しかも今と似たような容姿の頃に。



「そうだな。じゃあせっかくだしいただこうか?」



 この時二人は同時にこう思っていた。

 え、演じ切ったぜぇ。と。


「うん」

「「いただきます」」



 本日の朝食は、殺人蜜蜂(キラービー)の蜂蜜がたっぷり塗られた白パンと目玉焼き、オーク肉のベーコンと搾りたての牛乳である。



「ルナ! このパンすっごくおいしいよ!? 柔らかくて、しかもとっても甘い!」



 子供のように喜びながらパンを褒めるウリュウに、ルナは自慢げにパンの説明をすることにした。



「このパンは白パンなのじゃ。白パンは小麦から作られたパンで、ライ麦から作られる黒パンよりも柔らかいのじゃ。それとこのパンが甘いのは、殺人蜜蜂(キラービー)の蜂蜜がぬられているからなのじゃ」

「へぇ、そうなんだ? 昨日食べた黒いパンがそのライ麦から作られた黒パンってやつ?」

「そうなのじゃ。白パンは黒パンの三倍近い値段がするし、殺人蜜蜂(キラービー)の蜜蜂も高級品なのじゃ」

「そうなんだ? ん? この目玉焼きにかかっている黒い液体はなに?」

「それは醬油というものなのじゃ。それなりに大きな町にでも行かないと、なかなか売っていない調味料で、その醬油と卵の黄身を混ぜて、ベーコンと一緒に食べると絶品なのじゃ!」

「そうなんだ?」



 ウリュウはルナが言うように、その黒い液体と黄身を混ぜ、ベーコンと一緒に食べてみた。


「美味い!」


 自分が好きな食べ方をウリュウに教え、それでウリュウが喜んでくれることを嬉しく思い、ルナのテンションはどんどん上がっていった。



「妾のお気に入りの食べ方なのじゃから、おいしくて当然なのじゃ!」

「そうだね! とっても美味しいよ。ありがとうルナ」

「どういたしましてなのじゃ!」



 ルナは満弁の笑みでそう答えたが、次の瞬間笑顔は凍る。



「こんなおいしい朝食を用意してくれたローラさんに、後でお礼をしないといけないね!」

「そ、そうじゃな。後でほんとにあの者が作ったのかを聞いてみて、もしそうじゃと言うなら感謝しないといけないのじゃ」

「でも、ルナも他に思いつく相手っていないんだよね?」

「……き、きっとシルキーさんの仕業なのじゃ」

「なるほど家妖精さんか……ウチに住み着いていてくれてたら素敵だね」



 ウリュウはルナの、その可愛い発想に笑顔でそう応えたが、ルナにとってはシルキーだろうがゾンビだろうが、いっそリムとバレてももう良いのでは? とすら思い始めていた。



 あの女。自分から見てもそれなりに可愛いあのローラという女の手柄にさえならなければ……。



 ルナにも理由はよくわからなかったのだが、『あの女は怪しい』。ルナの直感はそう告げていた。



 リム、無事にシルキー誘拐を成し遂げることを期待しておるのじゃ! 



 誘拐するなんて可哀想。という考えは、どこかに消えていた。

次回予告

次回はウリュウ達が現在住んでいるベルテ村とはどのような村であり、どのような人が住んでいる村なのか? ウリュウとルナが歩いて回ります。そして2人はローラと会い。朝食の真相を尋ねます。


次回

第2話【ベルテ村】(確)をお楽しみ下さい!


現状、粗原はあと10話くらいは出来ていますので、時間を見て直しながら投稿していこうと思います。


ですので、次回投稿は手直しが終わり次第となります。

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