お金で買えないものがここにあるよ
第一部 錦ちゃんと銀ちゃん
第1章 錦ちゃん
庭の白梅が散り始めたころ、庭先に一匹の可愛い子猫がやってきました。どうも野良のようです。色はというと、全体キツネ色と白が同じくらいの割合で混ざっていました。足は長く器量はまずまずといったところです。猫のことはよくわかりませんが生後半年から1年でしょうか。
その猫は私の方をじっと見ていました。この辺は野良が多いので、いままでも、いろんな野良が庭先まではやってきたのですが、大抵は私の顔を見ると逃げ出してしまいました。しかし、この野良は私の顔をいつまでも見ています。私は試しに餌をやってみることにしました。
家の中から、家猫の餌を取り出し、臨時の器に入れて、その猫より少し離れた場所に餌を置きました。私は遠くからその様子を観察していましたが、その野良はすこし間を置いてから餌の方へ歩き出しました。そして食べたのです。私はうれしくなりました。しかし、私の家には家猫が二匹います。もし、この野良を餌付けしてしまったら、3匹の猫を飼うことになってしまいます。それはそれで大変です。でも、矢は放たれたというより、明日この野良が来ても無視すればそこで終わらせることもできます。すべては私の一存です。
次の日もその野良は来ました。私は迷いました。中途半端な善意ほど相手を不幸にするものはない、止めるなら今のうちだと。しかし、その野良を見ているうちに、どこかで「これもご縁だ」という声がしたようなきがしました。私はその声に押されるようにまた家猫の餌を取りに行きました。今度はおもいきってその猫に近づき目の前に置きました。猫は、一瞬後づさりしましたが、餌の魅力に負けて、私を警戒しながらも全部食べつくしました。
私は、このいきさつを妻に話しました。妻の反対を予想していましたが、意外にも妻は喜び、その猫の顔を見てみたいと言いました。
以上がこの猫との出会いです。この後、6年もお付き合いするとはこの時は思いませんでした。この猫の名前は「錦ちゃん」です。