落として差し上げてよ!
春の風が、花弁を舞い上げ。
幼い魔術師の卵達の門出を、晴れやかに祝福している。
学園の門をくぐる少年少女達の顔は、少しの不安を混ぜながら、その愛らしい頬に朱色を忍ばせ…その瞳はこれからの未来を夢見、キラキラと輝いている。
…入学会場の外で項垂れる、二人を除いて……。
なぜこうなってしまったのかしら……。
「まさか……俺まで入学だなんて……」
隣で、学園の制服を着こんだハンスが何やらぶつぶつと呟いていますわ。
あの白薔薇事件で、魔力が開花した(してしまった)ハンス。大急ぎで手続きをし、無事私と一緒の入学が決まりましたの。
ええ。私が「ハンスと一緒でないなら、私も入学を来年まで引き延ばしますわ! 」っとごねたのが要因ですわ。
焦ったお父様と、私の入学を心待ちにしていたブルーテスお兄様(現生徒会長)。そしてなぜか、王家からの圧力で、無理矢理ハンスの入学が捩じ込まれましたのよ?
流石、悪役令嬢なヴィーちゃん。
使える物は徹底的に利用しますのよ。オホホホホ。
(何故、王家が動いたのかしら?よくわからないわね。)
ハンスの私物は少なかったので、私が寮に入る日を2日程遅らせる事で、一緒に入寮する事ができましたわ。
そして今……私達二人は、入学式の会場の外でボーッと、舞い散るサクラの花弁を見つめてますの。
何故サクラが咲いてるのかですって? そこは、|運営<神>に突っ込んでいただけるかしら。
確か、ゲームのオープニングでヒロインが門をくぐる際に、舞い散っていたからじゃなくて?
ハンスったら、緑魔法の才能があるというのに……このサクラに酔ってしまい、顔面蒼白で俯いてますのよ。
それに……
「ハンス、貴方のその格好……なんというか……新鮮ね」
「似合ってないなら、似合ってないとおっしゃって下さって結構ですよ。お嬢様」
はあぁぁっ。と深いため息を吐き、更に落ち込んでしまいましたわ。
黒い詰襟に赤いライン(学年によって違う)アルファフォリスの制服は……ハンスには似合っていませんわ。オールバックがいけないのかしら? 普段の執事姿が、しっくりきすぎて目が慣れていないせい……そう。きっとそうだわ!
だから元気を出しなさい。ハンス! 卒業までの四年間それだけど、きっと見慣れれば怖くないわ!
っと言ったら、益々落ち込んでしまいましたの。もうっ! 一体どうしろと!?
確かに13歳の少年少女の中に、18の男が混じるのはとても勇気がいると思いますわ。
気持ちはわかりますのよ? 成長前のこどもに混じって、成長しきった大人が学ぶのですもの。渾名が【おっさん】になり得るわよね。きっとなるわ。だけど、大丈夫よハンス。貴方の渾名がおっさんでも、私の愛は決して揺るぎませんわ。安心なさって?
そう慰めたら、いや……それを悲観してるわけでは、なくてですね…というかお嬢様。私の事を【おっさん】だと思っていらしたのですか? っと少し涙目で詰なじられましたの。
……どこかが悪かったのかしら?
一向に復活する様子を見せないハンスに、私は思わず
「何よ。貴方……私と一緒なのに嬉しくないの? 」
っと不貞腐れてしまいましたわ。
アルファフォリスへの入学が決まってからというもの…ハンスの顔色は冴えないのです。私は、一緒に過ごせるという事が、こんなにも嬉しくて仕方がないというのに……。
「……貴女と同学年……というのが嫌なんですよ」
ーはぁああぁあ!?
落ち込む貴方を心配し、励まそうと健気に振る舞うヴィーちゃんを指して、一緒が嫌ですってぇええぇえぇえ!?
思わず首もとに手をかけ、締め上げてしまいそうになりましたわ。物理的にハンスを落とすとこでしたわ!だめよヴィー。ここでハンスをころ……落としたら、私の安心安全まったりendが消えてしまいますわ!
宜しい。ハンス。宜しくってよ。
そこまで貴方が私を嫌がるというのでしたら…私も意地でも貴方を、落として(※恋愛的意味で)見せますわ。
戦争よ。
必ず(恋愛面で)落として、貴方から愛を請わせてみせますわ!