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転生悪役令嬢の前途多難な没落計画   作者: 一花八華
第一章
5/107

★運命ですわ!

「ああっ!やってしまったわ!私ったら……」


 ラベンダー色のメルヘンチックな部屋。レースを天板から吊るされたお姫様ベッド。そのベッドでは、ぼふぼふと顔を枕に埋め、呻く私の姿が……。攻略対象と関わらずに生きようと計画していましたのに私ったら……。


 山猿アレが、オズワルド皇子だなんて私、気付きませんでしたわ……うっかり攻略対象と関わるとは、なんたる失態でしょう!?


 自国の皇子を知らなかっただなんて、ほんと間抜けすぎて言葉もありませんわ!関わりたくなかったから、と絵姿すら見なかった。私が悪いのは重々承知でしてよ!赤毛という時点で気付くべきよ!いえ、最悪の出逢いですもの、寧ろグッジョブ!よくやったわ私!!


 きっとオズワルド皇子の、嫌いな令嬢ランキング1位という、輝かしい功績を成し遂げましてよ!大丈夫!皇子の婚約者ルートフラグはきっちり折りましたわ!


「あー。ほっとしたらお腹が空きましたわ。料理長におやつをせびりにいこうかしら」


 自信を取り戻し、ベッドから這い出ますわ。廊下を過ぎてコツコツと階段を降りる。踊り場にある鏡の前で、ふと立ち止まる。そこに映る金髪碧眼の美少女。自身の顔を見てにっこり笑い頷く。


 右頬には、大きなガーゼ。先日のパーティーでオズワルド皇子に打たれた跡。これは、名誉の勲章ですわ。これひとつで、婚約者フラグをへし折れたのであれば、安い買い物。これこそ、低コストで最コスパな事案ですわ。


「ーっいた」


 ソッと頬に触れ、顔をしかめる。幼いこども同士のトラブル。また、皇子の態度の悪さも目立っていた為、王族に手を挙げた割に大事にはならなかった。後日改めて、謝罪に出向かわなければいけないようだけれども。


 あっちが悪いのに、何故私が!!っと思うものの、相手は王族。この程度で済んで寧ろ恩赦をいただいてる……。乙女ゲームの中といえど、身分差はあるのですわ。寧ろ乙女ゲームだから、この程度で済むのよ。


 などと唸っていたら、

 ーぷっ。

  誰かが吹き出すのが聴こえましたの。


  しまったわ!ここは、自室でなく南階段の踊り場。誰かに見られる可能性が十分あったのに!!


「誰ですの!?私を笑うのは!」


  ここで嘗められては、悪役令嬢たるヴィクトリア・アクヤックの名が廃りますわ!ここは、威圧的態度を取って先制攻撃にでるのが一番ですわね。


  胸元で腕を組み、ふんぞり反って振り向くと階段の隅に腰を下ろしてこちらを見ていた少年が、すまなそうな顔で笑いかけてきた。


「ごめん。覗き見するつもりはなかったんだけど…君があまりにクルクルと表情を変えるから……」


「それが、あまりに可愛くて」


  ふにゃっと微笑みかけてくる、その笑顔。


  踊り場のステンドグラスから溢れる光が、彼のその優しい柔らかな笑顔をキラキラと輝かせ、余りの眩しさに息を飲んで固まってしまいましたわ。


「あの……貴方は?」


  唾をごくりと飲み込みながら、掠れる声でやっと言葉を口にした私に、彼はソッと近寄ると膝を付き囁きましたの。


「俺は、ハンス。今日から君付きの執事だよ。宜しくね。お嬢様」


  片目をウィンクしながら、私の右手の甲にそっと口付けを落とした彼の姿に……胸が大きな音を立て弾むのを感じましたわ。



挿絵(By みてみん)

 

  何これ?


 やだわ?


  息切れ、動悸、目眩。クラクラするわ。

  世界が揺れる。


「お嬢様?」


  彼の声を聴く度に、早鐘が鳴る。


「お嬢様?大丈夫?ー顔がすごく熱いけど」


  そう言って、ハンスの手が私の左頬に触れ、その琥珀色の瞳が、心配そうに私を見つめる。


 ー運命ですわ!!


  ハッとなり、彼の手を握り叫びましたの。


「ハンス!一目惚れよ!私と結婚してちょうだい!!」





◇◇◇



 ヴィクトリア・アクヤックのendのひとつに、執事と結婚した記述があったわ。

 それまで虐げていた執事に、下剋上され無理矢理に婚約。爵位目当ての結婚。愛なんてない悲しいendだったけども……斬首、没落、幽閉、追放endに比べれば平穏無事よね?


 それに私は、その執事(ハンス)に恋してしまったんですもの。


 寧ろこの執事endを目指すべきだわ!願ったり叶ったり!


「運命なのよ。愛してるわ。ハンス。結婚して」


 あれから、7年。私は13歳になりましたわ。


「謹んで、辞退させて頂きます。お嬢様」


 けんもほろろとは、この事ですわね。

 私は、早くハンスの婚約者になりたいのに……。


 何故か、あの俺様王子の婚約者候補になってしまうなんて!

 

 しかも……


「来月には、私……学園に行かなくては行けないのよ?」


 ため息を零し、しんみりと呟いてみる。


 13歳の私は、学園に行かなくてわいけませんわ。ずっと隠していた、魔法の才能がバレてしまったから……。


「ハンス……貴方と離れるのが辛いのよ」


 目を潤ませ悲しみを込めて見つめてみる。


「お嬢様は、その閉塞的な視野を広げて、もっと周りを見るべきだと思いますよ」


 表情を変える事なく返すハンス。ヴィクトリアちゃんの悩殺上目遣いが効かないのも、貴方くらいよね。私ったら、ほんと何故こんなに手強い相手を好きになってしまったのかしら。


「それは、私に他の者に恋をしろって事かしら?」


 不満気に呟くと、ハンスは苦笑しながら話す。


「俺なんかより、もっといい男なんて山程いるのに……お嬢様は、いつまでたっても周りを見ようとしない。それじゃブルーテス様の杞憂もいつまで経っても解消されないんだが」


 珍しく、砕けた口調で話すハンス。私は、ハンスのこういった口調の方が、本当は好きですわ。いつの頃か執事とお嬢様として線を引かれた気がする。ハンスに畏まった態度をとるようになって私は、距離を感じ悲しく思っているのに……。


「お兄様の杞憂って何かしら?私には、ハンス以上に運命の相手なんていないわ。いいわ。ハンス。4年よ。学園を卒業しても、私のこの想いが変わらなければ、私と婚約してちょうだい。結婚は、私が18歳の誕生日に。約束よ」


 そうよ。乙女ゲームのendを、今ここで決めてしまえばいいんだわ。ゲームの期間は、ヒロインが入学して卒業するまでの4年間。


 その間に私は、攻略対象も、ヒロインも避け続け、見事ハンスを勝ち取って見せるわ!


 伊達に7年間、貴方に片想いをしてなくてよ!


「そうですね。ヴィクトリア様が、私と離れて過ごしても……それでも俺を想ってくれるというなら……俺も真剣に応えますよ」


 眉尻を下げながら、柔らかな笑みで私の頭を撫でるハンス。


「何よ!やっぱり今までは、真剣に応えてくれてなかったのね!」


 憤慨する私に、ハンスは、


「あっ。そっちに食い付いちゃうんですか……参ったな……」


 っと口元を抑え、視線を反らしましたわ……


 まぁっ!!歳が離れてるから、やっぱり真剣に取ってもらえていなかったのね!


 いいわハンス、覚悟なさい!私の愛の重さを想い知り慄くがいいのですわ!!




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