ヴィクトリア・アクヤック
私が前世の記憶を思い出したのは、五歳の時。
流行り病にかかり、高熱にうなされ、寝込み、朦朧とする中で、私はゆっくりと前世の情報を消化し私になっていった。
記憶といっても、前世好きだったモノや嫌いだったモノ。ちょっとした知識といったモノで、強い自我があるわけでなく、ウキペディアで誰かの人生をサラッと情報として見るのに近かいものでしたわ。
その情報のひとつに、転生チートや乙女ゲームの知識が残っていましたの。
何度真っ直ぐにとかしても、クルクルクルンと美しい放物線を描き、螺旋状に管を巻く形状記憶機能付きのドリルヘアー。
優しく笑みを讃えてみても、何故かニタリと悪巧みをしているかのような、悪党宜しくな笑顔にしかならない悪女顔。
キンキンキラキラゴージャスパッキン。
きつめつり目なぱっちりおめめ。
色白艶々艶目くお肌。
完全無欠な美少女なのに、威圧的高圧的で、近寄り難いハイスペック侯爵令嬢。
あーこれってもしかして?
っと思った私は、自身の名前を呟き確信しましたわ。
「ヴィクトリア・アクヤック」
前世プレイしたらしい、乙女ゲームのひとつ……その中にいた悪役令嬢の名前だと……。アクヤックと付くくらいですもの・・・ええ。間違いありませんわ!
「悪役令嬢に転生だなんて……面倒ですわねしかも、お決まりの斬首、没落、追放、幽閉endありのご令嬢だなんて……」
攻略対象毎に、様々な不憫endを迎える……働き者で、運営に愛されし悪役令嬢。
どのルートでどのendに至るかまでは、思い出されなかった。そこが重要なのに。この残念ウキペディアめ!
ーはぁ。
熱も下がり、覚醒した五歳の私は、自室のベッドに寝転がったまま思考を巡らした。
美しい彩飾を施された、お姫様ベッドの天板を見つめ呟く。
「せめて、穏便なendを迎えて……まったりとした余生を過ごしたいのだけれども」
シナリオ破壊して、私が攻略対象を攻略?幸せ掴むわ!ヒロインざまぁ!?
いやいや。顔がいいだけで、めんどくさい攻略対象を攻略だなんてまっぴらごめんですのよ。それも私のbadendと隣合わせの危ない橋なんて、渡る気もありませんの。
イケメンな皇子(俺様)、宰相候補(ドS)、魔導師(引きこもり)、騎士見習い(お馬鹿)は、ヒロインが好き自由にご攻略下さいませ。私は私で、安心安全快適な余生ライフを練って練ってねるねるねーるね!ですわ!
そう息巻き、今後の為に私はひとつの決意をする。
ひとーつ!攻略対象には、関わらない!
ひとーつ!攻略対象以外の男性と婚約を結ぶ!
怠け者な私は、働き者な悪役令嬢になんて、なってやらないんですわ!
運営ざまぁ!
オーッホッホッホッホッホ!!
気分が高揚し高笑いをしたせいで、夜中に家族を起こしてしまい、心配をかけてしまった事は、今でも深く反省しております。