★5101回目のプロポーズ
アルファポリスにて連載中です。
一話1500文字(原稿用紙4枚程度)。
白薔薇が咲き誇る、隠し庭園。
其処で優雅に紅茶を啜る、うら若き金髪の美少女と、その側に佇む1人の青年。
逢瀬というには、色気が足りない雰囲気の中。
其処で愛が囁かれる。
「ハンス。私と結婚なさい」
「謹んで、辞退させていただきます。お嬢様」
私は通算 5101回目の求愛を、執事のハンスにぶつける。
私が6歳の頃から、繰り返し告げてきた愛の告白。毎日欠かさず、挨拶のように想いを捧げているというのに、当のハンスはまったく靡いてくれない。靡いてくれないどころか、最近では、返答もバリエーションがなくなり、自動返答器が如く、先ほどの台詞が繰り返されていますわ。
こんなにも、美しく可憐な少女からの求愛だというのに…歯牙にもかけない。・・・・納得いかないわ。少しは、狼狽えたり、頬を染めてくれてもいいのでわなくて?
「貴方は、私の何処が不満なのかしら?」
溜息を混ぜ、恨めし気にハンスを見つめる。
茶色の癖っ毛。人当たりの良い優しい顔立ち。琥珀色の瞳は、甘さと強さを孕み、うっとりと私の心を酔わせる。好きだわ。ハンス。結婚して。
「お嬢様。お戯れはお辞め下さい。貴女はもう13歳。誰彼と愛を囁くのは、淑女のなさる事ではありませんよ?」
少し垂れ目がちな目を、柔らかく緩め、宥めるように私に微笑むハンス。
「誰彼と囁いてなどいないわ。私が愛を囁くのは貴方だけよ。ハンス」
そうよ。未来の夫(候補)に愛を囁いて、何が悪いというのよ。
「それが一番の問題なのです。これまでは、幼い少女の戯言と流されてきましたが……貴女にはもう婚約者様がいらっしゃいます」
「……婚約者候補よ。私はまだ、婚約者なんて決まっていないわ」
「だからこそです」
ハンスは、困ったように眉尻を下げ溜息を溢す。
「皇子の何がご不満なのですか?見目も家柄も、全てにおいて世のお嬢様達の憧れの的ですよ?」
オズワルド第1皇子。赤い燃えるような髪に、緋色の瞳。私より1つ上のその方は、14歳という年齢でありながら、既に王者の風格を持ち、数年後に開花させるであろうカリスマ性を、その尊大な態度と美しい容姿から醸し出している。
「俺様な所が嫌いだわ」
思わず顔をしかめ、溢してしまう。
俺様、何様、オズワルド様!
それがオズワルド第一皇子の代名詞。
私は、あの俺様皇子が嫌いなのですわ。
絶対に好きになりたくない。とある事情からそう心に誓っていますの。
皇子が嫌いって不敬罪?此処にはハンスと私しかいないわ。こんな時くらい、本音を吐き出させて欲しいわね。
「お嬢様。好き嫌いで、王族と婚姻は結べないのですよ?」
「あら?何を言ってるの?ハンス。大丈夫よ。昔ならいざ知らず、今は王族も貴族も恋愛結婚が主流よ?候補というのも、とりあえず早めにお相手をピックアップして、できればその中で想い会う相手を・・・・というお優しい現王様のお心遣いからよ」
でないと、惹かれ合うヒロインと皇子が、婚約者の悪役令嬢を断罪して結婚できないでしょう?そうでなければ、王族や貴族が恋愛結婚重視だなんて馬鹿げた話、有り得ないわ。
そう普通なら有り得ない。でも、それがまかり通るのは、この世界が普通ではないから……。
この世界は乙女ゲームなのよ。小難しい貴族とか王族とかの慣わしや、政治的駆け引き、政略結婚なんて必要ないの。
その事を知っているのは、私だけ。
私は、ヒロインの恋愛のスパイスになる為に存在する悪役令嬢で、皇子はいつか可憐で愛らしいヒロインの手をとり幸せになるの。
私の死と引き換えに。
何か言いたげなハンスを横目に、私は愛らしいピンク色のマカロンをひとつ手に取る。
「私は、平穏無事な余生を過ごしたいのよ・・・・貴方と」
庭を駆ける風に、私のドリルがゆっさと揺れる。
金髪碧眼縦ドリルの完全装備の美少女令嬢。
ヴィクトリア・アクヤック。
斬首、没落、死endを持つ完全無欠の悪役令嬢。私は前世の記憶をうっすら持って生まれてきた。
私は、ハンスと結婚する事で、平穏無事な余生を勝ち取りたいと願っている。
◇◇◇
拙い作品を読んで下さりありがとうございます。
低くても評価いただけると嬉しいです。
感想も励みになります。
閲覧ありがとうございます.+*:゜+。.☆