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ELEMENT 2016秋号  作者: ELEMENTメンバー
セッション・コーラス
8/13

 大発明入りのコーヒー(作:marron)

 今日は大好きなマルオ君と待ち合わせ。

 あんまり嬉しくて30分も早く来ちゃった。だって、マルオ君と待ち合わせができるなんて!

 しかも私、大発明をしちゃったの。ある物質とある物質をある方法で混ぜ合わせて、あることをするとね・・・ふふふ。あの薬ができるってわけなのよー!

 この薬を、飲み物に混ぜて、大好きなマルオ君に飲ませるって寸法よ。

 もうすぐ待ち合わせの時間。さあ、早く来て、マルオ君!

「お、ミワちゃん、早いね~」

 声を掛けられて、嬉しくてパッと振り返った。その私の顔がゆっくり重力に従って落ち着いていくのが分かる。

 ・・・アンタじゃないわ。

「なんだ、ショウジか」

「なんだはねえだろ」

 と言いながら、ショウジは私の前に座った。

 ちょっと、やめてよね。そこはマルオ君の席なのに!そんな私の目線にも気づかずに、ショウジはスマホを見ている。

「お、マルオ、5分遅れてくるってさ。飲み物買っといてだってよ」

「えっ」

 この情報を聞いて、私の胸は小躍りした。

 なんと千載一遇のチャンス、っていうのは大げさかもしれないけれど、チャンスはチャンスよ。これを生かさずして、いつあの薬を使うっていうの。


 あと5分でマルオ君が来る。

 そして、飲み物を買っておく。

 そこに私が、例の薬をタラりと・・・ふふふはははは!やったわ!マルオ君は私のもの!

 ひそかに空中に向かってガッツポーズをしている私をショウジが見ているけど、気にしないわ。

「飲み物買ってくるわ。ショウジ、何飲む?」

 くるりと振り向いて言うと、ショウジが固まりながら口を開けた。

「こ、コーヒー。マルオもコーヒーが良いって」

「おっけ~」

 やったわ。マルオ君の飲み物を私が買ってきていいなんて、こんなことある!?良いのかしらね~、こんな私に飲み物を託しちゃって!


 るんたったとスキップをしながら、学食を出て自販機の前に立つ。

 小さなお盆を持ち、コーヒーのボタンを押すと、変なラテンっぽい音楽がチャラチャラと鳴りながら、自販機の中でコーヒーを豆から挽いて淹れてまっせアピールの映像が流れる。

 できあがりに1分。

 それを3回。

 もうすぐマルオ君が来るわ。そして、このコーヒーを飲むんだわ。

 3つ並んだコーヒーの一番左に、例の薬を垂らす。よし、誰にも見つかってないわね。

 私は何食わぬ顔で、学食に戻った。


 ショウジの待ってる席の前には、もうマルオ君が到着していた。

「うふ」

 嬉しさのあまり、顔がにやけて変な声が出ちゃった。

 おっと、マルオ君があそこに座ってるってことは、この向きのままお盆を持って行ったら、一番左のコーヒーはショウジが飲むことになっちゃうわ。

 私は手元のお盆をくるりと180度回転させて左右を入れ替えた。

 これでよし。今は、一番右にあるのが薬入りのコーヒーね。確認をして顔を上げれば、もう二人のいる席だった。

「マルオ君!おはよう~」

 マルオ君を見つめながら挨拶をしたとき、学食の椅子にちょっとつまずいた。

「あっ」

 コーヒーが波打つ!

 その時、ショウジがハッと駆け寄って、倒れそうになったコーヒーを掴んでくれた。

「お~、危機一髪」

 と言って、コーヒーを片手に一つずつ持って、それをショウジとマルオ君の前に置いた。

 私の手元のお盆には、微妙に位置のずれたコーヒーが残っていた。

 これって・・・どれ?

 あの例の薬を入れたコーヒーはどれだった?

 私は焦って二人のコーヒーのカップを見た。ダメだわ、パッと見じゃ全然わからない。匂いだって普通のコーヒーと変わらないはずだもん。どうしよう。どうやって確かめよう。

 ていうか、あの薬の入ってるコーヒーをショウジなんかが飲んだりしたらすごく嫌!

 もしや、この手元のコーヒーかも知れないし。どうしよう。

 薬入りのコーヒーがどれだかわからないのに、ショウジとマルオ君はカップを持って飲んでしまった。




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