大発明入りのコーヒー(作:marron)
今日は大好きなマルオ君と待ち合わせ。
あんまり嬉しくて30分も早く来ちゃった。だって、マルオ君と待ち合わせができるなんて!
しかも私、大発明をしちゃったの。ある物質とある物質をある方法で混ぜ合わせて、あることをするとね・・・ふふふ。あの薬ができるってわけなのよー!
この薬を、飲み物に混ぜて、大好きなマルオ君に飲ませるって寸法よ。
もうすぐ待ち合わせの時間。さあ、早く来て、マルオ君!
「お、ミワちゃん、早いね~」
声を掛けられて、嬉しくてパッと振り返った。その私の顔がゆっくり重力に従って落ち着いていくのが分かる。
・・・アンタじゃないわ。
「なんだ、ショウジか」
「なんだはねえだろ」
と言いながら、ショウジは私の前に座った。
ちょっと、やめてよね。そこはマルオ君の席なのに!そんな私の目線にも気づかずに、ショウジはスマホを見ている。
「お、マルオ、5分遅れてくるってさ。飲み物買っといてだってよ」
「えっ」
この情報を聞いて、私の胸は小躍りした。
なんと千載一遇のチャンス、っていうのは大げさかもしれないけれど、チャンスはチャンスよ。これを生かさずして、いつあの薬を使うっていうの。
あと5分でマルオ君が来る。
そして、飲み物を買っておく。
そこに私が、例の薬をタラりと・・・ふふふはははは!やったわ!マルオ君は私のもの!
ひそかに空中に向かってガッツポーズをしている私をショウジが見ているけど、気にしないわ。
「飲み物買ってくるわ。ショウジ、何飲む?」
くるりと振り向いて言うと、ショウジが固まりながら口を開けた。
「こ、コーヒー。マルオもコーヒーが良いって」
「おっけ~」
やったわ。マルオ君の飲み物を私が買ってきていいなんて、こんなことある!?良いのかしらね~、こんな私に飲み物を託しちゃって!
るんたったとスキップをしながら、学食を出て自販機の前に立つ。
小さなお盆を持ち、コーヒーのボタンを押すと、変なラテンっぽい音楽がチャラチャラと鳴りながら、自販機の中でコーヒーを豆から挽いて淹れてまっせアピールの映像が流れる。
できあがりに1分。
それを3回。
もうすぐマルオ君が来るわ。そして、このコーヒーを飲むんだわ。
3つ並んだコーヒーの一番左に、例の薬を垂らす。よし、誰にも見つかってないわね。
私は何食わぬ顔で、学食に戻った。
ショウジの待ってる席の前には、もうマルオ君が到着していた。
「うふ」
嬉しさのあまり、顔がにやけて変な声が出ちゃった。
おっと、マルオ君があそこに座ってるってことは、この向きのままお盆を持って行ったら、一番左のコーヒーはショウジが飲むことになっちゃうわ。
私は手元のお盆をくるりと180度回転させて左右を入れ替えた。
これでよし。今は、一番右にあるのが薬入りのコーヒーね。確認をして顔を上げれば、もう二人のいる席だった。
「マルオ君!おはよう~」
マルオ君を見つめながら挨拶をしたとき、学食の椅子にちょっとつまずいた。
「あっ」
コーヒーが波打つ!
その時、ショウジがハッと駆け寄って、倒れそうになったコーヒーを掴んでくれた。
「お~、危機一髪」
と言って、コーヒーを片手に一つずつ持って、それをショウジとマルオ君の前に置いた。
私の手元のお盆には、微妙に位置のずれたコーヒーが残っていた。
これって・・・どれ?
あの例の薬を入れたコーヒーはどれだった?
私は焦って二人のコーヒーのカップを見た。ダメだわ、パッと見じゃ全然わからない。匂いだって普通のコーヒーと変わらないはずだもん。どうしよう。どうやって確かめよう。
ていうか、あの薬の入ってるコーヒーをショウジなんかが飲んだりしたらすごく嫌!
もしや、この手元のコーヒーかも知れないし。どうしよう。
薬入りのコーヒーがどれだかわからないのに、ショウジとマルオ君はカップを持って飲んでしまった。




