四季の木に咲く花 第二話(作:奈月ねこ)
夏の島を出発した幸子たち5人は、次の"秋"を探しに船を漕いでいた。おじいちゃんが示してくれた北西の方向へ。
しかし中々陸地が見当たらない。どこまで漕げばいいのか……。タケシは船旅に飽きてしまったようだ。
「ぼく、もう村へ帰りたい」
それはみんなが思っていることだった。しかし四季の木に花が咲かなければ村はなくなってしまうのだ。
「タケシ、今引き返しても村はなくなってしまうかもしれないわ。それよりも早く次の"秋"を探しに行きましょう」
幸子はタケシを諭すように言いながらも、自分にも言い聞かせていた。早く四季を集めて帰りたいと。
そんなとき、船を漕いでいた父親から声が上がった。
「陸地がみえるぞ!」
みんなで前方を眺めた。だんだんとその陸地に近づくと、小さな色鮮やかな島だとわかった。
「ここが秋の島ね」
久実子が呟いた。
5人は船を島へ引き上げると、島へと上陸した。海から見えた色鮮やかなものは葉っぱだった。
「凄い!この葉っぱは秋よね!?」
幸子が嬉しくて叫ぶと、久実子は袋を広げて言った。
「そうよ。さあ、葉っぱも袋に入れて。他にも"秋"を探しましょ」
またみんなで"秋"を探すことになった。
「どんぐりと松ぼっくり見つけた!」
タケシが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「いいわね。袋に入れて」
久実子は袋を広げた。
「久実ちゃん、私なんだか肌寒くなってきた」
「いいわね。その風も入れましょう」
「え、どうやって?」
「こうやってよ。……ドロン!」
久実子は一際大きく袋を開くと、秋の風がひゅっと袋に入っていった。
「久実ちゃん、凄い!」
幸子は尊敬の眼差しを久実子へと向けた。そんなとき、幸子の両親が森から出てきた。
「秋の野菜があったよ!」
幸子の両親が採ってきたものを次々に袋に入れていく。
そんな中をタケシが走り抜けていく。
「タケシ!"秋"を探して!」
思わず幸子は叫んだ。するとタケシから返答があった。
「赤トンボだよ!これも"秋"だよね!?」
「タケシ、生き物は駄目よ!」
幸子の言葉に反応したのが久美子だった。
「大丈夫よ。タケシくん!指を上に突きだして!」
久美子の言葉通りにタケシは指を突き上げた。すると赤トンボが自分からタケシの指に止まってきた。
「久美ちゃん、あれをどうするの?」
「もちろん袋に入れるのよ」
「生き物を!?」
「大丈夫。ドロン!」
久美子の言葉と同時に赤トンボは袋へ吸い込まれていった。
「し、死んだんじゃない……?」
幸子の言葉に久美子は平然と答えた。
「眠ってるだけだから平気よ」
久美子の言葉に幸子もタケシもホッとした。
と、そんなとき急に雨が降ってきた。みんなで慌てて大きな木の下へ避難した。
「秋雨ね……」
久実子が呟いた。
「え?何?」
幸子は問い返した。
「秋特有の雨のことよ。これも袋に入れないとね」
「え?雨を?」
幸子は夏の島で自分の汗を入れたことも気にしていたのだ。雨なんて入れたらどうなるのか。
「久実ちゃん、雨は無理じゃない?」
「平気よ。ほんの少しでいいんだもの。さあ、さっちゃん、入れて」
「え?私?」
「そうよ。元々私はお手伝いだもの」
幸子は空に向かって手をさしのべた。幸子の手には雨粒がたまっていく。幸子はそれを袋にそっと入れた。
雨はすぐに止んでしまった。その日は森の中で過ごすことになった。でも食糧はたくさんあり、みんなで楽しいひと時を過ごした。
「このブドウ美味しそう!」
タケシが叫んだ。
「そういえばブドウは袋に入れてなかったな」
幸子の父親が呟くと、ブドウを一房取ろうとした。するとブドウの木の枝が震えた。木の幹には顔のようなものも見える。
『私のブドウを採るとは何事か。それに森から作物を持って行ったな』
「ひい!木が喋った!逃げろお!」
幸子の父親は叫んだ。皆もざっと立ち上がった。しかし、ここで逃げては"秋"が集まらない。
幸子は突然ブドウの木が話し出したことに驚きつつも、必死に訴えた。
「うちの村は四季の木の花が咲かないとなくなっちゃうの!だから"秋"を少し分けてください!」
幸子の言葉にブドウの木は耳を傾けていた。そして幸子以外の4人も。ブドウの木は考え込んでいるようだったが、5人の真摯な眼差しを受けて呟いた。
『少しならば持っていくと良い』
「ありがとうございます!」
幸子たちは少しずつ"秋"の味覚を袋に詰め込んだ。
そして次の朝、冬の島へと出発することになった。本当はもっとゆっくりと"秋"を楽しみたかったが、まだ四季集めは終わっていない。少しでも早く集めて村へ帰らなければ!皆も口には出さないものの、そう思っていた。
そして出発しようとして気づいた。どの方面へ船を出せばいいのかわからないのだ。みんなで途方にくれていた時、幸子ははっとした。
「ブドウの木のおじいさんに聞いてみようよ!」
幸子の一言でまた5人は森へと入っていった。そして昨日話したブドウの木の目の前にやって来た。
「ブドウのおじいさん、教えてください。冬の島へはどっちへ行けばいいの?」
ブドウの木は眠そうに目を開いた。そして自身の枝を震わせると、ひとつの方向を指し示した。
『……向こうだ。北だよ』
ブドウの木はそれだけ言うと、眠そうに目を閉じてしまった。
「ありがとうございました!」
みんなはブドウの木にお礼を言うと、早速船を漕ぎだそうとした。そんな時、幸子の頭の上にひらひらと舞い落ちるものがあった。それはコスモスの花だった。まるで"花娘"である幸子を祝福するかのように。
幸子はそのコスモスをそっと"秋"の袋の中へ入れた。
こうして5人は秋の島をあとにした。
次は"冬"を探すために。




