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第3話:吸血鬼という存在

「君は、吸血鬼という存在を信じているかい?」


それは唐突な問いだった。現実味のない"吸血鬼"という単語。

冗談やからかい目的なのかと梓は一瞬考えたが、どうやらそうではないらしい。昴の瞳はいたって真剣だ。そしてその真剣な瞳のまま彼はつづけた。

「信じてもらえないかもしれないが、俺たちは吸血鬼なんだ」

「………はい?」

思わず聞き返した。聞き間違いかと疑ってもみたが"吸血鬼"なんてどうやっても聞き間違えようがない。

(え?何この人、頭がおかしい人なの?)

思わず眉間に皺がよる。そんな梓の反応に昴は苦笑いで少し肩を落とした。

「うん。そうゆう反応だよねー。わかってた。

 …でも本当の事なんだ。そこの壱も勿論そうだし、ここで雇ってる使用人もそう。言うなればここの街のほとんどの人間が吸血鬼という種族なんだ」

「…吸血鬼って、あの血を吸うやつですか? ニンニクとかが苦手で、太陽の光で灰になっちゃう?」

「そう。バンパイアともいうね」

「はぁ…。でも…」

梓が窓の外を見る。今日はどうやら快晴のようだ。その光が窓から差し込んでいるのに吸血鬼と名乗った彼らはピンピンしてる。

「君たちの常識では違うんだろうけど、ほとんどの吸血鬼は人間と同じ生活が出来るんだよ。太陽の元でも活動できるし、ニンニクだって食べられる。まぁ、元々夜行性だからかな? 夜の方が体も軽いし力も強まるんだけどね」

梓の更に深くなった眉間の皺に気づいたのだろう。昴はそう補足をした。

しかし、

「すみません。信じられません」

梓はバッサリとそう言ってのけた。そして続ける。

「貴方の説明は要領を得ません。いきなり父を誘拐犯と言ってみたり、私を作ったと当たり前の事を言ってみたり。壱さんがどうして私の護衛をするのかの説明もない。大体護衛ってなんですか? 私狙われてるんですか? あげくの果てには自分達は吸血鬼だとか言い出して! どこをどうやって信じれば良いんですか! 助けていただいたことには感謝していますが、それとこれとは話は別です」

捲し立てるようにそう言って睨む。昴はそんな彼女に一瞬だけ驚いたような表情をして、そしてすぐに微笑んだ。

「参ったな。人は見かけによらないものだね。そんなに気が強いようには見えなかったんだけど」

「友人にもよく言われます。黙ってれば大人しい良い子で通せるのにねって」

昴はその言葉に今度は吹き出して笑う。

「確かにそうだ! うん。確かにね! あぁ、違うよ。君が大人しそうに見えるとかじゃなくて、いや、大人しそうには見えるんだけど。そうだね、確かにここまでの話を無条件で君に信じてもらおうと思う俺がダメだったな」

「…じゃぁ、どうするんですか?」

「証拠を見せようか。いいかい壱?」

「はい」

昴の呼びかけに壱は詰襟のホックを外しながら前に出た。

「どうぞ」

そう言いながら自分で首元を大胆にさらす。そこに昴はかぶりついた。

映画で見たことのあるような上品な吸血シーンではなかった。捕食という言葉がぴったりと合うような、残酷でいて生きる為には当たり前の行為。蛇がネズミを丸呑みする場面の方が見ている心情的には似ている気がする。

「―――っ!」

梓は思わず息を止めたままその行為を見守る。ゴクリと何度が昴が喉を鳴らすのがなんというか生々しい。

実際は10秒にも満たない時間だったと思うが、あまりにも衝撃的な内容に梓にはもっと長く感じられた。

「ありがとう。壱」

「いえ。今度お返しいただければ」

「勿論だよ」

口の端についた血を拭いながら壱の首元から昴は顔を上げる。ゆっくりと振り返った彼の顔に梓は息をのんだ。一見何も変わってない。しかし、彼の双眸そうぼうは先ほどと違う輝きを有していた。

「…赤い」

「あぁ、目? うん。血を飲んだからね」

そう言っておもむろに鏡台の前に立つ。

「見える?」

「え?」

昴は鏡に向かって手を振っている。しかし彼の姿はその鏡に映ってはいなかった。

「聞いたことある? 吸血鬼は鏡に映らないって。まぁ、この状態じゃないときは普通に映るんだけどね。…それと」

人差し指で優しく鏡に触れる。その瞬間に鏡が一瞬にして割れた。まるで蜘蛛が巣を張ったように。

「この状態だと力も強くなる」

「すごい…」

そういえば彼が梓を助け出してくれた時、あんなに蹴ってもびくともしなかった木箱を彼は素手で破ってみせたのだった。梓はそれを思い出す。あの時はそんなことを気にしている余裕はなかったが、あれは確かに人間の所業ではなかった。

「信じてくれた?」

「………」

素直にYESとは言えなくて黙ってしまう。そんな梓の頭を傍にいた父の大きな手が撫でる。

「その人の言ってることは本当だ。彼らは吸血鬼だよ。私は人間だが、かつて彼らの研究所でとある研究を手伝っていたんだ」

「お父さん」

そして少しの逡巡の後、梓は昴に向かって渋々というように頷いた。

「信じてもらえたようでよかったよ。それでは本題に移ろう」

少し昴の顔が引き締まる。梓もそれに合わせて少し居ずまいを正した。


長くなったので切りました。

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