表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/36

出会う二人、争う二人(1)

 どこまでも広がる草原と、点在する村や屋敷。

 早期の戦争回避によってもたらされる実りの恩恵は、こんな何気ない景色にまで影響を与えている。

 そんな雲一つ無い真っ青な空の下、商業者用の荷馬車同士をすれ違わせてもまだ余裕がある広い街道を、俺は小さな移動馬車に乗せられ移動していた。


 その移動中、師匠に渡された資料を読み進めていく。


 俺と『姫』達四人が住む場所は、この国の中でも辺境な孔神コウガミとの国境近辺。防衛も兼ねている西の城と砦付近が栄えているせいで、こちらは国境警備兵用の砦と村しかない。しかしそのおかげで、緊急事態でもすぐさま兵が駆けつけられる状況を作り出せたのだろう。


 建物は大きな屋敷と小さな小屋。貴族が建てた中で譲ってくれたものらしく、資料を見る限り広さは折り紙つきとも言えた。『姫』達四人が住むには十分過ぎる広さと部屋数がある。

 師匠に呼び出されたのが朝で、出発が昼を回る少し前からだが、今からなら夕陽が射す少し前にはその屋敷に到着できるだろうか。


 資料には、それら住む場所の他にも、今日やって来る『姫』二人と、明日やってくる『姫』二人の情報もあった。


 今日やってくるのは、中央を支配した南の孔神コウガミと、東のミュロイド。

 北の星ノホシノミヤと我が国ルフェヴィリアのお姫さまは、明日の予定になっていた。


 それら『姫』の外見的特徴を文字と絵で記されたそれら情報を一通り読み進め、次に書かれていたのは『換核ヒメア』について。


 それぞれの国が、それぞれの特色を露にした『不全発破マホウ』を扱うために必要なものであり、それは誰か一人の人間の皮膚に埋め込むことで、全国民が発動出来るようになり、逆に誰か一人に埋め込んでいなければ『不全発破』の発動が出来なくなる、言わば力の核。

 予め知っていたそれらの情報が、詳細に書かれていた。


 “王”が導くための存在だとすれば、『姫』は力のための存在だとも言える。そういった内容だ。


「とはいえさすがに、か……」


 それら『換核』についての文書の後に記されていたのは、『姫』達の『換核』が埋め込まれた時期。

 我が国ルフェヴィリアの『姫』以外、つい最近『換核』を埋められた子ばかりだとそこには表記されていた。

 さすがにどの国も、長年『換核』を埋めて守ってきた子を国外に出すような真似はしてこなかったということだ。


 しかしまあ、当たり前と言えば当たり前。

 『換核』を宿すのに別段特別な力は必要ない。

 言い換えれば、町中にいる子供でも十分なのだ。

 故にどの国も、王の親族に埋め込んできたに違いない。

 そうして相続していけば、国が滅びぬ限り力を使うことが出来る。

 王族であれば兵達だって何の疑問も持たず守ってくれる。

 『換核』について極力情報を開示せず守っていくために、これほどうってつけの条件はない。

 おそらく今まで相続してきた子達は、今でも周囲を欺くために偽物を付けているだろう。

 俺だって、この『換核』については師匠から話に聞いていただけで、何かの書物を読んだことはないし、誰が『換核』保持者なのか知りもしない。

 国にとっての力そのものなのだから、むしろ『換核』についても教えないのが一番良いに決まっている。


 ただそれらのことを踏まえ考えると、今までの『換核』保持者から変えたということは、今回来てくれる『姫』達は王族ではないということになる。

 『影陰』を討伐した後に待つ四天同盟計画のための話し合いの際、仲良くなった『姫』達が王族であればより優位に交渉を進めることが出来ただろう。

 それが残念で仕方がない。

 とはいえ、師匠ならその辺も考えて、相手国に今回のような交換条件を提示したのだろうが。


 それにわざわざ『換核』を埋め直すということは、そのやってくる『姫』個人でもそれなりに自衛の心得があるとみて間違いない。

 なんせ相手国それぞれからしてみれば、一緒に暮らす相手となる『姫』達は、敵国ばかりの警戒して然るべき人たちばかりなのだ。

 わざわざ埋め込み変えてまでそんな場所に送り込んだのに、戦闘能力が低い人を選ぶ理由なんてどこにもない。


 まあ、さすがに『影陰かげかくし』の討伐が始まってもいない今に『姫』達が直接何かをしてくることは無いだろうが。

 しかしそれは逆を言えば、『影陰』の討伐がある程度進めばなにか手を打たれるかもしれないということでもあるが……。


「そういう意味では、実質的なタイムリミットは『影陰』の数が減るまで、か」


 それまでに俺の任務である皆を仲良くさせるっていうのを達成できていなければ……この屋敷はそのまま、戦場と化してしまうだろう。

 改めて認識する。

 やはりこれは、責任重大な任務だな、と。


◇ ◇ ◇


 東の港町郡を擁するミュロイドは、現状、その都市機能をほとんど麻痺させている。


 何故ならあの国の首都は、マホウ災害たる『影陰』から逃げるために『不然発破』を使い、大地ごと、城下街を含めた城や宮殿などの首都一帯を空へと避難させているからだ。


 今日やってくるミュロイドの『姫』は、この国から避難させることが出来るのなら喜んで、と四天同盟計画にも大いに賛同した上で、こちらに『姫』を預けてくれたと資料には記されている。

 自国に置いておくよりも他国に預けた方が『換核』の安全が保証されるからだろう。


 ミュロイドはそれ程までに、マホウ災害に対して切羽詰まっている。


 幸いなのは、『影陰』自体が『不然発破』に反応しやすいが故に、そのほとんどが空にある都市の真下に固まっていることだろうか。

 おかげで、他の港町への被害はほとんど及んでいない。


 対し南の孔神は、マホウ災害に対しての被害は現状そこまでではない。

 初めて存在が確認された時に甚大な被害を受けたのが先程のミュロイドと北の星ノ宮で、孔神はその時ちょうど戦場から遠ざかっている時だった。

 そして『影陰』によって二国の軍人がそれぞれ半数以上が減らされた隙に、中央を制圧。その際に相手取った時が最も酷くて、以降は戦争が落ち着いてきたのもありそこまでではない。


 言ってしまえば、今日やって来る二人はマホウ災害に対する認識が真逆な二人なのだ。


 そんな二人が果たして、この屋敷を見てどういった反応を示すのか。


 外観はそこまで古くない。門扉は多少錆びていながらも、二頭引きの馬車は余裕で入るほど広い。入って正面玄関へと続く石畳の左右に広がる庭は、外から見ていても手入れが行き届いているのが分かる。入ってすぐ右手側を曲がれば馬小屋、左手側は倉庫か何かなのか小さな小屋が見える。


「…………」


 ……って、いつまでも初めて見る大きさに圧倒され続けている訳にもいかない。

 ここまで送ってくれた馬車が帰ってからどれぐらい経ったのだろう。

 振り返ってもとっくにその姿が見えなくなっていた。


 いい加減動くべきだろうと、資料と共に渡された鍵群れの中から一つを選び出し、回して鍵を開け、少し重い門を押して中へと入る。


 屋敷・馬小屋・荷台置き場、と道なりに誘導する三方向へと伸びる道の外側にも、キレイな芝生が敷かれている。

 コレと、正面への道を挟むようにある花壇の手入れは、本人たっての希望で北の国星ノ宮の『姫』がやってくれることになっているらしい。


 その色とりどりの花を眺めながら石畳の上を歩き、屋敷への入口に辿り着いてから、中には入らず屋敷沿いに左へ曲がる。

 こちら側から向かえる裏手側に、俺が住む予定となっている離れがあるとのこと。

 確認ついでに、着替えなどの数少ないこの手荷物と、馬車の中で読んでいた資料類も置いておくことにする。


 そうこれからやることを頭の中で考えながら辿り着いたのは、屋敷の影に隠れるかのように建っていた木造の建物。屋敷の半分ほどの高さしかない周辺を囲うようにある垣根の、ちょうど隅にソレはあった。位置的には、馬小屋の対角線上・倉庫の直線上にあたる。大きさは、今日まで住んでいた宿舎よりも少し広いのが外観で分かる程度だ。

 早速とばかりに、再び鍵群の中から一本を選び出し、開けて中へと入る。


 中は想像通りの広さ。

 というか、俺一人では持て余すほどに広い。

 つい昨夜なんてこれよりも狭い部屋を二人部屋として使って眠っていたのに、いきなり一人になった上にこの広さ。常に日光が差し込む気配がないのが欠点だろうが、それでも一兵士が住むには上等だろう。


 正直、かなり気後れしてしまう。


「…………ん?」


 荷物を置き、資料を読み直すかと思ったところで、遠くから車輪の音が聞こえてきた。

 どうやら、今日やってくる『姫』のどちらかが到着したようだ。


 『姫』の外見は全て頭の中に叩き込んである。

 このまま向かっても本人かどうか分かるし、どちらの国の『姫』かも分かる。

 会いに行っても、何の問題も無いだろう。

 思っていた以上に修正が多くて昨日の内にアップ出来なかった。

 一応今日の分は今日の分で投下する予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ