影、沸き起こる(3)
◇ ◇ ◇
『影陰』を倒すには、『不全発破』が必要不可欠。
物理的な攻撃では傷一つ与えることが出来ない。
けれども『唱情術』のような声で発する物理衝撃だけでは弱すぎる。
それに近い『練裂唱』もまた同様で、本来のものとは違う方法を取らなければいけない。
そこで目を付けられたのが『崩色唱』と『強廻唱』の二つだ。
双方共、『影陰』に手痛い被害を受けたからこそ、ソレに対抗できる力を望んだのだろう。
だからこそ、この二つが鍵になるのは必然だった。
だがこの二つの『不全発破』は、範囲や規模や属性によっては共に自然も破壊してしまう。
『強廻唱』に至っては、今は『換核』を介して全国民が能力に制限を掛けられてしまっている程だ。
それ程までに強い『不全発破』では、『影陰』は消えない。
いや、消えたと同時にまた発生してしまう。
故に我が国は作り出した。
それぞれと同盟を結んでいるという利点を生かし、三国の『不全発破』全ての力を利用した『不全発破』――この『五法術』を。
「はぁっ!」
両手に生まれた大剣を振り降ろし、一気に五体の『影陰』を切り伏せる。
着地とのタイミングを他の『影陰』に狙われるが、その場で低姿勢のまま回転して避け、大剣を横薙ぎに振るって一気に十体ほど持って行く。
「おい! お前の得意技はっ!?」
手をかざし、己の周りに蒼く透明の壁を展開することで身を守っていたハルの兄に訊ねる。
「えと……誰かを守ることです!」
「よしっ! 見ての通り!」
飛び上がった際にその姿が見え、もしかしたらそうかも、という考えは持っていた。
そしてそれが当たっていたなら……戦い方も決まっていた。
「なら、俺への攻撃も防げるかっ!? もちろんお前自身を守りながらだぞっ!」
「な、なんとか!」
「最高だ! なら頼むっ!」
これで防御への意識はあまり向けなくて済む。
俺は襲い掛かってきていた『影陰』に向け、大剣突き刺して貫通させた後、そのまま振り回して敵との距離を開けさせる。
突き刺した『影陰』は死に、吹き飛ばした『影陰』に代わりまた敵が襲ってくる。
背後から攻撃が迫っているが無視し、その襲ってきた『影陰』に対処。
背後の攻撃はハルの兄が守ってくれ、襲ってきた『影陰』は扇子を描くよう大きく振り回す一撃で全て朽ちた。
だが……もうそろそろ限界だろう。
ハルの兄がじゃない。
俺の手にあるこの『五法術』で作られた大剣がだ。
尤も、これが無くなり武器が壊れたところで――
「次は……双剣!」
すぐさま次のリールは廻る。
大きな隙を作ることなく武器を決定。
大剣を振り回したその間を縫うように懐へと潜り込んできた『影陰』を、その両手の刃で何重にも斬り捨てていく。
そして――
「次は……槍だ!」
その五十回を消耗しきって十二体――大剣のも含めて四十七体殺したところで次のリールが廻る。
間合いを詰めてきていた敵を粗方倒した所だったので、中距離用の武器として槍を選択する。
……俺が師匠に認められた部分の一つとして、実はこのリールを狙ったところで止められる、というものがある。
しかしそれ以上に師匠は、十一種全ての武器を満遍なく使える、という部分で俺を強く評価していてくれた。
あの人曰く、コレは正に俺のための『不全発破』、らしい。
しかしそれでも、この数を一人でだったらどうにかすることは出来なかったかもしれない。
そう。
一人だったなら、だ。
今ここには、ハルの兄がいる。
彼の防御がある。
なら、出来るかもしれない。
飛び上がった時に見たその数、実に三百もの『影陰』。
それら全ての討伐を。
「次は、片手剣!」
しかしいまだ、百を超える数すら倒せていない。
再び間合いを詰めて来ていた黒の群れを相手取りやすくするために、小回りの利く武器を選択。
それにて再び、黒の波を少しだけ押し返し、距離を開けさせる。
それでも数匹懐へと飛び込んでくるが、それらの単発の攻撃はハルの兄が対処してくれる。
俺はただ、黒の塊に飲み込まれぬよう、けれども的確に数を減らしていくよう、戦っていかなければならない。
「出でよ、大鎌っ!」
八十九匹目を殺したところで、耐久度がゼロに。
リールが廻ったところで次の武器を決定。
「ハルの兄! 結界を解いてでも地べたに這いつくばれっ!」
指示を出し、その指示を聞いてくれたのを見たところで、大鎌に宿った特殊能力を発動。
耐久度を任意に消費し、見えている範囲より間合いを広げ、また『影陰』相手なら強制的に貫通効果を与える。
二十ほどの耐久度を減らし、間合いを広げたところで、今までよりも大きく距離を開けて様子を見ようとしてた全周囲の黒の群れ目掛けて、その大鎌を一周させる。
「次は円刃二刀!」
一周させきる前に耐久度がゼロになってしまい、再び廻ったリールを確認して次の武器を決定。
「ハルの兄! また結界を頼むぞっ!」
見えざる糸で繋がった二つのチャクラムを操作しつつ、周囲の敵を切り刻みながら指示。
この武器の欠点は、この扱い辛さだ。把握しきれないほど耐久度がガンガン減ってしまう。
だがこれで、百六十一体目!
「杖っ!」
再び耐久度を使いきったところで、次の武器。
先程具現化させた大鎌と同じかそれ以上はある身の丈を超えた棒。
それを身体を中心として振り回し、懐へと飛び込んできた『影陰』とハルの兄へと纏わり付こうとしていた『影陰』を、殴って群れの中へと吹き飛ばす。
「そしてまた、大剣!」
百七十四体目を倒したところで再び武器を変える。
そしてこの場へとやってきた時と同様に、ハルの兄に気を遣いながら振り回し、次々と斬り伏せていく。
「再び、大鎌っ!」
だが、そろそろ限界が近い。
ハルの兄がいてくれなければ、とっくにどこかを怪我して、戦えなくなっていたに違いない。
ようやく二百を超えたところで終わりも見えてきているが……こちらの終わりも近い。
……仕方が無い。
イザとなったら、ハルに炎を打ち込んでもらおう。それによってまた『影陰』が出てきてしまうし、せっかくヒメコさんが力を入れようとしていた畑にだって被害が及ぶことになるかもしれないが……炎を目印に、近くの駐屯場にいてくれている兵士が応援に駆けつけてくれるだろう。
でもそんなのは、本当の本当に最終手段。
ヒメコさんを悲しませたくないのなら、取るべき手段ではない。
『影陰』を殺しても自然が回復してくれるからこそ、畑の近くで気兼ねなく戦えているようなもんだ。
それなのに燃やしてしまうなんて、言語道断にも程がある。
くそっ……。こんなことなら応援を呼ぶための『利具』の使い方をユイカちゃんかキリナちゃんぐらいには教えておくべきだった。
まさかこんなに早く『影陰』と戦うことになるなんて――
――いや、ちょっと待て。
この、『影陰』はなんなんだ?
いや、『影陰』に異常は無い。
それこそ普通の『影陰』だ。
問題は、どうして現れたのかということ。
別の武器を作り出し、敵を倒しながらも、思考していく。
何か大きな見落としを、してしまっている気がして……。
……確か、ハルの兄は言っていた。
自分は昨日、訪れていないと。
なら、昨日やってきたあの侵入者は?
ハルの兄が嘘を吐いていないとなると、それは確かに侵入し……この小屋だった場所に降り立ったということ。
そして都合よく、この場所に『影陰』が現れた。
壁を溶かして自然を破壊する――いや、壁を溶かされ自然を破壊されることによって。
つまり、この『影陰』は……囮だ。




